森林総合研究所 所報 bV9・2007-10
 
プレスリリース2 ◇小笠原諸島西島で外来種のクマネズミを日本で初めて根絶へ
    〜外来侵入種対策へ光明〜

 
◇小笠原諸島西島で外来種のクマネズミを日本で初めて根絶へ  〜外来侵入種対策へ光明〜
       (平成19年9月13日にプレスリリースを行いました)
 
   森林総合研究所と(財)自然環境研究センターは、小笠原諸島の貴重な生物に被害を与えるなど大きな問題となっている外来種のクマネズミの根絶を目ざし、他の動物が殺鼠剤(さっそざい)に近づけない餌台を利用した生態系に影響の小さい駆除方法を開発しました。同諸島西島において全島規模の駆除を行った結果、現在までクマネズミの生存を示す証拠はなく、きわめて少数の個体を残すのみか、根絶されたものと見られます。今後の調査で根絶が確認されれば、日本初の画期的事例であり、同様の問題に悩む小笠原の島々での根絶に向けて重要な第一歩になると期待されます。この研究の内容は9月15日に開催された日本哺乳類学会で発表されました。


【背景説明】
  貴重な固有動植物の宝庫、小笠原諸島は世界自然遺産の候補ともなっています。しかし人間によって、小笠原にはもともと存在しなかった様々な種が外から持ち込まれたため、多くの固有生物がその影響で減少や絶滅の危機に追い込まれています。クマネズミ1)(写真1)は国際自然保護連合(IUCN)によって「世界の外来侵入種ワースト1002)」の一つに選ばれているほど生態系への影響が強い生物です。小笠原でも多くの島に侵入し、東島では海鳥の一種のアナドリや、環境省のレッドリストで絶滅危惧II類(絶滅の危険が増大している種)にランクされているオーストンウミツバメを捕食するなど、深刻な被害をもたらしています。クマネズミは繁殖カが強く、数を減らすだけではすぐ個体数が回復してしまうため、有効な対策のためには島から根絶することが必要です。国外では島嶼で外来ネズミ類の根絶事業が広く行われていますが、日本では生態系の回復を目的に根絶を試みた例はありませんでした。

写真1 クマネズミ(体長約15cm)
写真1 クマネズミ(体長約15cm)


【成果】
  小笠原諸島の無人島である西島(面積はおよそ0.5km2)を対象地域に選びました(図1)。西島では固有種の樹木種子がクマネズミに食い荒らされ、次世代が育ちにくくなるなど、深刻な影響が出ています。その個体数は全島で約2500頭と推定され、ワナだけでの根絶は不可能な状況であることは明らかです。そこで私たちは、ネズミ以外の動物が殺鼠剤(ダイファシノン製剤3))に近づけないようなT字型の餌台(写真2)を開発し、これに殺鼠剤を入れることにしました。2007年3月、西島全島に主にこのタイプの餌台を約800個配置し、殺鼠剤を継続的に施用したところ、最初はクマネズミに食われて減っていた餌が約2週間後にはほとんど減らなくなり、クマネズミの活動痕跡も見られないことから、ごく少数の個体を残すのみか、根絶された可能性が強いと判断されます。今後、生息調査を慎重に行い、根絶の確認をしていきたいと考えます。根絶していれば、わが国で最初の成功例となります。

図1 西島とその周辺
図1 西島とその周辺

写真2 殺鼠剤用の餌台(スケール10cm)
写真2 殺鼠剤用の餌台(スケール10cm)




【成果の活用方法】
  私たちは西島で、このあと動植物相や生態系がどのように変化し回復してくるか、クマネズミの駆除がもたらす効果を調べることにしています。クマネズミは小笠原諸島の多くの島に侵入し、様々な問題をもたらしています。クマネズミの根絶はそうした問題の解決に大きく貢献できるでしょう。しかし、たとえ外来種とはいえ、ある生物を根絶するにあたっては生態系や他の生物に対する十分な配慮と共に、関係者や地元住民の方々の理解と同意が必要なことは言うまでもありません。この根絶作戦にあたっても、小笠麻の皆さんには様々な方面でご協力を頂いています。そうした配慮を続けつつ、今回開発された方法の有効性が確認されれば、他の無人島でも有効に利用できると思われます。  


【本成果の発表】
  日本哺乳類学会(19年9月15日、東京農工大学府中キャンパス)にて発表(自由集会「島嶼における外来ネズミ類のEradication−小笠原西島におけるクマネズミ根絶計画からの報告−」)
  本成果は、(財)自然環境研究センターと共同で、環境省公害防止等試験研究費「小笠原諸島における帰化生物の根絶とそれに伴う生態系回復過程の研究(H17〜21)」により遂行されたものです。


【用語解説】
1)クマネズミ
  げっし目ネズミ科の哺乳類。原産地は東南アジアですが、人間活動によって世界中に広まっています。

2)「世界の外来侵入種ワースト100」のウエブサイトを参照してください。
 http://www.iucn.jp/protection/species/worst100.html

3)ダイファシノン製剤
  抗凝血性の殺鼠剤(登録農薬)。ネズミ以外の哺乳類、あるいは鳥類や無脊椎動物に対する毒性はきわめて低く、環境中での分解も速く残留しにくい特長があります。
 

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