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更新日:2010年10月1日

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自然探訪2010年10月 ホロムイイチゴ

ホロムイイチゴ(Rubus chamaemorus L)

日本列島には、氷河期に北方から侵入し、その後、温暖化にともなって日本列島に取り残され、細々と生きながらえている植物種群がある。例えば、ミズバショウの仲間のヒメカイユやヤナギの仲間のケショウヤナギなどは代表的な例である。したがって、その分布は、千島列島、サハリン、シベリアにつらなっている。キイチゴの仲間でも、こうした種が存在する。ホロムイイチゴである(写真1)。ホロムイイチゴは、北海道の岩見沢市郊外の幌向地区で発見されたことから、この名が付いた草本性キイチゴで、かつては北海道の泥炭地(腐ったミズゴケ類が十分に分解されず堆積した湿地)に広く分布していたと言われている。その他、国内では東北地方の栗駒山や吾妻連峰、そして猪苗代湖に近い赤井谷地湿原にも隔離的に分布する。この種は、北半球の寒帯および極地の泥炭地に広く分布しており、日本は分布の南限に位置する。英語圏ではCloudberryと呼ばれる。
ホロムイイチゴは、木本類が主流のキイチゴ属の中にあって、寒冷地適応し草本化した種群の一つである。日本列島には、この他、亜高山帯から高山帯にかけて分布するコガネイチゴ、ヒメゴヨウイチゴなどの草本性キイチゴが分布する(写真2)。ホロムイイチゴも、これら草本性キイチゴ同様、多年生植物で、匍匐性の走出枝を延ばし、その先端部で発根、新たな株を形成する、いわゆる無性繁殖を行う。一方、ホロムイイチゴは、他の多くのキイチゴ属種とは異なり、雄株と雌株が異なる雌雄異株である。雄株、雌株とも6月頃、株から延ばした花茎の上に白い花を咲かせる(写真3)。雌花は、その後、10個前後の小核果からなる集合果を形成する。果実は薄緑から鮮やかな赤になり、9月には暗赤色の果実となって成熟する(写真4、5)。種子の重さは日本産キイチゴの中では最大級である。
キイチゴ類全般に言えることだが、日本ではキイチゴの果実を食料として利用する習慣はない。北海道に広く分布したホロムイイチゴについても、そのような話を聞いたことがない。しかし、これが北極圏に行くと話は違うようである。北方の先住民にとっては、重要な食料源になっており、北欧各国でも貴重な食料として採取、利用されている。ホロムイイチゴは、ジャムに加工されるばかりでなく、肉料理の臭い消しや、直接、ケーキやタルトにも添えられる。採取できる場所、季節、量に限りがあることから、それら加工品は、商品価値も高いようだ。日本人には全く考えも及ばない。
しかし、こうしたホロムイイチゴも、日本では、その主要な自生地である北海道の泥炭地が土地開発などにより急速に改変、消失し、現在は、ごく限られた生育場所に存在するのみである。とても、日本産のホロムイイチゴで、ジャムを作れそうにはない。

 


写真1 北海道ニセコの鏡沼周辺に群生するホロムイイチゴ
写真1 北海道ニセコの鏡沼周辺に群生するホロムイイチゴ

写真2 日本の亜高山帯に分布する草本性のコガネイチゴ
写真2 日本の亜高山帯に分布する草本性のコガネイチゴ

写真3 白い花を咲かせるホロムイイチゴ
写真3 白い花を咲かせるホロムイイチゴ
(カナダ ノースウェスト準州イエローナイフ周辺)

 写真4 果実が熟したホロムイイチゴ群生地
写真4 果実が熟したホロムイイチゴ群生地
(ニセコの鏡沼)

 写真5 ホロムイイチゴの集合果
写真5 ホロムイイチゴの集合果

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