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更新日:2017年5月1日

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自然探訪2017年5月 発熱する植物 ザゼンソウ

発熱する植物 ザゼンソウ

ザゼンソウ<座禅草>をご存知でしょうか。日本では北海道から中部地方の山間の湿地や冷涼な谷地などに生息し、密やかな開花が雪解けや春の訪れを告げるサトイモ科ザゼンソウ属の多年草です。生息地の環境にもよりますが1月から5月くらいが花期のようです。初夏の湿原を彩るミズバショウも同じサトイモ科で、色はともかく形状はよく似ていますが、ザゼンソウは一途に地味・控えめな印象です(写真1、写真2)。

開葉に先駆けて開花します。暗紅色や緑色の大きな花弁のように見える外套部は仏炎苞(ぶつえんほう)と呼ばれ、内部に位置する小さな花の集まりである肉穂花序を包んでいます。この姿が光背を背に座禅を組むお坊さんに似ることが名前の由来だそうです。座禅を組んでいる達磨さんの姿を想起させることから、ダルマソウ<達磨草>と呼ばれることもあるそうです。ちょっと猫背にも見えるのでダルマソウの名も相応しく感じます。

幼少の頃、読み聞かせてもらった童話「エルマーのぼうけん」(ルース・スタイルス・ガネット著)に登場する少年エルマーの良き友人りゅう(ドラゴン)の食べ物がスカンクキャベツだったのですが、それがザゼンソウの英名だと知ったのはここの仕事 ―植物相手の研究― に就いてからでした。風変わりな英名は開花しているときに昆虫を引き寄せるために発する匂いが臭いから、だそうです。筆者自身は臭気を感じたことはありません。

ユニークな形状のほかに、とても珍しい特徴を持っているザゼンソウです。それは発熱すること。寒冷地の植物を扱う生理・生態学の教科書には必ずや発熱するザゼンソウの記述があり、学生の頃から機会あれば発熱している状態を測ってみたいと考えておりました。

物体から放射される赤外線を測定し温度を推定できる熱画像装置が近年ではコンパクトになり、カメラと同じように扱えるようになりました。この熱画像装置をザゼンソウ生息地に持ち込んで観測してみました。

長野県下にあるザゼンソウの群落において、開花してからあまり時間が経っていないと思われる株の肉穂花序は26℃を越えていました(写真3)。周辺の環境温度は10℃あまりで、谷地は既に陽が陰っていたことから太陽光に温められたのではないのは明らかでした。熱画像装置で谷地を観ると、まるでそこかしこに暖かな灯をともした行灯が並んでいるようです。

2株のザゼンソウが身を寄せ合うように谷地の寒さに耐える姿もありました(写真4)。懐の温かさを逃さないように付いて離れない様子を、なぜか擬人化してしまいそうで、心まで温まる光景でした。

最後になりましたが参考までに、花言葉は「沈黙の愛」「ひっそりと待つ」だそうです。

 

(森林防災研究領域 岡野 通明)

 

写真1:ザゼンソウ
写真1:ザゼンソウ

写真2:ミズバショウは同じサトイモ科
写真2:ミズバショウは同じサトイモ科

写真3:ザゼンソウの温度分布
写真3:ザゼンソウの温度分布 肉穂花序の温度は26℃を越えています。

写真4:寄り添う2株のザゼンソウ
写真4:寄り添う2株のザゼンソウ
肉穂花序の温度は周辺の環境温度11~12℃より高い17℃もあります。

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