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更新日:2016年5月2日

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自然探訪2016年5月 葉や枝に集まり大きくなる雨粒

葉や枝に集まり大きくなる雨粒

雨が急に降り始めた時、木陰に入れば雨宿りすることができます(*)。しかしそれは最初のうちだけで、雨が長く降り続いている時には、樹の下でも体が濡れてしまい、場合によっては、樹の下の方がより濡れてしまうこともあります。これは、葉や枝に蓄えられた雨粒が、枝のたわんだ部分に集中することがあるためです。

このような樹の下に降る雨を「林内雨」「樹冠通過雨」と呼びます。俳句の世界においては「青時雨(あおしぐれ)」「青葉時雨(あおばしぐれ)」という季語で木々の青葉からしたたり落ちる水滴を表現します。時雨自体は冬の季語ですが、木々が青々と繁る様子を加える事で夏らしさを表現する素敵な言葉となります。

ここ100年ほど、世界中で森と水の関係を調べる研究が数多く行われていますが、雨となって降ってくる水が最初に出会う森林は葉や枝です。そこでは、雨粒が葉や枝にくっついたり、もしくはぶつかって砕けたり、飛沫になったりします。くっついた雨粒は、葉や枝の表面の性質によってのっぺりくっついたり、まるで球のように乗っかったり、くっつき方も様々です(写真1)。

枝や葉に乗っかった雨粒はやがて集まって結合し、林外では降らないような大きな雨粒を作ります(写真2、3)。林外で「今日は雨が強いな。雨粒も大きいな」と感じるときでも、雨粒の粒径が4mmを超えることは稀です。その一方で、樹の下では粒径4~7mmの雨粒がポタポタと落ちてきます。雨が降っている時に樹の下を歩いてみると、水たまりにできる大きな波紋や、傘から感じる音や衝撃により大きな雨粒を実感できます。また車で街路樹の下を通過する時に、フロントガラスにできる大きな衝突痕やボンネットを叩く大きな音からも感じることができます。

枝や葉が雨粒を集める事実は、霧の時に特に面白い現象を引き起こします。森林に霧がかかると、霧の小さな水滴が樹木に捕捉され、それが集まって大粒の雨粒となってしたたり落ちてきます。これは「樹雨(きさめ)」と呼ばれます。この時は、森林の外では雨が降らないのですが、森林の中ではポタポタと雨が降り続く不思議な現象が起きます。

ところで、大きな雨粒が地面に衝突すると何が起こるでしょうか?雨粒は地面に衝突すると、地面をえぐり、土の粒子を飛ばします。高木の上層の葉や枝でできた大きな雨粒が速いスピードで地面に衝突することを繰り返すと、私達が予想している以上に土の粒が高く跳ね上がります(写真4)。管理不足のヒノキ人工林やシカ食害の激しい森林のように林内の地面が落葉・落枝で覆われていない場合、林外よりも土壌侵食が深刻化してしまう例もあります。

雨粒は、一つ一つは極めて小さな粒ですが、葉や枝での水滴の作られ方を調べていくことで、樹木がどうやって濡れていくのかがわかり、地面にどうやって雨が到達していくのかがわかるようになります。小さなことのコツコツとした積み重ねが、森林と水の関係を作り出しています。

(*) 詳しくは2015年8月の自然探訪「遮断蒸発」をご覧ください。

 

 (森林防災研究領域 南光 一樹)

 

写真1:葉の上にのっぺりくっつく水滴(上)と球のように乗っかる水滴(下)
写真1:葉の上にのっぺりくっつく水滴(上)と球のように乗っかる水滴(下)

写真2:ヒノキの葉先に集まってできた雨粒
写真2:ヒノキの葉先に集まってできた雨粒

写真3:ヤブツバキの枝に集まってできた雨粒
写真3:ヤブツバキの枝に集まってできた雨粒

写真4:林内に置いた貯水ボトルの降雨後の様子
写真4:内に置いた貯水ボトルの降雨後の様子。
雨粒の地面衝突により、土壌粒子が跳ね上げられている。
雨の入口の高さは80cm程度。

 

 

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