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更新日:2013年8月1日

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自然探訪2013年8月 コメツガ

コメツガ(Tsuga diversifolia)

ツガ属は、マツ科の常緑針葉樹で、世界に9種あり、アジアに5種、北米に4種が分布しています。日本には、ツガ(Tsuga sieboldii)とコメツガ(Tsuga diversifolia)の2種が生育しています。このうち、コメツガは、日本の固有種で、青森県(八甲田山)から愛媛県(石鎚山)にかけて分布しています。同属のツガが主に温帯に分布するのに対し、コメツガはより寒冷な亜高山帯に分布し、モミ属のシラビソ(Abies veitchii)やオオシラビソ(Abies mariesii)と共にしばしば優占種となります。ちなみに、コメツガ(米栂)という名前は、新葉の形が米に似ていることに由来すると言われています(写真1)。

コメツガは、広域的に見た場合、主に冷涼で夏期降水量が多い地域に生育し、その中でも積雪が少ない太平洋側の地域が生育の好適地とされています。コメツガが夏期降水量の多い地域を好む理由として、コメツガの属するツガ属は温暖・湿潤な温帯に起源を持つ種であり、乾燥に対する耐性が低いことや、根が浅いことなどが考えられます。

上述の気候条件にある地域において、コメツガは、岩塊地ややせ尾根などで多く見られますが(写真2)、南アルプスなどでは緩やかな斜面においてもシラビソと共に優占する姿を見ることができます(写真3)。地域によるこうした生育場所や優占度の違いは、積雪条件と強く関係すると言われています。積雪の多い地域(東北地方北部や北アルプスなど)では、コメツガの稚樹は尾根や岩塊地、倒木(写真4)や根元といった、積雪の影響を受けにくい場所に限定的に生育するのに対し、積雪の少ない地域(南アルプスや富士山など)では、こうした生育地の限定は見られず、緩斜面や地表にも多くの稚樹が生育しています。この現象には、積雪下の過湿条件に生育する雪腐れ病菌による、実生定着の阻害が大きく影響していると言われています。

現在、コメツガを含むツガ属は北海道には生育していません。しかし、コメツガにとって好適な気候環境が日高山脈などにあることがわかっています。ではなぜ、好適な環境があるにも関わらず、コメツガは北海道に生育しないのでしょうか?果実や種子といった大型植物遺体の化石データから、少なくとも新第三紀の中新世と呼ばれる温暖湿潤な時代(約530万年前)までは、コメツガに類似したツガ属の種が北海道にも分布していたことがわかっています。一方で、現在より寒冷で乾燥していた約2万1千年前(第四紀更新世の最終氷期)には、分布が途絶えていたようです。これらの事実から、コメツガは、第四紀(約258万年前~現在)に繰り返された氷期において、降水量の減少に伴う乾燥によって北海道から消滅したのではないかと考えられています。その後、間氷期に入って好適な環境が再び形成されたものの、逃避地(青森県北部)との間に広がる津軽海峡や平野部によって北海道に戻ることができず、現在に至ったと考えられます。

写真1:コメツガの新葉
写真1:コメツガの新葉

写真2:切り立ったやせ尾根に生育するコメツガ(北アルプス)
写真2:切り立ったやせ尾根に生育するコメツガ(北アルプス)

写真3:緩斜面のコメツガ優占林(南アルプス)
写真3:緩斜面のコメツガ優占林(南アルプス)

写真4:倒木上のコメツガ稚樹
写真4:倒木上のコメツガ稚樹

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