森林総合研究所 所報 bV3・2007-4
 
巻頭言

ものからこころへ
−理事長就任の挨拶に代えて−
理事長  鈴木 和夫
鈴木和夫理事長
  最近、専門外の本を読む時間がふえました。森林太郎が鴎外の本名であることを知らない学生は愛嬌としても、明治時代の文豪漱石を知らない人はいないでしょう。吾輩は猫である、名前はまだ無い、で始まる「吾輩は猫である」では、漱石は教養(知)と財力(経済)を対比させ、巧みに世相を諷刺し、空前の人気を得ます。当時は明治37・8年の日露戦争の時代で、丁度森林総合研究所が産声を挙げた百年前ということになります。そして、この一世紀の間に、科学技術、すなわち「もの」は、目覚ましく発展しました。勿論、森林総合研究所も「もの」の究明に多くの成果を挙げました。一方で、20世紀後半には地球規模で無視できないほどの外部不経済が顕在化し、生物資源として量的にも質的にも巨大で複雑でものを言わない森林が注目されるようになりました。そして、21世紀を迎えて「もの」から「こころ」の時代が謳われています。ノーベル賞受賞の江崎玲於奈氏は「時には踏みならされた道を離れ、森の中に入ってみなさい。そこではきっとあなたがこれまで見たことがない何か新しいものを見いだすに違いありません」という19世紀のITの淵源というべきA.G.ベルの言葉をたびたび引用します。すでに、紀元前4世紀にはプラトンは弟子たちの教育をアカデモスの森で行いました。そして、アカデミーの語源となりました。今年2月には「美しい国創り」の一環として「美しい森林づくり」の関係閣僚会議が始まりました。「美しい森林」は如何にして創り出すのでしょうか。「地球環境・人間生活にかかわる森林の多面的な機能」(2001年)は本当に国民に理解されたのでしょうか。そして、観念的に示されたその実体は定量的には評価されたのでしょうか。「もの」は「構造」があって「機能」があるのですが、21世紀には苦沙弥先生流に「知の世紀」に対処する業も必要でしょう。辻 健治林野庁長官は、新年度の庁議で「今年は実行の年」と位置づけられました。森林の多面的な機能の発揮を目指すことが森林・林業基本法に掲げられ、森羅万象を研究対象とするわれわれにはこれ程追い風の時代はないと思われます。再生可能な生物資源の利活用を標榜し、科学と技術と産業が連携して生き抜かなければ明日のない今日であることは勿論ですが、知の世紀といわれる時代に、国民に理解されるさらにこころを開いた森林総合研究所を目指したいと思います。

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