ホーム > 業務紹介 > 【コラム】教えて、「東北育種場」のお仕事 > 育種って何? 望まれる個性を持った木を求めて②「人工交配-1」
更新日:2023年7月31日
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前回は「育種って何?」についてでしたが、今回は育種の基本技術「人工交配」について。題材は日本の主要な林業樹種であり、東北育種場で扱っているスギ、カラマツ、クロマツ・アカマツです。
人工交配は、それぞれの特性を持った個体同士を掛け合わせる(交配する)ことにより、望まれる特性を持った樹木を生み出そうとするもので、具体的には雄花を取ってきて花粉を集め、雌花に袋をかぶせ、花粉を注入し受粉させる、ということを行います。基本的にどの樹種もやり方は同じなのですが、それぞれが微妙に違います。順を追って見ていきましょう。
0.ジベレリン処理
種なしブドウを作るために使われるのがジベレリンという植物ホルモン。これをスギに使うと人為的に雄花、雌花の形成を促すことができるのです。ジベレリンの散布は噴霧器を使います【写真-1】。散布の時期は地域によって違いますが7月を中心に、早い時期に散布すると雄花が、遅い時期に散布すると雌花が多く付く傾向にあるそうです。つまり、人工交配を行いたいスギ、あるいは花粉が欲しいスギにジベレリンをまいておくと、翌年の春には沢山の雄花や雌花を得ることができるのです。スギは着花をコントロールすることができるので、人工交配が行いやすい樹種と言えます。
一方、一般的にジベレリンはカラマツやクロマツ・アカマツには効かないと言われています。スギに使えるワザなのです。不思議ですね。逆に言うと、カラマツやクロマツ・アカマツは自然任せ、人間の思ったとおりにはいきません。
へぇ~、そうなんですか!① ★スギ★ かつては花粉量の多い少ないが問題になることはなかったのが、今はこれが重要。このため育種場では花粉の少ないスギや、全く出ないスギの開発を進めています。スギは雄花・雌花の着花をコントロールすることができる樹種であることから、人工交配が行いやすく、改良を進めやすいのです(とはいっても樹木の品種改良なので、長い時間が必要ですが・・・)。 |
1.雄花(花粉)の採取
まず、雄花(花粉)を集めよう。花粉は雄花から飛散します。
★スギ★ 早春にやってくるのがお馴染みの春の嫌われ者スギ花粉、これの採取です。3月に入り雄花がふくらんできたら【写真-4】、雄花が沢山ついた枝ごと切り取ってきて袋(グラシン紙の袋)をかぶせて、生け花のように水に挿します【写真-5】。すると、じきに雄花が成熟し、花粉が放出され袋の中に溜まります。スギは大まかな頃合いを見て雄花の付いた枝を取ってきて、水に挿しておけば良いので助かります。
★カラマツ★ 続いてやってくるのが、カラマツ。3月下旬から4月上旬頃が雄花集めの時期。ただし、スギと違い水挿しして花粉を放出させることができないことから、花粉放出直前の雄花を一つずつ摘んで【写真-6】袋に入れ、乾燥した部屋に吊して花粉を放出させます【写真-7】。カラマツ雄花は摘み取る時期の見極めが重要。雄花が成熟し花粉放出直前でなければなりません。これがなかなかやっかい。ちょっと時期を見誤ると、既に花粉が飛んでしまっていたり、採取が早すぎると花粉が出なかったり・・・と、なので季節になると足繁くカラマツ詣でをして雄花の様子を窺います。そして、雄花の数が少ないので一個一個が大事。
★クロマツ・アカマツ★ 最後は5月上旬頃にクロマツ、そしてアカマツの雄花の採取となります。カラマツ同様に水挿しができないので、雄花の成熟を見極めて取ってきます。ただ、カラマツほど収穫時期の見極めが繊細ではないので助かりますし、雄花も一個一個取るのではなく、かたまりでもぎ取ることができるので大量に取れます【写真-8】。そしてカラマツと同様に実験室で花粉の放出を待ちます。
次回は雌花への袋かけからです。袋かけは、雌花に袋を掛けることにより、予定していない外部からの花粉がかからないようにするための作業です。
日常では、カラマツやクロマツの雌花(松ぼっくりの元ですね)を見る機会はあまりありませんが、これがなかなか興味深い色や形。何枚かおまけの写真です【写真-オマケ】。
【写真-1】ジベレリンの噴霧 |
【写真-2.1】カラマツの雌花 |
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【写真-2.2】カラマツ雌花・雄花・幼葉 |
【写真-3】アカマツの未成熟な雄花と受粉から一年経過した球果 |
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【写真-4】スギの雄花 |
【写真-5】スギ雄花の水挿し |
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【写真-6】カラマツの雄花
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【写真-8】クロマツ雄花の採取 |
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【写真7-1】カラマツ雄花の採取後の取扱い 【写真7-2】カラマツ雄花の採取後の取扱い 【写真7-3】カラマツ雄花の採取後の取扱い |
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