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更新日:2017年11月1日

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自然探訪2017年11月 アマゾン熱帯林を調べる

アマゾン熱帯林を調べる

アマゾン熱帯林はブラジルやペルー、コロンビアなど計9ヵ国にまたがる世界最大面積(日本約15個分)の熱帯林です。しかし、日本で「熱帯林」というと「フタバガキ林」や「オランウータン」、「ラフレシア」など東南アジアを代表するキーワードがまず思い浮かび、「アマゾン川」や「ジャガー」、「ナマケモノ」などをパッと連想する人は少ないかもしれません。日本から見れば地球のほぼ裏側ですから、馴染みがなくても当然ですよね。今回はそんなアマゾン熱帯林での森林調査の様子をほんの少しですがご紹介したいと思います。

私たちはアマゾンの中央に位置するブラジルのマナウスという都市を研究拠点としています。人口200万人を超す大都市で、市街地には緑はほとんどありませんが、郊外には森林が広がっています(写真1)。日本からは飛行機を2回乗り継ぎ、最短でも25時間はかかります。そこに13時間の時差が相まって、数日間は何とも言い難い疲労感に襲われます。しかしそこでは魅惑のジャングルが私たちを待っています。現地の共同研究者と準備をしっかりと整え、いざ森林へと向かいます。

アマゾン熱帯林は、雨季に河川の増水によって浸水する氾濫原(ヴァルゼア)林と浸水しない台地(テラ・フィルメ)林の2種類に大別されます。アマゾン川のイメージが強いので前者が多いような気がしてしまいますが、実は後者が圧倒的大部分を占めます。私たちの調査も主にテラ・フィルメ林で行っています。テラ・フィルメ林は俯瞰すると真っ平らに見えるのですが(写真1)、これも意外なことに、数百メートル〜数キロごとに谷があり、かなりのアップダウンがあります(写真2)。なので、森林内を歩くと想像以上に体力を消耗します。

森林内では美しいチョウが舞い、頭上ではカラフルなコンゴウインコ(鳴き声は悲劇的に汚いです)やリスザルが飛び交い、足元ではコロコロしたアグーチが走り回っていたりします。運が良いと可愛らしいナマケモノを目撃することができます。さらに運が良いと(悪いと?)ジャガーに出くわすこともあります(写真3)。一方、毒ヘビやハチ、大量のケムシなど、身の危険を感じる場面もしばしばあります。地味に厄介なのがチョークの粉ほどの大きさのダニ(現地名:ムクイン)で、確実に落とさないと寝ている間にあんなところやこんなところを噛まれて悲惨なことになります。したがって、調査中はジャングルの賑やかな雰囲気を楽しみながらも、常に緊張感を持って行動します。

そんなジャングルの中で、私たちは樹木の成長量を知るための調査を行っています(写真4)。非常に広大で生物多様性の高いアマゾン熱帯林が毎年どれだけの炭素を固定しているか、またそれが択伐などの人為撹乱や気候変動によってどのように変化するのかを明らかにすることが大きな研究テーマとなっています。もっと根本的なところでは、他の熱帯林と同様に、多くの樹木がはっきりとした年輪を作らないので(写真5)、正確な樹齢や成長速度は未だによくわかっていません。一見成長が良さそうな樹木でも、何年もほとんど成長していないなんてこともあります。広大で複雑なアマゾンの生態系を解き明かすのは、時に無謀なことのようにも思われますが、不思議とまた謎の密林に踏み入ってしまうのです。

 

(木材加工・特性研究領域 大橋 伸太)

写真1:マナウス郊外のアマゾン熱帯林(テラ・フィルメ林)
写真1:マナウス郊外のアマゾン熱帯林(テラ・フィルメ林)。
見渡す限り森林が広がります。

写真2:テラ・フィルメに伸びる道路
写真2:テラ・フィルメに伸びる道路。アップダウンが繰り返し続きます。

写真3:野生のジャガー(車内から撮影)
写真3:野生のジャガー(車内から撮影)。ごく稀に遭遇します。

写真4:森林内での調査風景
写真4:森林内での調査風景。定期的に樹木の直径を測定しています。

写真5:テラ・フィルメ林で採取した円板の一部
写真5:テラ・フィルメ林で採取した円板の一部。
はっきりとした年輪は見られません。

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