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ホーム > 研究紹介 > 研究成果 > 研究発表会等 > もりゼミ > 研究発表会等 > もりゼミ > 過去のテーマ(もりゼミの歴史)H21-23

更新日:2017年3月1日

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過去のテーマ(もりゼミの歴史)H21-23

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平成23年度

平成24年3月30日

木材の耐久性

東北支所長 山本 幸一

人に寿命がある様に、樹木にも寿命があり、山から伐り出された木材にも寿命があります。生き物の寿命は、外見で生死が解り、納得できる数値があると思います。一方、木材が工業材料として建築物に使われると、その寿命すなわち耐用年数を数値で表すことは困難を極めます。

木材の耐久性(耐用年数ではない)は、ある大きさの杭を作成して地面に半分差し込んで、半年に1度くらいの頻度で、腐った程度を目視で評価して、耐久性が高い低いを決めます。信じられないかも知れませんが、世界的な標準方法です。このデータから、”では、この木材を住宅の土台に使ったらどの位の耐用年数を期待できるのですか? ”と問われても今のところ自信を持って答える術がありません。

現在、幾つかの試験を組み合わせて耐用年数を予測する(Survice life prediction)研究が欧州を中心に進められています。これらを含めて木材一般について、木材の可能性を話したいと思います。


平成23年9月6日

全天空写真撮影による森林環境評価手法について

東北支所 光環境変動担当チーム長 齋藤 武史

森林内に魚眼レンズを装着したカメラを持ち込み鉛直上方に向けて撮影すると、森林樹冠を構成する葉群等の粗密、分布等を記録した全天空写真画像が得られます。

全天空写真の画像を解析すると、森林内の相対照度、光合成有効放射量、森林群落の葉面積指数(通常は、枝、幹の表面を含む植物体の投影面積の指数)などを推定できることが知られており、これらの要素を簡便かつ非接触に計測できる手法として、多くの画像解析ソフトウェア等が開発され、広く利用されています。

ところで、全天空写真の画像解析から推定できるこれらの要素は、森林内の微気象環境(日射量、気温、相対湿度、風速等)、エネルギー収支(放射、潜熱、顕熱等)、水収支の要素(降水遮断、蒸発散等)などにも大きな影響を及ぼすので、全天空写真の画像からは、これらの森林環境要素についても、間接的に推定が可能と考えられます。

森ゼミでは、全天空写真の画像解析による森林環境の評価手法について、既往の研究例を概観し、問題点や今後の展望などについて考えてみたいと思います。


平成23年7月25日

話題1:秋田県長坂試験地における2010/2011年積雪期の樹冠通過降水量

秋田県農林水産技術センター森林技術センター 岩谷 綾子

秋田県長坂試験地では、積雪地域における間伐が森林流域の水流出に及ぼす影響を明らかにするため水文観測を行っています。積雪期の樹冠通過降水量は、積雪地域の水流出にかかわる重要な成分のひとつです。しかし、実際に測定することは困難なため、無積雪期の樹冠通過降水量に関する研究と比較して実証的な研究が十分に行われていません。そこで、長坂試験地のスギ林を対象に無間伐区、間伐区および作業路の調査区を設置して2010年12月から2011年3月までの積雪期に樹冠通過降水量の観測を行いました。本ゼミでは積雪期の樹冠通過降水量の実態と間伐の影響について検討した結果を報告します。

 


話題2:トレーサを用いた森林流域における降雨流出に関する研究について

東北支所 森林環境研究グループ 久保田 多余子

地面に浸透した降水は森林流域内のどこを通り、どのくらいの時間をかけて河川へ流出するのでしょうか?降雨の流出経路と滞留時間は古くから森林水文学の重要な課題であり、物理的な水文観測手法とトレーサを使用した手法により研究されてきました。トレーサとはこの動きを追うことで水の動きを調べるために人工的に付加するか、あるいは環境にもともと存在する物質のことです。降雨流出過程を調べるトレーサとして、主として用いられる物質には、もともと降水や河川水に存在する溶存無機イオン濃度や酸素および水素安定同位体があります。特に酸素と水素の安定同位体は水分子そのものであり、溶存物質と違って、水と異なる挙動をとることがないため理想的なトレーサであると考えられています。本セミナーでは、降水、土壌水および地下水の溶存無機イオン濃度および安定同位体を使った洪水流出中の河川水の起源の推定、安定同位体比を使った基底流量時の河川水の平均滞留時間の推定、および樹木の吸水深度の推定を行った結果について発表します。


平成23年7月14日

Forest Insect Invasion Management Strategies(森林昆虫の侵入への管理戦略)

USDA アメリカ森林局 Andrew Liebhold

Biological invasions are the unintended consequence of globalization; as rates of world trade and travel increase, non-native species are accumulating in virtually every corner of the world. While most of these species are relatively innocuous, a significant number of alien species profoundly alter ecosystem properties and processes, resulting in considerable socioeconomic impacts. Here, I describe some ways that quantitative methods are used to select strategies for managing each of the three major invasion phases. A common theme that underlies these methods is the application of bioeconomic models for optimization of management.

Arrival is the first stage of any biological invasion and it is largely managed via the application of quarantines and inspection of incoming commodities. Managing arrival is perhaps the most efficient approach to mitigating the invasion problem.  Here, I illustrate how a complex model of the costs and benefits of trade quarantines can be evaluated using the ISPM 15 phytosanitary measure as an example. The costs and the benefits are estimated by evaluating the effects of the quarantine on pest establishment rates and a model of pest economic impacts.

The second invasion stage is establishment, during which populations grow to an extent such that extinction is no longer possible. Establishment is managed via detection of new populations followed by eradication, the total elimination of a species from an area. Modeling of Allee dynamics provides critical information for designing eradication strategies that focus either on reducing populations below extinction thresholds or increasing Allee thresholds above current population levels; in either situation, populations can be expected to decline towards extinction. There is an inherent tradeoff between detection and eradication effort. I illustrate the use of a Poisson model for optimal allocation of resources toward detection vs. eradication.

Invasion spread is the stage during which an invading species expands into its potential range and spread is managed through containment strategies. Models can be powerful tools for the selection of containment strategies; these models allow managers to optimize the allocation of resources between the suppression of the production of outlier populations vs. the suppression of outlier populations themselves. I illustrate this type of optimization using gypsy moth spread as an example.

(森林害虫の侵入の3局面における対応について,生物-経済モデルから最適な方法を提案する。到着の局面では,検疫の費用と便益を試算する。定着の局面では検出と防除への最適な努力の割り振りを議論する。拡散の局面では封じ込めのための戦略の立て方を,マイマイガの例から紹介する。)


平成23年7月11日

話題1:岩手県内陸北部で発生した冠雪害の被害状況

東北支所 育林技術研究グループ 櫃間 岳

2010年12月末に岩手県内陸北部で発生した冠雪害について、調査の進捗状況を報告した。

被害の広がりは、一戸町から岩洞湖に至る南北の範囲に激害地があること

樹木の倒伏が起きた日にちは、2010年の12月25日と30日の2回の降雪時であり、このことが現地の聞き取りとアメダスデータによる気象解析の双方から裏付けられたこと

被害樹種は、アカマツ、カラマツ、スギ、シラカバの4樹種で顕著であり、被害形態が樹種によって異なること

気象条件と、林分状態・施業履歴の双方から被害要因の抽出を目指していること

被害概況の把握がおおむね一区切りしたので、7月中旬以降は毎木調査を開始すること。調査の内容を紹介し、協力依頼をお願いした。


話題2:多年生植物における隔年繁殖のメカニズム;大量開花をもたらす至近要因からの理解

岡山大学大学院 環境学研究科助教(特任) 宮崎 祐子

多くの多年生植物では、開花量や種子量が著しく年変動し、個体間で同調することが知られています。この現象はマスティングと呼ばれ、全球的にかつ多種にわたって観測されています。特に木本植物のマスティングの場合、森林の更新過程やげっ歯類などの種子捕食者の個体群動態への影響を通して、生態系に大きなインパクトを与えます。一方、マスティングがどのようにして引き起こされるのか、そのメカニズムは未だ解明されていません。これまでの研究から、マスティングには花芽分化から種子成熟に至るまで、気温などの気象要因と資源量状態などの内的要因の両者が影響することが示唆されています。本セミナーでは、マスティングの必要条件である、大量の花芽が用意され開花することに焦点を当て、花芽生産が行われるための条件を検討した研究について紹介します。


平成23年5月30日

生息地の異質性がもたらすカヤネズミ個体数の安定性

秋田県立大学 森林科学研究室 流動研究員 黒江 美紗子

野生生物の生息地の分断化は、生物多様性を低下させる主要因として注目されています。生息地の分断化は、生息場所の縮小や孤立化だけでなく、生息場所そのものや移動空間であるマトリクスの劣化をもたらすことが指摘されています。本研究では、草地に生息するカヤネズミを対象に、分断化がもたらす生息個体数の変化には、生息場所の植生構造の均質化が関与していることを明らかにします。

対象とした千葉県九十九里平野では、本種の生息場所がパッチ状に分布しており、面積の小さな生息場所では植生構造の単純化が見られます。季節を通した本種の群落利用を調べたところ、繁殖に適した植生と越冬に適した植生が異なることが明らかになりました。そのため、1)どちらか一方の植生しか含んでいない小さな生息パッチでは、植生タイプが異なる生息パッチが近接しているとメタ個体群サイズが大きくなること、さらに、2)どちらか一方の植生になりやすい地域では、メタ個体群サイズが変動しやすくなることも明らかになりました。本発表では、植生管理の異質性が、生息パッチ同士の異質性を介し、カヤネズミ個体数に安定性をもたらすという一連のメカニズムについて紹介します。

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平成22年度

平成22年11月24日

長期観測が捉えた多様な地すべり変動-降雨・雪・地震との関わり-

東北支所 森林環境研究グループ 岡本 隆

地すべりとは、山地斜面の一部が比較的ゆっくりと下方へ滑り落ちる現象です。地すべりがひとたび動き出すと人力で抑えることは困難なため、下流域の建造物、道路、耕作地ときには人命に至るまで大きな被害が生じます。地すべりは降雨、融雪、地震などの外的要素を誘因として移動します。種々の誘因に対する地すべりの移動メカニズムの解明は、地すべりの発生予測の基礎となり、的確な避難警戒や対策計画に結びついていきます。
森林総合研究所では新潟県上越市の伏野(ぶすの)地すべり地に観測試験地を設定し、1988年以降20年以上にわたって地すべりの自動観測を続けてきました。単一の地すべり地において、これほどの長期にわたって観測が続けられてきた例は極めて珍しいと言えます。この間、試験地では豪雨や豪雪、また大規模地震といった多様な誘因現象が生じ、そのたびに特徴的な地すべり移動を観測してきました。本ゼミでは独特の観測機器と併せて、次第に明らかとなってきた地すべりの移動メカニズムを紹介します。


平成22年6月24日

ナラ類集団枯死におけるケルキボロール(カシノナガキクイムシ集合フェロモン)の役割推定

東北支所 非常勤職員 中島 忠一

日本海側のミズナラを最感受性種とするナラ類の集団枯死はカシノナガキクイムシの集中加害により引き起こされている。カシノナガ キクイムシのパイオニアは寄主木に孔道を掘り、尾端からケルキボロールを分泌し、穿入木に対する同種雌雄成虫の集中的な飛来を生 じさせる。集中加害を受けた寄主は通水障害により枯死する。集合フェロモン主成分であるケルキボロールのカシノナガキクイムシ成 虫に対する誘引性は野外試験で確認できたが、捕獲数は集中飛来時の個体数に遠く及ばない。これまでの知見から推定した集中飛来に おけるケルキボロールの役割について述べる。


平成22年5月31日

森林の炭素量に関わるパラメータのリモートセンシングによる把握

東北支所 地域資源利用担当チーム長 小谷 英司

森林の炭素量に関わるパラメータのリモートセンシングによる計測手法の開発を大きな目標として、タワーによる実測から、航空機観測、高解像度衛星などを用いた手法を研究してきた。これら過去12年の概要を報告する。
第一期は、川越、安比や東北支所構内ブナ林のタワーなどで、可視・近赤外分光反射を計測し、同時にLAI、fPAR、クロロフィル量など炭素吸収量に強い影響を与えるパラメータ群を計測し、分光反射での推定手法を検討した。
第二期は、四国西部で石鎚山から足摺岬まで南北に縦断する生態系トランセクトを設定した。これは比較的狭い範囲に、常緑広葉樹林、落葉広葉樹林、スギ・ヒノキ人工針葉樹林など日本の主要な植生タイプを含む。航空機レーザープロファイラー観測と地上プロット調査を行い、LAI、平均樹高、林分材積、炭素蓄積量、地位指数の広域推定手法を開発している。
GPSや四万十川流域のモニタリングと評価など、その他のトピックも準備ができれば併せて報告する。

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平成21年度

平成22年3月31日

積雪が植生分布に及ぼす影響

東北支所 森林生態研究グループ 杉田 久志

日本海側山地は、冬季の北西季節風がぶつかる際に多量の降雪がもたらされ、世界一の多雪山地となっている。一方、太平洋側山地では雪を落とした風が吹き抜けるので積雪が少ない。この際立った積雪環境のちがいに応じるように地域的に異なる植生が成立していることは、日本の自然の大きな特徴である(鈴木,1952)。とくに本州の亜高山帯針葉樹林では、少雪山地でコメツガ、シラベが、多雪山地でオオシラビソが優勢となる。しかし、積雪が多くなるとなぜコメツガが劣勢になり、オオシラビソが優勢になるのか、そのメカニズムは明らかにされていない。そのような植生分布は、積雪の影響下で森林の更新過程のなかで形成されものであり、とくにタネ、実生、稚樹といった更新初期の段階において積雪がもたらす更新阻害効果が重要と考えられる(杉田,2002)。稚樹の定着場所、実生の生残過程のちがい、積雪下の温度環境、タネや実生を脅す菌害との関連から、その成立メカニズムについて検討してみたい。
(1) 多雪な山ほど更新が阻害されているのか?
コメツガ、オオシラビソともに、積雪の少ない山では小サイズのものほど数が多いL字型の個体群構造であったが、多雪山地になるほど小径木や稚樹・実生に乏しくなり、その定着場所も地表上が減り、根張り、倒木、根返りマウンド上に集中していく傾向がみられた。ただ、コメツガは雪の少ない富士山ですでにその傾向が顕われていたのに対し、オオシラビソは雪の多い山でようやく顕れ始めた。このように、多雪山地では地表における更新阻害が起こっており、その阻害程度はコメツガで著しく、オオシラビソはそれほどでもないことがわかった。
(2) どの段階で更新阻害が決定的になるのか?
発芽前段階の種子の死亡率は、多雪な山ほど高いという傾向はなかった。実生の消失過程では、コメツガは少雪山地の富士山では地表上で実生バンクが維持されていたが、中雪山地の早池峰、多雪山地の八幡平では維持されていなかった。一方オオシラビソは、中雪山地、多雪山地でも地表上で実生バンクが維持されていた。このように発芽数年以内の実生段階で多雪環境におけるコメツガの更新阻害が決定的になることがわかった。
(3) 雪が多いとなぜ定着が阻害されるのか?
実生やタネの環境として重要と考えられる地表面温度を観測したところ、1日を通してマイナス値を示した(凍結)日数は、少雪な富士山が約3ヶ月に及んだのに対し、多雪な八幡平では根雪当初の数日しかなく、それ以外は半年以上にわたる積雪期間を通して0℃の状態が続いていた。0℃という温度環境では多くの菌類が活動を停止するが、一部のグループ(雪腐れ病菌)は活動を続けてタネや実生を侵すことが知られている。多雪山地では、積雪の保温効果のため地表面の温度が雪腐れ病菌の活動が可能な範囲に長期間保たれ、とくにコメツガの実生定着が著しく阻害されるが、少雪山地では地表面が凍結して雪腐れ病菌の活動が停止する期間が長いと考えられる。雪腐れ病の感染から免れる期間の長さや両樹種の耐菌特性が更新成否のカギとなっている可能性がある。


平成21年10月6日

話題1:ブナの開芽フェノロジーからみたブナ北限問題に関する一考察

東京大学 農学生命科学研究科附属北海道演習林 梶 幹男

日本の森林帯を分かつ環境要因として、温度条件が最も重視され、また、それによって個々の樹種の地理的分布も説明されてきた。ブナが黒松内低地帯を北限としている事実は、明治期に日本の森林帯について論じた田中壌、本多静六らによってすでに明らかにされている。北海道の低地のほぼ全域が温度的にはブナが生育可能な温帯域に相当するにも拘わらず何故そこに分布していないのか、あるいは分布し得なかったのかという疑問が生じる。この問題に関しては、単純に温度条件だけでは説明できないことが、温帯の北限をどこに置くかの論議とともに、ブナ北限の成立条件について多くの研究者が注目し、その解明に向けて数多くの仮説が提唱されている所以でもある。
筆者らは、産地の異なるブナの開芽フェノロジーについて長年観察を続けてきた。そのなかで、以下の点が明らかにされている。開芽の時期は、北海道・東北地方のものが早く、関東以西の本州・四国・九州産のものが遅く、日本海側の北陸・近畿産は両者の中間的傾向にある。地域集団間の開芽の遅速は、4年間ほぼ同じ傾向を示したことから、植栽地における気候に順化しがたい性質(遺伝的)といえる。
ブナは従来から晩霜害を受けやすい樹種であることが指摘されており、晩霜害によって枯死した例も知られている。東大北海道演習林のブナ産地別試験地で1998年5月10 ~11日に発生した晩霜害と開芽状況の観察結果から、晩霜害を受けるか否かは、開芽時期と密接な関係があり、開芽時期が早いほど霜害率が高まることが明らかになった(梶・高橋1999)。さらに、同試験地のブナは10年後の2008年5月9-10日に再び激しい晩霜害に見舞われた。また、2度の晩霜害が発生した同時期に北限地域のブナ林においても晩霜害が発生したことが明らかにされている。
一方、ブナの地理的変異に関する遺伝子レベルでの最近の研究から、8つの地域集団に区分されることが明らかにされている(Tomaru et al.1998)。そのなかで、北海道および東北地方北半部日本海側の集団は同一の遺伝子からなる地域集団にまとめられ、その集団は開芽時期の早い産地グループと対応する。したがって、このような特性をもったブナ地域集団が北限をなしている点に注目すると、北限界付近の早く開芽するブナの特性は、それによって得られる利益とともに、晩霜害を受けやすいという不利益を内在しながら北限に達したものといえる。
上記の点から、北限をなすブナ地域集団の開芽特性が、同種の分布限界付近における生存や分布拡大を左右する要因の一つとして、重要な生態学的意味をもつと考える。


話題2:イヌブナ当年生実生定着に及ぼすシカ採食の影響

東京大学 農学生命科学研究科森林科学専攻D1 石塚 航

近年、シカの個体群増加による森林衰退が問題になっている。増加したシカの採食は、最も脆弱な定着段階にある樹木実生にも大きく影響を与えることが言われ、実生死亡要因の相対的重要度の変化やそれに伴う実生定着条件の変化が予想される。そこで、本研究ではシカ (Cervus nippon) の個体群が増加している、秩父地方の太平洋側山地天然林を対象地とし、優占種として極相林を形成するイヌブナ (Fagus japonica) 実生の発生と当年のデモグラフィーを詳細に追跡した。調査地はその一部をシカ排除柵で囲い、2005年のイヌブナ豊作年にあわせ、翌年よりシカ柵の内外で調査を行った。
1年間の実生の生残率はシカ柵の外では2.0%、内では9.4%と、シカ柵の外で死亡率が高く、その主たる要因はシカの採食によるもので4月から5月にかけて集中的に発生していた。ところが、実生の発生は4月から6月下旬まで続いているため、発生時期によって実生の採食圧は変化することが明らかになった。一般的には、発生の早い実生のほうがより良い成長、生残が見込めるために有利となるが、結果からは、シカの採食の影響によってその有利性は成立せず、実生定着に関わる季節性が変化しうることがわかったので、本発表にて紹介する。


平成21年8月31日

東北育種場で行っている品種開発と調査研究について

東北育種場 育種課 星 比呂志

東北育種場では、東北育種基本区(青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県及び新潟県の6県の地域)を対象地域として、林木の新品種の開発とこれに関連する調査研究を行っています。今中期計画期間においては、(1)花粉症対策に有効な品種として、花粉の少ないスギ品種、雄性不稔スギ品種、(2)地球温暖化防止に資する品種として、二酸化炭素吸収固定能力の高いスギ品種、(3)国土保全、水源かん養、自然環境保全の機能向上に資する品種として、マツノザイセンチュウ抵抗性アカマツ・クロマツ品種、スギカミキリ抵抗性スギ品種、雪害抵抗性スギ品種等、また、(4)林産物供給機能向上に資する品種として、成長・材質の優れたスギ品種、スギ、アカマツの第二世代品種の開発に取り組んでいます。今回は、これらの品種開発の経過、成果、課題等について紹介させていただきます。


平成21年7月31日

土地利用が鳥類多様性に及ぼす影響:マルチスケールアプローチ

森林昆虫研究領域 学振PD 山浦 悠一

4月から東北支所にお世話になっている山浦です。現在、北上山地の草地環境で生物相の調査をしています。今回のもりゼミでは、私がこれまで行なってきた研究と現在行なっている研究を紹介できればと思います。
私はこれまで、鳥類群集に林分の組成や構造、広葉樹林パッチの面積や形、景観内の広葉樹林の面積や配置が及ぼす影響を調査してきました。その結果、林分構造が複雑な人工林には多くの鳥類が生息すること、広葉樹林パッチの面積や広葉樹林の配置の重要性などが分かってきました。最近は鳥類多様性の決定要因をよりマクロなスケールで検討しようと考えています。いくつか研究を行なったところ、国土規模での林業活動の重要性や、気候と地形は土地利用を介して鳥類多様性に影響を及ぼしうることが分かってきました。
現在、伐採地や新植地などの二次的な草地環境が生物多様性の保全において果たす役割について興味を持ち、北上山地をフィールドにして研究を行なっています。今回の研究は鳥類だけではなく、ハナバチや植物も対象とし、リモートセンシングやGISなども用いる予定です。皆さんのお力をお借りしながら、何とか研究を進めたいと思っています。どうぞよろしくお願いします。


平成21年6月22日

渓流水質は何によって決まるのか? -四万十川源流域での物質収支研究から-

東北支所 森林環境研究グループ 山田 毅

発表者は、長年降水や渓流水のモニタリングに係わっており、森林流域における物質収支の研究を行ってきた。これまでに研究対象とした四万十川は「日本最後の清流」と呼ばれ、水質の良好な河川として有名であるが、流域内の森林の人工林化や間伐遅れなど管理水準の低下した森林の増加に伴って水質の悪化が懸念されている。
四万十川流域の渓流水質に関する研究から、渓流の水質や流出する物質量を決める主な要因が地質や水量であること、適切に管理された森林であれば天然林よりも人工林の方が窒素を流出させにくい系であることなどが明らかになってきた。また併せて、現在森林環境研究グループが研究を行っている東北地方の渓流水質についても触れたい。


平成21年6月8日

現地調査や管理に強力な味方!空中写真から作成する精密オルソ画像

東北支所 研究調整監 中北 理

山の状態を知る方法の1つに空中写真や衛星画像があるのはよく知られています。広域を一瞬にして把握するには最適な情報源です。しかし、残念ながらその利用の多くは、単に「眺める程度」で終わっている場合が多いのです。空中写真や衛星画像から図化したり情報を取り出すには特別な機器や専門的な知識が必要だったからです。
しかし、山の樹木一本一本を手に取るように把握し、山岳地においてもその情報が平面位置誤差で40センチ、高さ誤差で2m以下とすればどうでしょう。これは現地でポケットコンパスなどで計測するよりも精度が高いのではないでしょうか。このような情報が実は最近の航空写真技術で容易に使用できるのです。山地での研究や管理(特に GIS)に活用することで非常に大きな効果が期待できます。
なぜ、可能になったのかその背景と、人工衛星画像との違いを解説します。この空中写真から作成した精密オルソ画像を活用した高度化事業プロジェクト「航空写真と GISを活用した松枯れピンポイント防除法の開発」も紹介します。


平成21年5月18日

森林総研におけるバイオマス研究 -その1 プロジェクト研究の歴史-

東北支所長 山本 幸一

1980年以前にも、森林資源を増大するための肥培や育種技術、木炭の利用、松根油の利用、リグニンの利用など今流で言えば、バイオマス研究に相当する課題は多く行われてきたが、ここでは、1980年以降の研究を紹介する。
1980年代からバイオマスという言葉を使って始まったプロジェクト研究は、二度にわたる石油ショックを契機とした資源・エネルギーの有限性の認識のもと、バイオマスを食料・飼料・エネルギーに効率よく変換する技術体系を確立することが目的であった。農水省技術会議が主導し、森林総研から多くの分野が参画した総合プロジェクトであった。
その第1弾は、「バイオマス変換計画-豊かな生物資源を生かす-(1981-1990)」であり、森林総研としての大きな柱は広葉樹資源の生産増大法の開発と導入であり、ポプラ、カンバ、ユーカリ、ギンネム、アカシア、コジイ、ヤナギ、ササ、クワなどの成長特性を調べ、収穫・搬送技術を開発した。バイオマス利用については、蒸煮処理(高温高圧で煮る)したシラカンバの飼料としての実用化を行い、飼養マニュアルを作成した。
第2弾は、「バイオルネッサンス計画-多様な生物資源から新しい用途を創出-(1991-2000)」であった。バイオマス資源の育成が引き続いて大きな柱であり、エゾノキヌヤナギで、年平均のヘクタールあたりの材積成長が30mあるクローンを選抜した。利用に関しては、未利用低質材(小径材や木っ端)から建築材料を製造する技術、木材や樹皮から生分解フィルム、ポリウレタン、接着剤などの機能性材料を製造する技術を開発した。
第3弾は、「農林水産バイオリサイクル研究(2001-2006)」であった。バイオマス・ニッポン総合戦略(2002.12)の決定の前から開始されたもので、経済と環境を両立させるため、有機性資源の適正利用とリサイクルを進める資源循環システムを構築することを目的に据ていた、それ故、木質系廃材の多段階利用のための個別技術開発と地域実証化や、廃材からの厚物パーティクルボードの開発と性能評価、廃材の爆裂処理による繊維化と新規材料への応用、廃材の亜臨界水による糖化、微生物によるリグニン分解物の高機能プラスチック原料への変換など、廃材利用を目的とした個別要素技術の開発が主な課題であった。
現在は、「地域活性化のためのバイオマス利用技術の開発(2007-2011)」であり、バイオマス利活用による地球温暖化問題の緩和、及びバイオマス利活用により地域活性化を図ることを目的にしている点は、これまでのバイオマス研究と大きく異なる。森林総研が受け持つ大きな課題は、3つ有り、木質バイオマスをエタノール等に変換する技術の開発、岐阜中山間地における木質バイオマスの利用モデルの構築、木質バイオマスを利用したマテリアルの製造技術である。もう一つの大きな課題であるバイオマス資源(サトウキビやテンサイなどの資源作物)の育成の課題には、残念ながら木質系は入っていない。


平成21年4月13日

第四紀の気候変動がツキノワグマ個体群の遺伝構造に与えた影響量推定

東北支所 生物多様性研究グループ 大西 尚樹

本州におけるツキノワグマは琵琶湖以西ではいくつかの孤立した地域個体群 として分布しているが,琵琶湖以東では青森県南部にまで大きく連続して分布 している.
本州全域および四国で捕獲されたツキノワグマのミトコンドリアDNA D-loop 領域約700塩基の配列を決定し,系統地理学的解析を行った.その結果,国 内のツキノワグマは琵琶湖以東(東クラスター),琵琶湖以西(西クラスター), 四国・紀伊半島(南クラスター)の3系統が存在することが明らかになった. 中国・北朝鮮・台湾のツキノワグマと比較すると、これらとは明らかに異なる クラスターを形成していた.このことから,日本のツキノワグマは朝鮮半島を 通じて大陸から1回入ってきた後、短時間で3系統に分岐が進んだと考えられる.
琵琶湖以東の東クラスターの分布域では38ハプロタイプが観察されたが,そ のうちの2タイプは東日本全域に分布しており,残る36タイプは局所的に分布 していた.これは祖先的な2タイプが分布を拡大後,局所的な進化が進み,そ の後遺伝子流動はほとんど行われていないためと考えられる.また,東北の3 個体群では遺伝的多様性が低く,氷河期中に小さな集団として維持されたため に遺伝的浮動が強くかかり,多様性が減少したものと考えられる.関西以西の 西日本(西クラスターおよび南クラスターの分布域)はハプロタイプが各個体 群に特異的に分布しており,さらに遺伝的多様性は低かった.西日本では氷河 期中でもツキノワグマは広く分布していたと考えられ,この地域での多様性の 減少は,近年の孤立・小集団化の影響によるものと考えられる.

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お問い合わせ

所属課室:東北支所 担当者名:育林技術研究グループ 齋藤 智之、森林環境研究グループ 阿部 俊夫

〒020-0123 岩手県盛岡市下厨川字鍋屋敷92-25

電話番号:019-641-2150 (代表)

FAX番号:019-641-6747