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更新日:2019年6月3日

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自然探訪2019年6月 土の中のアイドル

土の中のアイドル

今回は森林の落ち葉の下に暮らす生き物についてお話しましょう。キノコや細菌などの微生物もその主要なメンバーですが、ここでは一般に土のムシとして認識されている土壌動物の紹介をします。登山道や林道を外れて森の中に一歩踏み込んだとき、多くの場合、足元にはたくさんの落ち葉が積もっていると思います。その踏み固められていないふかふかの落ち葉の中には、実は考えられないくらい多くの種類のムシが、これまた考えられないくらいの数で生息しています。

こう書くと背筋が寒くなってくる人もいるかもしれませんが、もう少しお付き合いください。おそらく気持ちが悪くなった人は、大きくて目につく限られた種類のムシだけを思い浮かべたのではないかと思います。目につく代表的な土壌動物には、クモやムカデ、ゲジゲジ、ミミズ、ワラジムシなどがいて、お世辞にも人気のあるムシたちではありません。たしかにこれらのムシは、足が多過ぎたり、逆に無かったり、強力な顎を持っていたり、妙に俊敏な動きを見せたりと、かっこいいと言われることはあっても、人に安心感をもたらすタイプではなさそうです。しかし、ここでひるんでしまってはもったいない。これらのいわゆる嫌われものは目立ちますが、ムシの数としては土壌動物全体の0.1%にもなりません。気を取り直して土から10cmくらいの距離に顔を近づけて中をのぞいてみると、そこには知られざる小さなムシたちの世界が広がっているのです。

この小さなムシたちは、よほど意識的に探さないと肉眼では見えないことも多いのですが、体長0.1mmから2mmと人がぎりぎり認識できるサイズで、主にトビムシやダニといった分類群に属しています。温帯の森林では、大人の片足の下にトビムシで500個体、ダニで2000個体ほどはいるでしょうか。ダニという言葉に拒否反応を示す人もいるかもしれませんが、土のダニの多くはササラダニ(写真1左)という主に落ち葉を食べる種類で、みなさんが家屋等で遭遇するダニとは風貌も随分と異なります。人や野生動物にしがみついて吸血するための長い足や爪をもつダニと異なり、ササラダニは足が短く、そのために動き方もよちよちとしていてかわいいという印象をもつ人もいるかもしれません。一方、トビムシに関しては、名前さえ聞いたことがないという人がほとんどだと思います。トビムシもササラダニと同じく足は短いものが多いのですが、名前の由来でもある跳躍器という器官が尻尾のようについており(写真1右)、それをバネにしてうさぎのように跳ぶことができます。ササラダニの多くが落ち葉と似た茶色い体色をもつ一方、トビムシは青、紫、赤、黄、白、銀色ととても色とりどりです(写真2-5)。加えて、つぶらな眼をもつ種も多く、土壌動物学者の間では土の中のアイドルと評されることも少なくありません。

生物の姿かたちは生物の生き様を表すことが多いと思います。強い大顎や長い足は、その生物が強い攻撃性や競争力をもっていることの表れでしょう。トビムシやササラダニは、クモなど他の動物に食べられる側の生物であり、彼らの食べているものは土の中に余り有る落ち葉や微生物です。したがって、これはまったく個人的な見解ですが、彼らは捕食や競争のために強くなる必要がないので、ゆるキャラのように見えるのかもしれないなんて思っています。ということで、みなさん、次に森へ入る際は、是非一度、落ち葉の下の世界をのぞいてみてください。まだ踏んでいない地面の一番上にある落ち葉を、そっとめくってやることが観察のコツです。土のムシに対する印象が様変わりする人もいるのではないかと思っています。

(森林昆虫研究領域 藤井 佐織)

 

写真1:トビムシ(右)とササラダニ(左)の顕微鏡写真
写真1:トビムシ(右)とササラダニ(左)の顕微鏡写真

写真2:マルトビムシ科の一種
写真2:マルトビムシ科の一種

写真3:イボトビムシ科の一種
写真3:イボトビムシ科の一種

写真4:アヤトビムシ科の一種
写真4:アヤトビムシ科の一種

写真5:ツチトビムシ科の一種
写真5:ツチトビムシ科の一種

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