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更新日:2022年1月4日

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あなたはどこのご出身?「広域産地試験」

 2回目は「広域産地試験」。

 

 スギは日本固有の樹木です。日本全国で育っています。日本の山に一番植えられている樹種です。
 各地で出会えるスギですが、それぞれの地域のスギには“個性”があります。遺伝的な個性です。それは材質や材色の違い、病虫害への抵抗性、成長速度、花粉の多寡、などなど様々。
 その中でも生育環境・気候に対応した個性は重要です。育った土地は冷涼か温暖か、雪が多いのか少ないのかなどの影響、です。例えば、雪の降らない土地のスギを豪雪地帯に持っていき植えると、雪の重みで曲がって育ったり、折れてしまったり、との危険があります。あるいは成長が不良になることも心配です。
 実は、主な造林樹種であるスギ、ヒノキ、アカマツ、クロマツの種子や苗木などの移動は林業種苗法という法律により制限されているのです。この法律では、例えばスギについては全国を7つの地域に分け、地域間で持ち出しはできるが受入はできない、あるいはその逆、など区分しているのです【図-1】。このため、九州出身のスギを岩手県の山に植えたいと思っても、研究などの場合を除き植えることはできないのです。地元には地元の木を植えようと言うことですね。

 

 しかし、現在、地球の環境は大きく変わってきており、樹木に対しても何らかの影響があるのではないかと考えられます。地球温暖化により気温が高くなり、また乾燥化などの影響で、今まで住みやすかった土地が住みにくくなっているかもしれません。
 このため、「気候変動に伴う気温の上昇や乾燥などの生育環境の変化に対する造林木の適応性評価を実施するため、スギなどの主要造林樹種について、産地が異なる種苗の植栽試験を広域で推進する」、つまり広域産地試験が行われているのです。簡単に言うと、“全国各地のスギを一箇所に集めて植えて育ててみよう試験”、これを全国各地で進めているのです。
 スギの広域産地試験地は、ここ岩手県のほか、計画中も含め全国に6箇所あります。
 全国各地から集められたスギの種子を各育種場で育て、それぞれの育種場で広域産地試験地として一つの場所に植えていきます。そして、気象データロガーという機材を試験地に設置して気温や地温などを観測するとともに【写真-1】、樹高や胸高直径の定期的な調査を行い、どこ出身(産地)のスギがどのくらいの成長を示すのか、また、根曲がり、幹曲がりや、病虫獣害、気象害の影響などを記録しています【写真-2】。

 

 このデータを蓄積していくことにより、将来、気候が変わってしまってもそれぞれの地域に適した種子や苗木が提供でき、確実な森林の造成につなげられるよう、準備しているのです。
      ・・・それ以前に、
        地球温暖化を少しでも遅らせるための対策を進めていかなければならない、
                             ことは言うまでもありません・・・

 

スギの配布区域

     

  

データロガーの点検

               

【図-1】スギの配布区域
矢印の向いている方向には、種子や苗木の配布(移動)が可能。
ヒノキ、アカマツ、クロマツもそれぞれ配布区域が決まっている。

【写真-1】データロガーの点検
冬、雪に埋もれ試験地に入ることができなくなる前に、
気象データを回収し、電池交換。

 試験地の調査風景              曲がってしまったスギ

【写真-2】調査風景
翌日には大雪。
雪がたくさん積もる前に終わって良かった・・・

【写真-3】あなたはどこのご出身?
雪の影響か、大きく曲がってしまったスギ植栽木。
回復するのか、このまま曲がってしまうのか、
もう少し経過観察しましょう。

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