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更新日:2023年1月11日
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さて、前回のⅡの回で接種の準備が整いました。いよいよ接種です。
まず、はじめに、抵抗性品種候補木からの種子の採取から始まり、マツノザイセンチュウ抵抗性品種として認定されるまでの大きな流れを見てみましょう。簡単なスケジュールのイメージを【図】にしました。
接種検定は、主に県で行われる2回の1次検定と、これを突破した系統を対象にした育種場で実施する2次検定があります。この厳しい試験過程を突破した系統だけが抵抗性品種として認定されるのですが、マツ枯れ激害地で生き残ったマツの種子を採取してから、認定されるまで最短で8年、寒い地域では苗木の成長が遅いため10年程度かかることもあります。
接種です(やることは1次検定も2次検定も同じ)。育種場の苗畑では、職員が1次検定を突破してきた苗木からの穂木でつぎ木して育てた接種対象木が2次検定を待っています。マツノザイセンチュウの活動が活発になる夏が接種の季節。熱中症に気をつけながらの作業です【写真-1】【写真-2】。
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【写真-1】さあ作業開始です 始める前に担当研究者から接種方法の説明。 接種は7月、夏の暑い日、炎天下での作業です。 今年は熱中症予防対策として空調服が登場(右手前のモコモコさん達)。 これはいいです。 |
【写真-2】夏の風物詩 |
冷蔵庫で保存している大量増殖したセンチュウ(Ⅱの回を参照)、あまり長生きできないので、接種日から逆算して増殖作業を進めてきました。
さあ、いよいよセンチュウの出番です、仕事してもらいましょう。
接種当日の朝、懸濁液中のセンチュウの頭数が、0.1mL当たり約1万頭となるように濃度を調整しながら食紅で色を付けます(大人数で大量の苗木に接種するので、接種漏れが分かるようにするための赤色【写真-6】)。接種は、1人がナイフで苗木の幹の樹皮の一部を剥き、傷を付けます【写真-3】。もう1人がそこにピペットで0.1mLのセンチュウ懸濁液を差していきます【写真-4】【写真-5】。接種自体は難しい作業ではありませんが、いかんせん数が多いので、連携してスピーディーに作業を進めていきましょう。
苗木の樹体内に侵入した1万頭のマツノザイセンチュウは増殖を続け、接種から10週間後には抵抗性の低い系統は枯れてしまいます【写真-7】。接種検定は、その年の気候等によりセンチュウの働きが変わってきてしまうため【写真-8】、環境等による影響を考慮して抵抗性を判定する必要があることから、対照としてセンチュウへの抵抗性の程度が分かっている系統にも接種し、比較検討しています。
多くの関門を突破し、手塩にかけて育ててきた苗木ですが、マツ枯れ激害地から選抜された個体が抵抗性品種になる割合は、アカマツ・クロマツともに1%未満!!! 狭き門です【写真-7】。
最後に合格個体のDNA検査で系統を最終確認した上で、マツノザイセンチュウ抵抗性品種として申請、認定!!!
認定された抵抗性品種で採種園を造成し、種子生産を始め、マツノザイセンチュウに抵抗性を持つ苗木を生産、植栽。
時間がかかります。
しかも、生産される苗木はあくまで枯れにくい品種であって、絶対枯れないわけではない。でも、これを地道に進めていかなければ日本の原風景の一つ白砂青松、海岸林、美しい松林、そして木材資源としてのマツは守れない・・・
現在はこの抵抗性品種どうしを交配し、第2世代の作出も始まっています。より抵抗性が強く、なおかつ成長や材質の良い抵抗性品種を作り出そうとしているのです。
今回は「海を越えてやってきた侵略者との120年の戦いⅢ」のエピローグ。だけど戦いはまだまだ続きます・・・
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【写真-3】皮むき |
【写真-4】接種① |
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【写真-5】接種② ナイフで皮をむき傷つけた箇所にセンチュウ接種!!! これで約1万頭のマツノザイセンチュウが苗木の中に侵入!!! |
【写真-6】接種済は赤!!! これなら一目瞭然。接種漏れが防げます!
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【写真-7】接種検定結果① |
【写真-8】接種検定結果② |
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