森林総合研究所 所報 bW1・2007-12
 
プレスリリース ◇森林は大気中の鉛を捕捉するフィルターの効果を持っている

 
◇森林は大気中の鉛を捕捉するフィルターの効果を持っている
        (平成19年10月23日にプレスリリースを行いました)
 
   森林総合研究所では、大気中に浮遊する有害な環境汚染物質である鉛を森林が捕捉して外部への流出を防ぎ、環境浄化に役立っていることを明らかにしました。
  重金属である鉛は様々な人間の活動により大気中に排出されていますが、人間や動植物に有害な物質であるため、その挙動が注目されていました。今回、関東地方のスギ林の樹木と土壌中の鉛を観測したところ、大気中の鉛は降雨により森林に降り注いだ後、樹木および土壌の表層にのみにとどまっていることを明らかにしました。これは、森林の土壌が鉛を直接捕捉しているのに加え、樹木の根から吸収された場合には葉や枝に蓄積し、落葉等によって鉛が再び土壌表面へ戻る経路を繰り返すことで、森林からの鉛の流出を防いでいることを示しており、森林の環境浄化機能が科学的に証明されたことになります。
  なお、鉛の蓄積にともなう森林の動植物への影響や、将来における森林土壌表層における鉛の挙動などについても今後研究を進める予定です。

【大気にもたらされる大気中の鉛】
  20世紀後半、鉛はガソリンの添加剤として大量に使用され、排気ガスとともに大量に大気中に排出されていました。日本はいち早くガソリンの無鉛化の対策を実施しました。それにより大気中への鉛の排出量は減少し、鉛による大気汚染は解決したと思われていますが、現在でも様々な人間活動に由来する鉛が大気中に排出され続けています。そして、大気中に排出された鉛は降水等で森林にもたらされます。
  鉛は生物にとって少量でも有害な物質であり、また、一度環境中に排出されると長期間環境中にとどまる物質として知られています。そのため、環境中での鉛の挙動や河川への流出などを明らかにすることが必要です。
  鉛は質量数の異なる4種類の同位体を持ち、その組成比の違いにより起源や発生源の違いを推定することができます。日本の大気中に含まれる鉛の組成比が、日本の地質(鉱物)に含まれる鉛の組成比と異なることから、森林生態系に存在する鉛が大気からもたらされたものか、もともと現地に存在していたものかを区別することができます。

【大気中の鉛に対する森林のフィルター効果】
  私たちは、関東地方のスギ林において降水、土壌、樹木中に含まれる鉛の安定同位体比を分析し、大気からもたらされた鉛は樹木(幹、枝、葉、樹皮など)および土壌の表層(0〜10cm程度の深さ)にのみ存在し、10cm以下の深いところでは見られないことを明らかにしました。このことは、これまでに大気中に排出され森林にもたらされた鉛が、森林の土壌表層で捕捉され蓄積していること、さらに、樹木が土壌中の鉛を吸収し、葉や枝を林床に落とし、鉛が森林内で循環していることを示しています。すなわち、森林は大気や降水に含まれる汚染物質を捕捉するフィルターの効果をもち、大気からもたらされた鉛の土壌下層への移動や河川への流出を防いでいると言えます。樹木と土壌が一体となった森林全体で、環境浄化の機能を発揮していることが科学的に証明されたことになります。

  なお、森林に蓄積された鉛などの環境汚染物質が動植物へ悪影響をおよぼしたり、蓄積した汚染物質が今後河川へ流出する可能性も考えられます。今後は、森林に捕捉された鉛の挙動などについて研究を進める予定です。

【本成果の発表論文】
  タイトル:Estimation of lead sources in a Japanese cedar ecosystem using stable isotope analysis
  (安定同位体分析を用いたスギ林生態系における鉛の起源の推定)
  著者:伊藤優子、野口享太郎、高橋正通(立地環境研究領域)、岡本透(木曽試験地)、吉永秀一郎(立地環境研究領域)
  掲載誌:Applied Geochemistry(応用地球化学、イギリス)
  巻号(年):22巻(2007年)




図1  スギ林の降水、樹木、土壌に含まれる鉛の安定同位体比の比較

 図1  スギ林の降水、樹木、土壌に含まれる鉛の安定同位体比の比較
 *鉛には質量数が204、206、207、208の4種の安定同位体があります


 

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