森林総合研究所 所報 bV4・2007-5
 
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研究プロジェクト
脆弱な海洋島をモデルとした外来種の生物多様性への影響とその緩和に関する研究」の紹介
企画部研究企画科長    大河内 勇
 
1.はじめに
  太平洋には東はガラパゴスから西はミクロネシア、小笠原まで、一度も大陸と陸続きになったことのない海洋島がたくさんあります。これらの島々では、気流や海流に載って、ごく稀にたどり着いた生物が、様々な形態の多くの種に進化(適応放散)しました。それをガラパゴス諸島で観察したダーウィンが進化論の構築に至ったのは有名です。
  ところが、この進化の実験場とも言える海洋島の生物は急速に絶滅に向かっています。その主要な原因は、外来生物の影響です。独自に進化した海洋島の生物相は脆弱なのです。本プロジェクトの目的である、外来種が生態系に及ぼす幅広い影響の解明とその緩和手法の開発について、外来種の影響の最も著しい小笠原を舞台に研究しています。その一部を紹介します。

2.昆虫と花とグリーンアノール
  在来の植物と在来のハナバチは小笠原で独自に進化しました。そこに、戦前に外来生物セイヨウミツバチが導入されましたが、在来のハナバチは1970年代までは普通に生息していました。ところがその後、在来のハナバチは急速に減少してしまいました。その原因は当時急速に増えた北米原産の樹上性のトカゲ、グリーンアノールでした。グリーンアノールは花の所で待ち、在来ハナバチなど訪花昆虫を片端から食べてしまいます。しかし、セイヨウミツバチなど、大型で有毒なハチは捕食しません。
  在来の訪花昆虫が激減した結果、数種の花では、結実率が低下していました。一方で、外来種セイヨウミツバチはあまり捕食されないため花粉媒介者として機能しています。もし、外来種だという理由でセイヨウミツバチを駆除すると、結実率はさらに低下すると思われます。ですから、まずグリーンアノールを駆除して在来のハナバチを復活させてからでないと、セイヨウミツバチは駆除すべきではありません。外来種への対応も生態系への影響を考えながら行わねばならない一例です。

3.小笠原から流れを変える
  小笠原では多数の外来種が生態系に組み込まれているため(図)、このように一種の外来生物対策の視点からは正しいと思えることが、実は他の外来生物の視点では間違っているということがこの他にもたくさんあります。これこそが外来生物が複雑に入り組んだ海洋島の生態系の自然再生上の問題であり、解決するべき課題なのです。そのため、本プロジェクト研究に参画している独法、大学、博物館、財団法人、NPOの研究者で連携を図るだけでなく、広く小笠原を研究する研究者が相互のネットワークを作って意見を交換し、海外の海洋島の研究者を招聘して意見を求めて、思わぬ落とし穴に陥るのを防ごうとしています。また、国有林、環境省、東京都、小笠原村など行政の各種事業の検討委員会にも、私たちのメンバーが多く参加しています。私たちの研究成果を行政に反映させていただき、小笠原での成功例を作ることが、太平洋諸島の生物多様性保全の流れを変え、小笠原を世界遺産にふさわしい地域にすると頑張っているところです。
 
図 小笠原における外来種と在来種からなる生物群集
図 小笠原における外来種と在来種からなる生物群集
ここに記述した全ての種がいる島はない。メグロを除くと、1970年頃の父島の状況に近い。
しかし、オガサワラハンミョウは当時既に絶滅、オガサワラシジミ、固有トンボ類は
その後父島からは絶滅したと考えられている。


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