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更新日:2010年7月1日

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自然探訪2009年11月 カツラ

カツラ(Cercidiphyllum japonicum

深まり行く秋の渓流沿いを歩いていると、ほのかな甘い香りが漂ってくる。ふと見上げると、複数の通直な幹が暗い林内から青い空にまっすぐと伸び、その樹冠に黄色い葉が一面に広がっている(写真1)。カツラである。その匂いのもとみれば、それは地面に落ちて、色彩を失いつつあるカツラの葉である。カツラの葉は抹香の原料としても利用されてきた。カツラ(Cercidiphyllum japonicum)は、カツラ科カツラ属に属する落葉性の高木樹種で、1科1属2種のうちの1種である。カツラは、日本列島の北海道から九州までの冷温帯の渓流沿いに広く分布する。そのほか中国大陸(四川省、湖北省など)にもカツラの変種(連香樹C. japonicum var. sinense)が見られる。同属には、カツラより高海抜に分布するヒロハカツラ(C. magnificum)があり、こちらは日本列島にのみ分布する固有種である(写真2)。

カツラは、雄と雌の株(個体)が異なる雌雄異株樹木で、春先の開花時には、それぞれの雌ずい、雄ずいは鮮やかな赤色を呈するが、風媒花と見られる。幹サイズは、直径1m、樹高は30mを優に超えるが、幹の寿命はさほど長くはないようで、大きくなるとしばしば幹折れを引き起こす。しかし、極めて萌芽性が高く、幹の根元で控えている萌芽幹が、幹折れ後に開いた樹冠(ギャップ)から到達する光を利用し、急速に成長し、やがては空いた空間を占有し、修復する。結果、カツラの老木の株は巨大化し、「カツラの千本立ち」と呼ばれるように、多数の樹幹からなる個体を形成する(写真3)。その寿命は1000年を超えるものと推定されている。

こうして巨木化、老齢化するカツラであるが、種子は小型軽量で翼を持ち、風で広域に散布される。また、発生した実生も、稚樹もまるで「草」である。渓畔域の極相林を形成する樹種でありながら、更新様式はパイオニア(先駆性種)的である。

カツラの仲間は第三紀温帯起源の古い系統の樹木で、更新世の地層からは多数の化石が発見されている。こうした古い系統の樹木が、他地域ではほとんど絶滅したにもかかわらず、極東の島国で生きながらえ、しかも、普通に見られるのは驚きである。では、なぜ、こうしたことが生じたのか?それこそ、日本の特異で多様な自然環境と比較的安定した地史的変化にあったと考えられる。まさしく、日本列島は、カツラ、ヒロハカツラにとって「難民キャンプ」であったに違いない。

中国湖北省三峡ダムを眼下に見下ろす大老嶺で、カツラ(連香樹)を見る機会があった(写真4)。何故か、日本のカツラほどの樹勢を感じられなかったは、気のせいだったのだろうか。

 

写真1:黄に色づいたカツラの樹冠
写真1 : 黄に色づいたカツラの樹冠

 

写真2:本州中部以北の亜高山帯に見られるヒロハカツラ
写真2 : 本州中部以北の亜高山帯に見られるヒロハカツラ

 

写真3:多数の幹を持つ巨大なカツラの株
写真3 : 多数の幹を持つ巨大なカツラの株

 写真4:湖北省三峡地区のカツラ
写真4 : 湖北省三峡地区のカツラ

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