更新日:2023年2月7日

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タネを集めよう

 シリーズ10回目は、「タネを集めよう」-樹木の遺伝資源の探索・収集-です。

 林木ジーンバンクという事業があります。読んで字のごとく樹木の遺伝子銀行という意味です。
これは、林業に重要で品種改良の材料となるような樹木、あるいは有用広葉樹など今後新たに品種改良に利用される可能性がある樹木、そして絶滅危惧種や天然記念物等希少な樹木、これらの種子や花粉の収集・保存あるいは育種場内の圃場に植えて樹木として保存する事業です。今回のテーマは種子の収集・保存。

 育種場の職員は、キョロキョロと上を見ながら山を歩きます。探しています。

 春~夏、その年にタネを集める予定の樹木(例えば、近年集めているのはブナ、イタヤカエデ、オニグルミ、キハダ、ケンポナシ等々)の花や若い果実の開花・着果状況を確認しに行きます。どの山に行けば目的の木があるのか、よく情報収集(過去の記録や論文、ネット情報、国有林職員からの聞き取りなど)した上で行かなければなりません。特に個体数の少ない樹種の場合は情報収集が重要です。
 現地でうまいことお目当ての樹種が見つかったら、
 双眼鏡で花がついているか確認【写真-1】!花がついていれば秋のタネ採取候補木。
 専用のアプリが入ったスマホやタブレットに位置情報、開花状況、周囲の情報、写真等を記憶【写真-2】。今年か来年以降、収集にもう一度この場所に来なければいけないので、これはなかなかの優れもの、便利です。

 

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        【写真-1】花みっけ!
    双眼鏡で花や若い果実がついているか確認中。
         【写真-2】文明の利器
    昔は、高価なGPSを持ち歩き、地図に樹木の位置を落として、
   情報をメモして、それを事務所に戻って整理。
    今は、現場でピピッとOK!

 

 秋、タネ取りの季節、春の探索情報を元に現地に向かいます。時機を逸するとタネが落ちてしまっている樹種もあるので「いつ取りに行くか」を決めるのも重要【写真-3】。経験ですね。
 思惑通り豊作!だったとしてもタネが手の届くところにあれば問題ないのですが、そのような木は滅多になく、ほとんどは高い木の上。そんなときに活躍するのが測桿鎌【※】、釣り竿のお化けみたいで先端に小さな鎌がついている、これでタネがついた枝を切り取っていきます。大きいものだと長さ20m、重さ約5kg。こうなると扱いには熟練が必要です【写真-4】。
 時には希少な樹木のタネの収集も【写真-5】。その際には、特に注意して枝を落とします。
 なお、タネを採取した木については胸高直径や樹高を計測し、タネの保存と同時にデータとして記録していきます【写真-6】【写真-7】。

 収集後は、茨城県にある林木育種センターに送ります。ここに全国から集められたタネ等の保存施設があるのです。林木ジーンバンクの本部ですね。ここでは、それぞれの樹種にあった保存方法の研究なども行われているそうです。

 

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     【写真-3】ブナ
   ブナの果実。写真左の段階で収集。
   時機を逸すると囲み写真のように、中にあるタネが落ちてしまう。

【写真-4】とどけ!20m!
 この写真に入っている測桿鎌が約10m。つまり、
この写真の倍の長さの所まで先端を伸ばして、枝
を切り取っています。

 

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         【写真-5】サクラバハンノキ
 岩手県では絶滅の危機に瀕しているAランクの種で日本最北限の生育地。全国的
にも自生地は点在しているのみ。このため町の許可を得て収集。
 囲み写真は、その果穂。果穂はうろこ状になっていて、その間に沢山のタネが挟
まっている。

 

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     【写真-6】胸高直径の測定
     直径巻き尺を使って、胸の高さぐらいの位置で直径を計測。
         【写真-7】樹高の測定
 測定者と木までの距離を超音波の反射時間で計測し(囲み写真は計測する木に付
けた反射板)、次に木の先端を覗くことにより角度を測ると、機械が樹高を表示し
てくれます。
 距離と角度が分かれば高さが計算できる、三角関数ですね。

 

  【※】測桿鎌  カーボン製の釣り竿の先に鎌を付けたようなもので【写真-8】、長いものだと20mまで伸び、これでタネのついた枝を切り取る。育種場御用達、特注、というか他でこれを使うところないっしょ。
 作業中は常に真上を向いていなければならないので、これを長い時間やっていると、首が痛い、苦しい。10m位なら結構楽しく切り落とすことができるが、 20m全開!!!
 となると、かっ風が!先がしなって狙いが定まらない!先端がよく見えない!重い!首が痛い!さらに山の中だと斜面で足下悪っ!周りの木が邪魔して思うようにタネのついている枝まで鎌がたどり着けない!
 これを使いこなすのは一つの技(ワザ)、他に応用のしようがないけどこれがないと仕事ができない必要不可欠な技(ワザ)ですな。
 昔は、ボウガンで紐を付けた矢を上の枝にピューと飛ばし、その紐をたぐり寄せ、紐に繋げた“ワイヤーのこぎり”のような特殊なソーチェーンで枝を切り落とすという、マンガのような技があったそうな。技術遺産ですね。

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         【写真-8】20mの測桿鎌
 釣り竿のように伸縮する。一本が約1mなので、この中に19本しまわれている
ことになる。
 鎌の部分(囲み写真)を枝にのせ、引いて切り落とすイメージ。なので鎌の切
れ味も重要。

 

お問い合わせ

所属課室:東北育種場連絡調整課 

〒020-0621岩手県滝沢市大崎95

電話番号:019-688-4518

FAX番号:019-694-1715

Email:touhokuikusyu@ffpri.affrc.go.jp