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更新日:2011年11月4日

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自然探訪2011年11月 アマミノクロウサギ

アマミノクロウサギ (Pentalagus furnessi)

アマミノクロウサギ Pentalagus furnessi は、その名前が示すように、南西諸島の奄美諸島に住み、分布は鹿児島県の奄美大島と徳之島の2島のみです。主に山岳地の森林地帯に分布し、リアス式海岸を形成する奄美大島では海岸急傾斜地などにも分布します。生息環境としては、原生的な森林や二次林、また風衝地の草原などです。休息場として林内の沢付近や斜面に巣穴を設け、餌場として下層植生の生える明るい場所(ギャップや林縁部など)を利用します。

本種はウサギ目(Lagomorpha)ウサギ科(Leporidae)に属し、系統的分化が早期に起きたようで、近縁種(属)は存在せず1属1種(モノタイプ)しかいません。古生物学的に見ると、本種の祖先は化石種プリオペンタラーグスPriopentalagusと考えられ、近年、中国大陸の揚子江流域でこの化石種やクロウサギ属の化石種が発見され、また沖縄島でも発見されています。ウサギ科の進化や大陸と南西諸島との生物地理学や希少種の保全を考える上で、本種は極めて貴重な存在です。形態は、成獣で頭胴長400-500 mm、体重2-3kg、耳長40-50 mm、尾長20-35 mm、後足長80-90 mmで、眼は小さく、四肢長や耳長はノウサギと比較して半分程度の短さです。アマミノクロウサギは黒っぽい色をしていますが、一般的に湿潤熱帯に住む動物の毛皮色はその近縁種と比較して黒っぽいというグロージャーの法則がありますが、クロウサギも他の近縁属と比較してこの法則に適合します。有力な捕食性哺乳類の住まない島に生き残ってきたために古い形態を残しています。このため「生きた化石」と呼ばれます。

亜熱帯地域とは年平均気温21℃以上の地域とされますが、奄美諸島は年平均気温24.7℃(最高気温17~32℃、最低気温11~26℃、名瀬市測候所測定)で、降水量(年約3000mm)も多いため湿潤亜熱帯気候と呼ばれます。世界的に亜熱帯や熱帯域に生息するウサギはふつう高標高地帯(1000m以上)に生息し、比較的冷涼な温度環境に生息しています。従って、クロウサギは低標高地帯で高温下に生息する数少ないウサギと言えます。

奄美の森林は鬱蒼としているため、クロウサギの餌となる植物は巣穴の近くには少なく、木もれ陽の当たるギャップや林縁部に出かける必要があります。沢付近や斜面の巣穴を中心におよそ100~200m以内で夜間に行動し、林縁部などで採食と脱糞を行ないます。また、外気温や運動による熱ストレスを回避するように、日中は巣穴内で休息し、夜間に活動していました。アマミノクロウサギのような体重2kg程度の大きさの哺乳類にとって、亜熱帯地域の環境や奄美の急傾斜地形に生きていくためには、このよう適応があげられます。

アマミノクロウサギ1
写真1 アマミノクロウサギ(写真:勝 廣光)

 

 アマミノクロウサギ2
写真2 センサーカメラで撮影されたアマミノクロウサギ

 

アマミノクロウサギ3
写真3 アマミノクロウサギの糞

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