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更新日:2014年7月1日

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自然探訪2014年7月 昆虫の病気

昆虫の病気

インフルエンザなどの感染症は、私たち人間を苦しめ続けています。中世ヨーロッパで流行したペストは、多くの人々を死に追いやりました。家畜や植物の感染症は、農林業や森林に深刻な影響を与えています。感染症は、ありとあらゆる生き物に存在します。昆虫も実にさまざまな感染症を患います。昆虫も感染症を患うことは、古代ギリシャのアリストテレスによっても記述されています。

山道を歩いていて、ふと白樺の幹に目をやると、カシワマイマイという蛾の幼虫が腹脚を幹にくっつけて垂れ下がって死んでいます(図1)。これは、核多角体病ウイルス(図2)による感染症が原因で死んだものです。このウイルスに感染すると、幼虫は活発に動き回るようになり、樹木の上方や枝先へ登って死んでしまいます。また、感染末期には体が徐々に溶けて軟化します。そのため、幼虫の体で増えた数十億ものウイルスは、幼虫が死んだあと容易に溶け出して、幼虫が死んだ場所から下層の広範囲を汚染します。これが、次の感染源となりウイルス病が広がります。ウイルスが持っている遺伝子が、幼虫を活発にさせたり、虫体を溶かしていることが分かっています。ウイルスも自身の繁栄のための、緻密な戦略を持っているのかもしれませんね。

さらに歩いていると、マイマイガという蛾の幼虫がたくさん、カラマツの幹に垂れ下がって死んでいます(図3)。まわりのカラマツも全部同じ光景です。これは、疫病菌(図4)(カビの一種)による感染症が原因で死んだものです。マイマイガは時折、大発生しますが、このように疫病菌が流行することによって、大発生が終息することがしばしば観察されます。疫病菌は、先ず、幼虫が小さいときに感染して幼虫を殺します。その小さな幼虫で分生子(図4上)と呼ばれる寿命は短いけれども分散能力と感染力の高い胞子を作ります。この分生子が、より大きく成長した多くの幼虫に感染して、図3のように多くの幼虫を殺します。この大きな幼虫では、休眠胞子(図4下)という環境耐性のある胞子を作ります。この休眠胞子は、厳しい冬を越して翌年以降の感染源になります。カビも、やはり、うまく生きてゆく術を持っているのでしょうね。


写真1:ウイルス病で死んだカシワマイマイ幼虫
図1:ウイルス病で死んだカシワマイマイ幼虫。

写真2:核多角体病ウイルスの電子顕微鏡像
図2:核多角体病ウイルスの電子顕微鏡像。

写真3:疫病菌で死んだマイマイガ幼虫
図3:疫病菌で死んだマイマイガ幼虫。

写真4:疫病菌の光学顕微鏡像。(上)分生子。(下)休眠胞子。
写真5:疫病菌の光学顕微鏡像。(上)分生子。(下)休眠胞子。
図4:疫病菌の光学顕微鏡像。(上)分生子。(下)休眠胞子。


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