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更新日:2010年6月1日

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自然探訪2007年10月 ハナノキ

ハナノキ(Acer pycnanthum K. Koch)

日本人にとって、紅葉を愛でることは、昔からの秋の風物詩である。紅葉する樹木の中で、ひときわ目立つのはカエデ類で、文字通り“もみじ狩り”となる。日本には20数種のカエデ属種があるが、中でもイロハモミジやハウチワカエデが鮮やかに紅葉するところから、その代表格となる。ところで、江戸時代初期、「養生訓」で有名な貝原益軒により記された日本初の植物図鑑「大和本草」に「花カエデ」が記載されている。花カエデとは、ハナノキのことで,早春に咲くその花や成熟過程の果実が鮮やかな紅色を呈するところから、この名がついたとされる(写真1)。ところが、このカエデ、その存在は認められていたものの、大正期まで長らくその自生地が確認されてこなかった。かの牧野富太郎をして、外国からの移入種とさえ断じていた。

ハナノキの紅葉もまた鮮やかな赤を呈し、他の樹木が紅葉した林の中にあっても際立って目立つ存在である(写真2)。しかし、ハナノキはどこにでも見られる樹木ではない。その本来の分布は、岐阜県と長野県の県境にある恵那山を中心とする半径50kmにほぼ限られ、長野県大町市の居谷里湿原にも隔離分布する。また、ハナノキの自生地の多くは、天然記念物に指定され、また、生育場所の縮小や個体数の減少から、現在、絶滅が心配される絶滅危惧植物II類に指定されている。ハナノキが属するハナノキ節は、全世界でわずか3種、ハナノキの他、北米大陸に2種(Red mapleとSilver maple)分布するのみである。他のカエデ類と異なり、種子を初夏に成熟散布する特徴を持つ。ハナノキ節のカエデ類は、新生代第3紀、北極周辺が温暖な時代に、その地域に広く分布し、その後の氷河期を経て、現在は北米大陸と日本列島に分布するのみである。北米に分布する2種は、絶滅危惧種ハナノキとは異なり、東部地域に広く分布する普通種で、中でもアメリカハナノキ(Red maple)は、人為的な撹乱によりその分布域を広げている。一方、日本のハナノキは、東海丘陵を中心に、湧き水湿地や高層湿原周辺など湿性な立地に依存的に成育し、更新もままならない。

ハナノキの紅葉は見事である。葉の裏表の赤白のコントラストは、落葉後、地面を敷き詰め、美しい冬枯れの風景の一部となる(写真3)。

写真1:ハナノキ
写真1


写真2:ハナノキ
写真2


写真3:ハナノキ
写真3

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