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更新日:2018年12月3日

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自然探訪2018年12月 ライチョウ Lagopus muta japonica の四季

ライチョウ Lagopus muta japonica の四季

ライチョウLagopus mutaは北極を中心とする広い範囲に分布する鳥で、多くの亜種に分類されています。このうち、日本に分布する亜種ニホンライチョウL. m. japonicaは高山に生息し、頸城山塊、北アルプス、乗鞍岳、御嶽山、および、南アルプスで見られます。ここでは単にライチョウと呼ぶことにします。

ライチョウは不思議な動物です。夏を高山で過ごす動物は他にもいますが、それらの多くは冬になると標高の低いところへ移動します。鳥では、ホシガラスやイワヒバリがそうです。しかし、ライチョウは厳しい冬の間も高山に留まって生活します。移動したとしても亜高山帯までであり、それより低いところへ降りてくることはありません。

食べ物は主に植物の芽や果実です。糞は雪の上でよく見つかります(写真1)。植物の芽などを食べている季節は、糞が細かい植物の破片からできていて、大きさ・形・質感がハンノキの雄花序を思わせます。少し弓なりになっていることが多いです。

冬も高山で生活するライチョウは寒い環境に適応しており、脚の先まで羽毛の生えていることがそのひとつです。ライチョウ属の学名Lagopusはこれに関連して「ウサギの(ような)脚」と語源解釈できますが、分類学者による造語ではなく、古代ローマ時代のプリニウス著『博物誌』にも出ている言葉です(注)。種小名mutaは「声を出さない」という意味で、普段あまり鳴かないことを表しています。亜種小名japonicaはもちろん「日本の」です。なお、少し古い図鑑などにはLagopus mutus japonicusと書かれていました。これが現在の綴りに変ったのは、女性名詞であるLagopusが男性名詞として扱われていた誤りが指摘され、ラテン語の文法に合致するよう修正されたためです。

以下では、春夏秋冬のライチョウの姿をご紹介します。

[春]1年のうちでもとりわけ忙しそうな時期です。他の鳥と同じように、繁殖期を迎えるからです。とくにオスはメスを獲得するため活発に動くのが見られます。写真2aは、大天井岳の山頂を目指して南側から登ったとき、2頭のライチョウが連れ立って歩いているのを目撃したものです。前がメスで後ろがオスですが、彼らがつがいとして成立していたのかどうか、筆者にはわかりませんでした。羽毛の色は冬羽から夏羽に変る途中なので斑になっています。

写真2bは、大天井岳を越えて蛙岩(げーろいわ)の近くまで来たとき、登山道(といっても雪の上に登山者の足跡があるだけ)のすぐ脇の、こんな近くにと思うようなところへ突然出てきたオスです。私が驚いていると、彼は私に向かって威嚇のポーズを取りました。見れば、後ろのハイマツの茂みにメスがいます。このメスを防衛しようとしていたのです。「君の彼女を取ったりはしないよ」とは言ってみましたが通じるはずも無く、威嚇を続けるので、無駄なエネルギーを使わせないよう、急いで撮影してその場を立ち去りました。なお、蛙岩という風変わりな名前は、この付近で聞くことの多いライチョウの声が蛙の声を連想させることから付けられたものです。 

[夏]黒部五郎岳から稜線コースを下り始めてすぐ、登山道脇の斜面の下に1頭のライチョウがいました(写真3)。向こうもこちらに気づいたと思いますが、刺激を与えないように動かないで見ていると、すぐ逃げたりせず、非常にゆっくり歩きながら植物をついばんでいました。ゆっくり歩くのは、早く動くと上空の猛禽から見つかりやすくなってしまうからでしょう。また、人を見てもすぐ逃げないのは、高山では地上に天敵が少ないからでしょう。

[秋]新穂高温泉から鏡平を経て登り、双六のテント場に向かう途中で、ササの茂みにいるメスを見ました(写真4)。このライチョウもときどき植物をついばみながらゆっくり歩いていました。

[冬]雪の季節のライチョウは、オスもメスも真っ白な冬羽に変わります。この見事な保護色のおかげで、雪の上で動かずにいるライチョウを見つけるのは難しくなります。ある年の正月休みの静かな早朝、南アルプスの塩見岳で雪の斜面を登っていると、不意に近くで大きな音がして度肝をぬかれました。音の聞こえた方を見るとライチョウが飛び立っていくところでした。わずか数メートル先にいたのに気づかなかったのです。

南アルプス鳳凰三山を登ったときは、幸運にも、短めの望遠レンズで撮れる距離にメスが2頭いるのを見つけることができました(写真5a,b)。ただでさえ寒く厳しい冬山で、吹雪くときなどはどうしているのだろうか。ライチョウが神秘的に見える季節です。

 

(注) Lagopusは古代ギリシャ語に由来するラテン語ですが、当時どの鳥を指したのかは必ずしも明確でないようです。”A Latin Dictionary” (Lewis and Short 1879) という代表的なラテン語辞書でも、『博物誌』の用例を示したうえで、意味は、高山鳥のひとつ、おそらくwhite grouse、という書き方がされています。

(広報普及科 堀野 眞一)

 写真1.ライチョウの糞
写真1. ライチョウの糞(北アルプス唐松岳で5月1日撮影)

写真2a(上):春のライチョウ

写真2b(下):春のライチョウ
写真2a(上)、2b(下). 春のライチョウ
(2枚とも北アルプス大天井岳の稜線で5月5日撮影)

写真3. 夏のライチョウ
写真3. 夏のライチョウ(北アルプス黒部五郎岳で7月15日撮影)

写真4. 秋のライチョウ
写真4. 秋のライチョウ(北アルプス双六岳付近で9月18日撮影)

写真5a(上) 冬のライチョウ

写真5b(下) 冬のライチョウ
写真5a(上)、5b(下). 冬のライチョウ
(2枚とも南アルプス観音岳付近で12月28日撮影)

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