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更新日:2010年7月1日

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自然探訪2009年10月 シラカシ

シラカシ(Quercus myrsinaefolia Blume)

茨城県常陸太田市にある戦国大名佐竹氏ゆかりの佐竹寺、その墓地の中に胸高直径が1m以上もある巨大な常緑樫がある(写真1、2)。シラカシである。シラカシは、ブナ科コナラ属に属する高木性の常緑広葉樹で、東北南部から九州地方の暖温帯に広く分布し、樹高20m以上、胸高直径1mに達するとされる。山口県萩市川上地区には幹周り9mの日本最大のシラカシが存在するが、佐竹寺クラスのシラカシもなかなか見ることは出来ない。それは、シラカシが通常50~60cmで幹に腐れが入ってしまい、なかなか大きくはなれないためである。

 

一方、シラカシを巡っては、過去、様々な論議がされてきた。北関東の平野部では、社寺林に比較的まとまったシラカシ林が見られ、また、旧薪炭林やアカマツ林下にも多数の更新木が見られるなど、シラカシはごく一般的な樹木で、この地方の潜在自然植生の中心をなす樹木と言われてきた。一方、この地域に残存する自然度の高いシイ・カシ林において、シラカシは、なぜか個体数、優占度とも低く、大径木も見られない。こうした森林では、むしろウラジロガシやアカガシ、アラカシが優占する。こうしたことから、北関東のシラカシは実は人為的に植栽され、その後、自然に更新拡大し、今日の広域分布に至ったのではないかとの説である。実際、シラカシは、その硬くて丈夫な材質から、武具や農耕具などに広く利用され、また、北関東の厳しい冬の季節風から家屋敷を守る生垣として植えられてきた(写真3)。北関東におけるシラカシの分布が全て人為によるものとは言えないだろうが、シラカシの分布拡大に人の関与があったというのも間違いないだろう。では、いったいシラカシはどのようにして、その分布を拡大出来たのだろうか?その理由として、三つほどの生理・生態的な特徴が挙げられると思われる。すなわち、種子繁殖における早熟性、比較的高い耐陰性、そして高い萌芽性である。小型軽量(写真4)だが、若い時期からの年変動の少ない大量の種子生産は、シラカシの分布拡大に有利に働くし、発生した実生は高い耐陰性のために生き残る確率が高くなる。また、いったん定着したシラカシは、その後に伐採・利用された後も容易に萌芽更新し、個体を維持することが可能で、その個体からさらに種子生産がなされ、種子が散布され、分布の拡大につながっていく。

北関東は、暖温帯から冷温帯への移行帯に位置し、この地域に分布するシイ・カシ林は、頻繁な伐採などの人為的な撹乱にあうと、落葉広葉樹林へと推移する。クリ・コナラ林などに代表されるこの地域の旧農用林、旧薪炭林は、その典型的な例である。ところが、こうした二次林が今、徐々にではあるがシラカシ林へと推移しつつあるという。そして、その傾向は平野部で強まっているように思われる(写真5)。なぜ、シラカシなのか?その背景に、圧倒的な種子の供給源があるように思われる。


 

写真1佐竹寺のシラカシの巨木
写真1 : 佐竹寺のシラカシの巨木(茨城県常陸太田市)

 

写真2一人ではとても抱えきれないシラカシの巨木
写真2 : 一人ではとても抱えきれないシラカシの巨木(同上)

 

写真3生垣として用いられるシラカシ
写真3 : 生垣として用いられるシラカシ

 

写真4比較的小型軽量のシラカシ種子
写真4 : 比較的小型軽量のシラカシ種子(生重量は1~2g)

 

写真5放置された平地林の中で更新・成長するシラカシ
写真5 : 放置された平地林の中で更新・成長するシラカシ
(茨城県つくば市)

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