森林総合研究所 所報 bV9・2007-10
 
巻頭言

わかりやすい研究
東北支所長    藤田 和幸

藤田 東北支所長  わが国はこれから過疎と高齢化の時代を迎えます。官邸主導のイノベーション25戦略会議がまとめた戦略指針にも、現在、そしてこれからの20年の最も大きな潮流は「日本の人口減少・高齢化の急速な進展」で、過去に経験のない新たな潮流であると記されています。それに対しては、女性や高齢者の活用と生産性の向上で競争力低下を食い止める、と端的に言えばそういう方針です。女性の活用に関しては、森林総合研究所の提案が採択された文部科学省科学振興調整費・女性研究者支援モデル育成も、制度自体、国としての危機感の表れと理解できます。それを受けて森林総合研究所では、職場における様々な現実をにらみながら、プロジェクト期間中、そして終了後も、家族責任をもつ職員を応緩するしくみを試行錯誤で模索することになります。
  さて、東北支所が担当する東北6県は、国立社会保障・人口問題研究所の推計では、これから20年で、人口は14%減少するのに、65歳以上の老人は今より25%も増加する見通しで、いずれも全国平均より高い数字となっています。この推計は、出生、死亡、移動の現状を将来にあてはめる手法ですので、結果を裏返してみれば、日本全体ではこれからであっても、東北はすでに移動によって過疎、高齢化の流れを突き進んでいると理解できます。東北支所に実習や見学で訪れる地元の中・高生に希望を聞くと、ほとんどの生徒から地元で職に就きたい意向が述べられます。しかし、地元での求人は少なく、一方首都圏からのお誘いは活発な現実で、流出傾向がこれまで以上に強まれば、人口減少率、高齢化率はさらに高まります。
  高齢化が進展した社会では、既存の高齢者をとくに意識していないシステムは使えなくなりつつあります。また、経験と体力がものをいう山仕事ができる人はだんだん少なくなって、経験が(少)ない人間を、ボランティアであれ、ビジネスであれ、都市部から呼んで、地域を保全する試みも始まっています。このように、高齢者と他所の人が担い手となるのですから、たとえば森林管理にかかわるマニュアルひとつをとっても、それらの人々にとって、書いてあることが理解可能なだけではなく、実行可能なことが書いてないと、活性化にはつながりません。研究者はこれまで、研究成果を「わかりやすくアピール」することをうるさく求められて、自分自身も含めて、多少なりとも反発してきましたが、「わかりやすさをアピール」できる成果につながる研究が、ヒタヒタと求められるようになりましょう。                        .
  「農学栄えて農業滅ぶ」という主張とか、「現場の不合理さ」と「学問の非現実さ」の論争とかは以前からあったわけですが、ここに来て過疎社会で「使えない」落とし穴にはまることは、持続可能性にモロにひびくことになろうかと思います。とくに過疎地域の支所では、こういう問いかけに遭遇する確率が高まります。自分の研究の成果の行く末について、時に思いをはせながら研究することが支所の研究者らしさということかも知れません。


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