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更新日:2019年2月1日

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自然探訪2019年2月 西表島に暮らすリュウキュウイノシシ

西表島に暮らすリュウキュウイノシシ

 

イノシシは、本州から南西諸島にかけて広く日本に分布しています。牡丹鍋など食肉用に利用されてきましたが、昨今は農地を荒らす害獣としても有名になってしまっています。本州で見られるニホンイノシシとは異なり、南西諸島にはリュウキュウイノシシという小型の亜種が生息しています(写真1)。さらに最近では、DNA配列や頭骨の形態などから、石垣島や西表島に生息する集団は別亜種として分類するのが適当であるといわれています。また、リュウキュウイノシシ自体、ニホンイノシシの亜種ではなく別種ではないかと考える研究者もいます。分類学上、まだこの先の議論が予想されるイノシシですが、今回は西表島のリュウキュウイノシシについてご紹介したいと思います。

西表島は、沖縄島から約470kmも南西方向に離れた場所に位置しています。東京―大阪間の直線距離が400km程度ですからその遠さがわかります。琉球列島の島々の中で、面積では沖縄島に次いで2番目の島です。ほとんどが山岳地で平地に乏しく、国立公園などに指定されている地域も多いため、人々は海岸線沿いの限られた平地で生活しています。過去にはマラリアによる廃村のくり返しや炭鉱での強制労働、第二次大戦時の強制移住など、悲しい歴史を刻んできました。現在は、イリオモテヤマネコが棲む島、日本最大面積を誇るマングローブの島、あるいは、ダイビング、カヤッキング、ジャングルトレッキングなどのアクティビティを楽しめる島として有名です。ただ、イリオモテヤマネコに関しては、30年前にはレンタカーで島の外周道路を走っていると1日に複数回見かけることもありましたが、現在ではほとんど見かけなくなりました。環境省の調査でも生息数は確実に減少しているようです。

西表島では猟銃と罠によるイノシシの狩猟が行われていますが、主流となっているのがハネ罠猟です。この猟は、1935〜1940年頃に台湾から伝わったとされています。西表島のハネ罠は、イノシシの足をくくるために金属製のワイヤーを使いますが、その他の部品には木片を使い、跳ね上げ棒も山中の木々を利用することで非常に軽く、コンパクトなものとなっています(写真2)。猟師さんは、罠を仕掛ける時、その場にある木々、つまりイノシシの餌となる木の実から、その場所で生活するイノシシの肉質、肉の味などを予想しながら仕掛けるそうです。イノシシが最も好むのは、秋口から晩秋にかけて熟するブナ科のオキナワジイ、オキナワウラジロガシの堅果(ドングリ)です。山中を歩いていると、足元に食痕付きの堅果をしばしば見かけます(写真3)。オキナワウラジロガシの堅果はクヌギなどより大きく、国産ブナ科樹木としては最大です。また、はっきりとした板根を形成します(写真4)。材としても緻密で堅く秀逸なため、首里城の守礼門などにも利用されました。

罠にかかったイノシシは、西表島の西部地域ではその場で絶命させた後、担いで下山します。東部地域では生かしたままの状態で持ち帰り、その後処理します。一つの島の中でも文化の違いがあるようです。下山、と書きましたが、河川沿いの地域に罠をしかけた場合には、捕獲した獲物はボートで運搬することができるため作業の負担がかなり軽減されます(写真5)。持ち帰ったイノシシはまずバーナーで表面の体毛を焼き、その後、首を落とし解体作業に入ります。胆嚢は取り除きますが、肺を含め内臓の多くの部分は食用とします。捌きたての肉は体毛を除いただけの状態なので、沖縄独特の皮付き肉(三枚肉)になります。イノシシを使って現地の食堂や居酒屋で出されるメニューとしては、たたき(刺身)、チャンプルー、ラフテー、イノシシ汁などがあります(写真6)。イノシシ汁では骨や内臓も入っているのが普通です。

基本的な猟期は11月15日から2月15日までです。これは本州の各地でもほぼ同様な期間設定です。しかし、農地を荒らす被害が増え、有害鳥獣駆除の許可がおりると猟期以外でも狩猟可能となり、その時には居酒屋や食堂でも猟期同様、新鮮な肉を食べることができます。リュウキュウイノシシは沖縄島にも生息し、罠が仕掛けられているのもたまに目撃しますが、イノシシ料理を居酒屋や食堂で見かけることはかなり稀です。牛、豚、鶏は別として、沖縄島ではイノシシよりヤギ料理の方が一般的で、名護などの北部で特によく食されているようです。島ごとに、あるいは地域ごとに文化の違いが感じられて興味深いです。

(樹木分子遺伝研究領域 細井 佳久)

 

写真1:リュウキュウイノシシ 写真2:作成中のハネ罠
写真1:リュウキュウイノシシ(沖縄こどもの国にて) 写真2:作成中のハネ罠(この仕掛けに足が入ると木片が折れて窪みに足が落ち込み、ワイヤー先の跳ね上げ棒が跳ね上がると同時にワイヤーの輪が閉まり、足が跳ね上げられる)

写真3:食べられた堅果
写真3:食べられた堅果(左:オキナワウラジロガシ、右:オキナワジイ)

写真4:オキナワウラジロガシ
写真4:オキナワウラジロガシ(左:堅果、右:板根)

写真5:捕獲個体のボートによる運搬
写真5:捕獲個体のボートによる運搬(足元のゴムベルトは担ぐためのもの)

写真6:様々な料理
写真6:様々な料理(左上:皮付き三枚肉の刺身、右上:イノシシ汁、左下:イノシシ肉のチャンプルー、右下:レバーのチャンプルー)

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