森林総合研究所 所報 bV8・2007-9
 
巻頭言

IPCC第4次評価報告書から
研究コーディネータ    石塚 森吉

石塚 研究コーディネータ  今春、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書が3部会から相次いで公表されました。第1作業部会報告書は、ここ50年の温暖化の主な原因は「人間が排出した温室効果ガス」であるとほぼ断定し、今世紀中の温度上昇は1.8℃(排出量が少ない社会)〜4.0℃(排出量が増加し続ける社会)に達すると予測したことが、マスコミで大きく取り上げられました。今夏の暑さで、せめて1.8℃の上昇に抑えないと大変だと実感(?)したのは、私だけではないと思います。
  地球の平均気温がどのくらい上がると何が起きるのかということは、第2作業部会報告書にまとめられています。1〜2℃の上昇では、熱帯性感染症の拡大、地域的な水不足の拡大と森林火災の増加等が懸念されていますが、高緯度地帯では逆に利用できる水が増え、穀物生産性が向上することを予測しています。上昇が1.5〜2.5℃を越えた場合は、植物・動物種の約20〜30%が絶滅のリスクに直面、さらに、3℃以上の上昇では、世界の沿岸湿地の30%が消失し、最大40%の陸上生態系で炭素の放出量が吸収量を上回るようになる可能性が高いことなどを予測しています。これらの予測からすると、2℃程度の上昇に抑えないと大変なことになりそうです。なお、この報告書には、日本のブナ林の分布適域が100年後には大幅に減少すると予測した、森林総合研究所の研究が紹介されています(研究の森からNo.144を参照)。
  排出削減のための方策(緩和策)は第3作業部会で検討され、エネルギー、運輸、建築、産業、農業、林業、廃棄物の各部門を対象に、2030年までにさらなる削減を可能とする緩和策のポテンシャルとコストなどを報告しています。森林総合研究所からは、林業部門の主執筆者に松本温暖化対応推進室長、さらに数名の専門査読者が加わり、大いに貢献しました。林業部門の緩和策は、(1)森林面積の維持・増加、(2)森林蓄積の維持・増加、(3)木材製品の活用(炭素蓄積の増加、高エネルギー材料や化石燃料の代替)等ですが、緩和ポテンシャルの6割以上は熱帯地域にあること、とくに森林減少を防止して森林破壊による排出を削減することの効果が大きいとしています。これと対照的に、日本は人工林化が進み、これ以上の吸収量増加の余地は少ないため、吸収量維持のための森林管理とバイオマスエネルギーの利用が潜在的な緩和策です。
  林業部門の緩和策は、他の部門に比べ低コストであること、さらに、適応策(気候変化を予測した樹種の選択、台風や津波に備えた海岸林の造成など)や持続可能な森林経営と組み合わせて、リスク軽減、環境保全、経済効果等の相乗効果を生み出すことができる利点を持っています。したがって、林業による緩和策と適応策、さらに持続可能な森林経営を適切に組み合わせる−このような研究をわが国並びに海外の荒廃地で展開する必要があると考えています。


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