研究紹介 > トピックス > 研究広報特設サイト > 2022年度 森林総合研究所公開講演会「ネットゼロエミッション達成のための森林の役割」 > エリートツリーの開発・普及と森林吸収源
更新日:2022年11月1日
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林木育種センター育種部育種第一課 課長 栗田 学
Q1:同一遺伝子を持ったエリートツリーが多数、集中的に植林することにより、将来特定の病虫害や環境変化に対して柔軟性(レジリエンス)が低くなるのではないか。サンブスギによる非赤枯れ溝ぐされ病の例があるが。
A1:林木育種の実施に当たっては、運営の基本単位として全国に5つの育種基本区を設け、地域の特性を踏まえた林木育種を推進しています。エリートツリーも各育種基本区で、それぞれの地域に適した、遺伝的背景の異なる多様な系統を選抜しています。それら地域に適した複数の系統を活用して、都道府県や特定母樹の場合は認定特定増殖事業者によっても採種園や採穂園(採種穂園と言います)が整備されます。採種園の設計にあたっては、採種園を構成するクローンの血縁関係にも配慮した設計となるよう技術指導も行っています。そのようにして整備され、遺伝的に多様な系統で構成された採種穂園から山行き苗木が生産されるため、エリートツリー由来の苗木によって生産された山も、病虫害や環境変化に対する柔軟性に配慮された作りとなります。
Q2:生産林としては、単一林が今後も主流になるのでしょうか。針広混交林かという言葉を、聞くことが多いですが、スギやヒノキ以外の樹種でも、エリートツリーの取り組みは進んでいるのでしょうか?それとも、針広混交林ではエリートツリーのようなものは、需要がないのでしょうか?
A2:現在、エリートツリーはスギ、ヒノキの他に、カラマツ、トドマツ、アカエゾマツから選抜を進めていますが、何れも針葉樹になります。林野庁より「条件不利地等では、公益的機能の維持・増進を図るため、立地条件等に応じた針広混交林化等の育成複層林への誘導の推進を通じて多様で健全な森林へ誘導」するという考え方が示されており、針広混交林は木材生産等、資源を循環利用していく森林というよりは、公益的機能の維持・増進を図ることを目的とした森林へ誘導する際の選択肢として挙げられています(林野庁(2020)多様で健全な森林への誘導)。ご指摘いただきましたように、早期の成林が森林の公益的機能の高度発揮には必要です。成林までに要する期間短縮にもつながるエリートツリーを針広混交林で活用いただくことも、植栽場所の地位等環境条件によって効果の大小はありますが、有効な活用方法の1つと考えられます。さらに、エリートツリーは木材生産の短期間化にも効果的であると期待されるため、適切なゾーニングにもとづき、採算の合う場所で、木材生産を集約的かつ持続的に行う森林の造成に活用することで、エリートツリーの利用効果をより高度に発揮できるものと考えます。
Q3:シカ防護策は必ず必要なので、その諸経費を入れた場合の再造林する費用の割合を算出していただきたく思います。また、そのための木材価格はいくらでないといけないかご提示いただきたく思います。
A3:令和3年度森林・林業白書において、「これからの林業の収支構造試算」が報告されており、エリートツリーを活用した「新しい林業」の実施により、獣害防護柵を設置した上で、1500本植栽、30年伐期で主伐を行った場合に、haあたり113万円の黒字となると試算されています。詳しくは、同白書を参照願います。
Q4:エリートツリーの主伐期は通常の苗木と比べてどのくらい早くなるのか?林齢、胸高直径および樹高の関係を教えていただきたく思います。
A4:一般的にスギの伐期は、植栽地域や植栽環境にもよりますが、40〜50年とされています。一方、エリートツリー由来の苗木を植栽した場合、まだ具体的なデータがあるわけではありませんが、伐期が10年程度前倒しになる可能性があるだろうと期待しています。エリートツリー由来の苗木の一般造林地への植栽は開始されて間もないため、実際の林齢に伴う樹高成長曲線や収穫予想表等は今後得られるデータを元に整備していくことを想定しています。引き続き情報の集積を進めるとともに、適宜情報の発信に努めたいと思います。
Q5:エリートツリーは一般に手に入りますでしょうか?
A5:エリートツリー由来の苗木の入手については、各都道府県の林業関連試験場や山林種苗協同組合にお問合せください。お問合せ先の情報については、森林総合研究所林木育種センターのパンフレット(品種開発の紹介、https://www.ffpri.affrc.go.jp/ftbc/documents/hinsyu.pdf)にも記載しておりますのでご確認ください。
Q6:エリートツリーの他、早生樹も期待されているが、関東以北などの比較的すずしい土地に適した早生樹はあるのでしょうか。
A6:東北地方における早生樹として、ユリノキ、シラカンバ、オノエヤナギなどの広葉樹を中心とした植栽試験等が実施されているとの情報があります(https://www.ffpri.affrc.go.jp/touiku/research/documents/221.pdf)。
Q7:成長の早いエリートツリーは密度が低くなりませんか。
A7:スギにおいては、樹高と容積密度の両形質がともに優れたクローンを選抜できる可能性が示唆されており(田村ら(2006)日林誌88(1):15-20)、成長の早いエリートツリーの容積密度が、必ずしも低くはならないと考えられます。
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