ホーム > 研究紹介 > 刊行物 > 研究情報 1988年 > 研究情報 No.10 (Nov. 1988)
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支所長 有光一登
10月1日付けをもって農林水産省林業試験場は組織が改められ、森林総合研究所と改称されました。これにともなって、林政統一以来40年の歴史をもつ関西支場も森林総合研究所(略称森林総研)関西支所と改称され、新たにスタートすることになりました。
関西支所におきましては、今回の改組で育林部の造林研究室、経営研究室、土壌研究室、防災研究室に加えて、風致林管理研究室が新設されました。保護部はこれまでと同じく樹病研究室と昆虫研究室で構成されます。この他、従来の調査室が連絡調整室に改められ、地域のニーズの的確な把握、公立試験研究機関との研究分担、連携等の連絡調整機能が強化されることになりました。
筑波の本所にあっては組織の大幅な改変があり、部・科・研究室の名称も大きく変わりましたが、関西支所では大きな変化はなかったようにみえます。しかし本・支所体制を堅持して新しい歩みを始める森林総合研究所の、主要な構成メンバーとして、地域の森林・林業の現状をふまえて研究基本計画の見直しを行い、新しい研究問題、大・中・小課題の編成を行いました。新研究基本計画では下記の2つの研究問題、5つの大課題が設定されています。
研究問題1:風致林及び都市近郊林の育成・管理技術の高度化(大課題1.都市近郊林の造成・管理技術の向上、同2.都市近郊林の防災的管理技術の向上、同3.風致林の機能解明と管理技術の向上)
研究問題2:関西地域における森林造成技術と経営管理方式の確立(大課題1.畿陽アカマツ林帯における森林造成技術の確立、同2.良質材生産技術の高度化と経営管理方式の確立)
従来4つ設けていた研究課題を2つに絞り、環境資源としての森林の育成管理、林業生産の場としての森林の育成管理に2大別し、各部、各研究室、各研究員相互の密接な連携で研究が推進できるよう各課題の設定をいたしました。組織の整理・統合の流れの中で、関西支所で風致林管理研究室が新設されたことは、特筆すべきことです。関西地域における都市近郊林、風致林のもつ役割の重要さを考え、時代のニーズに応え、21世紀へのビジョンをもって、その育成・管理技術の高度化に取り組んで行きたいと考えております。また、林業生産の社会・経済条件は依然厳しく、その中で活路を見いだすために、複層林地業、長伐期施業、広葉樹施業など、多様な森林の取り扱いが提案されています。これらについて、地域に密着した、地についた施業技術、管理技術を提示する必要があります。非常に困難な道のりでありますが、公立試験研究機関、営林局署、育種場等と緊密な連携をとりながら研究を進めて行きたいと思います。関西支所の発足と同時に支所長に就任するに当たり関係各位のご協力、ご支援を切にお願いいたします。
山田文雄
ヒノキ苗木が造林地に植栽された場合、どのような経過でノウサギは食害を起こすのだろうか。これを明らかにするために、新植地と植栽後5年の造林地を対象に、ノウサギの出現状況、食害量や食害パターンの変化、地被植物の推移、ノウサギの食性などを5年間にわたり調べた。その結果の一部概要を図-1に示す。これによると、ノウサギは植栽後1~2年間に集中的に出現して高頻度で食害を発生させ、その後減ることがわかる。一般的に、ノウサギは樹木の伐採されたオープンな土地を好む。これは、主に栄養価の比較的高い好適な餌が供給されるためである。食害の集中するこの期間における地被植物は伐開直後に発生する若い枝や草で構成される。しかし量的には少なく、普通、造林木が林地植物量の多くを占めるので、食害を受けやすくなる。造林地により多少違いはあろうが、一般的に西日本では図-1のような経過で食害が発生するといえるだろう。
図-1 ヒノキ造林地におけるノウサギの出現数、食害量および地被植物量の変化 (模式図)
ノウサギは50科にまたがる150種以上の多種類の植物を食べることができる。一般的には、春から秋には水分を多く含んだ柔らかい草、木の新芽、葉などを食べ、冬期には若い枝などを中心に食べる。ノウサギは餌を季節的に変化させ、しかも栄養価の低い餌条件でも生活できる。このような採食適応は、低栄養価の植物に対しても大量に採食することで必要な栄養分をまかなえるという特殊な栄養摂取能力によるものである。一日に体重のおよそ5~20%の植物を食べる。ノウサギはじっくり食べ物を選択するというよりも、むしろ手当たり次第に植物をかじり、食べるという採食戦略をとっている。
ノウサギの採食の仕方は、大きく分けて二つある。一つは、草本・木本植物の葉、枝などをかじり取り食べる方法と、他は、木本類で見られるように幹や枝の樹皮部を剥ぎ食べる方法である。木本類の枝や幹がかじり取られるか、剥皮されるかの採食方法の違いは、樹種の違いにもよるが、一般的には幹や枝の太さが関係するようである。それらが太くなるにつれ、剥皮されやすくなる。また、葉や幹、枝などがかじり取られる場合、ノウサギは必ずしもすべてを採食しない。切断された枝などで、完全に復元できる場合がある。ウサギ類では多くの種で認められる行動である。このような切断行動の意味は十分にはわからないが、植物中の栄養や毒物質などの吟味、通路上における妨害物の排除・あるいは行動圏内に出現する異物に対する反応などとの関係が考えられる。ヒノキ造林木では、これらの採食パターンが普通すべて認められる(図-2)。植栽後1~2年間には樹冠部の葉、枝の切断、採食および幹の剥皮が見られるが、それ以降には剥皮が主体になる。なおこれら食害パターンのうち、E、3、4型のいずれかの食害を受けると、枯死する場合が多い。しかし、それら以外の軽度な食害は2~3年後にはほぼ回復する。
食害の発生には、以上に述べたようなノウサギの新植造林地の利用様式、餌条件および特殊な採食習性が主に関係している。食害を減らすためには、ノウサギの造林地への出現頻度を少なくさせ、またノウサギの餌のメニューの中で、造林木の発見順位を低くしてやればよい。この方法の一つとして、好きな餌植物を育成したり、植生を豊富にするなどが有効である。
図-2 ヒノキの造林木で認められる食害パターン
斜線部がノウサギによって食害を受けた部分を示す。
A: 健全, B: 側枝部食害, C: 主軸部食害,D: 主軸・側枝部食害, E: Dの過度な食害,
0: 健全, 1: 1/4周, 2: 2/4周, 3: 3/4周,4: 4/4周
西田豊昭
近年、近畿・中国地域のマツ枯損跡地ではヒノキの造林が増加しており、これら純林の地力低下が問題になっている。そのため、これを防止する方法としてアカマツの混交や林床植生の導入が検討されている。
ここでは、兵庫県山南町周辺の適潤性褐色森林土に成立しているヒノキ・アカマツ混交林の2林分(アカマツの本数混交割合は20~21%)と、ヒノキ純林およびアカマツ純林の各1林分において土壌の理化学性の差異を比較検討したので、アカマツ混交が土壌に与える影響について考えてみたい。
調査結果によると、土壌の化学的性質(表-1)のうち、pHや置換酸度、炭素および窒素の含有率には、混交林、両純林間でほとんど差異が認められなかった。しかし、アカマツ純林では、肥沃な土壌を特徴づける置換性のカルシウム(Ex.Ca)やマグネシウム(Ex.Mg)が多く、また、ヒノキ・アカマツ混交林の中にも、それらの多い場合がみられた。
林相 | 土壌型 | 層位 | pH | 置換酸度 | C | N | C/N | CEC | Ex. Ca | Ex. Mg | 飽和度 % | |
(H2O) | yl | % | % | me/100g | me/100g | me/100g | Ca | Mg | ||||
ヒノキ純林 | BD | HA1 | 4.30 | 23.1 | 16.9 | 1.04 | 16 | 52.7 | 0.37 | 0.16 | 0.70 | 0.30 |
A2 | 4.85 | 7.3 | 6.42 | 0.38 | 17 | 29.1 | 0.17 | 0.06 | 0.58 | 0.21 | ||
アカマツ純林 | BD(d) | A | 5.00 | 12.5 | 61.2 | 0.31 | 20 | 24.2 | 2.11 | 0.57 | 8.72 | 2.36 |
A2 | 5.27 | 10.0 | 3.39 | 0.15 | 23 | 19.5 | 1.13 | 0.51 | 5.79 | 2.62 | ||
ヒノキ・アカマツ混交林 (その1) | BD | A1 | 4.80 | 23.5 | 13.8 | 0.71 | 19 | 44.4 | 0.50 | 0.27 | 1.13 | 0.61 |
A2 | 4.85 | 7.5 | 5.11 | 0.31 | 16 | 26.0 | 0.14 | 0.05 | 0.54 | 0.19 | ||
〃 (その2) | BD | A1 | 5.20 | 1.3 | 6.94 | 0.32 | 22 | 25.8 | 2.69 | 0.53 | 10.4 | 20.5 |
A2 | 5.40 | 8.5 | 1.95 | 0.10 | 20 | 15.2 | 1.90 | 0.44 | 12.5 | 2.80 |
土壌中の水分(図-1)は、ヒノキ純林で最も多く、混交林では中位であり、アカマツ純林が最も少なかった。
図-1 土壌の三相組成
透水性(表-2)は、アカマツ純林で最も大きく、ヒノキ・アカマツ混交林ではアカマツ林と同程度か、より小さく、ヒノキ純林では最も小さかった。
林相 | 土壌型 | 層位 | 自然状態の容積重 | 透水性 | 孔隙組成 (%) | ||
cc/mn | 全孔隙 | 細孔隙 | 粗孔隙 | ||||
ヒノキ純林 | BD | HA1 | 37 | 31 | 76 | 39 | 37 |
A2 | 57 | 17 | 58 | 41 | 17 | ||
アカマツ純林 | BD(d) | A | 46 | 85 | 57 | 26 | 31 |
AB | 57 | 230 | 56 | 25 | 31 | ||
ヒノキ・アカマツ混交林 (その1) | BD | A1 | 43 | 43 | 65 | 30 | 35 |
A2 | 57 | 45 | 60 | 32 | 28 | ||
〃 (その2) | BD(d) | A1 | 67 | 203 | 58 | 34 | 24 |
以上のことから、適潤性褐色森林土に成立しているヒノキ林では、アカマツの混交によって、土壌の肥沃化が進むこと、さらに落葉の分解が良好なために団粒状構造などが発達して透水性が改善されるなどの効果が認められる。ただ土壌の水分環境は乾性に傾く。
これまで、ヒノキ林に混交したアカマツの落葉は土壌表面の雨滴による侵食防止に効果があるとされてきたが、さらに、落葉の分解によって土壌の透水性の改善にも役立っていると考えられる。要するに、ヒノキ林に対するアカマツの混交は、土壌の理化学性の改善を通して地力低下の防止に有効であるといえよう。
第3回関西支所(支場)研究成果発表会は10月28日、関西支所会議室において開催され、森林総合研究所小川真きのこ科長の特別講演と共に当支所の研究者3名による成果の発表が行われた。要旨は次のとおりである。
森林総合研究所生物機能開発部きのこ科長 小川 真
菌根には樹木にきのこ類がつくる外生菌根のほか、多くの植物にかびが共生するVA菌根、ランやツツジ類の内生菌根などがある。外生菌根は古くから育苗や荒廃地への造林などに利用されており、マツタケなどの食用きのこの栽培も近年盛んである。一方、従来ほとんど知られていなかったVA菌根は農作物やスギ、ヒノキ等の林木の成長と根の保護に大きな役割を果たしていることがわかり、1980年代に入って世界的に研究が急展開している。また、この菌の利用に木炭等の炭化物が有効に働くことがわかり、木炭産業も注目を集めている。これらの最近の事情について紹介した。
育林部経営研究室 黒川泰亨
近年、地域林業の担い手としての森林組合に対する期待がとみに大きくなりつつある。また、低コスト林業に対する強い要請から、組合運営の合理化、なかでも組合作業班の有効活用が、将来の林業経営を左右する重要な問題として提起されている。一方、マイコン等を導入する森林組合も増加傾向にあり、組合内部のOA化に対する要望も強い。このような諸情勢を踏まえ、最近における森林組合のOA化の方向と作業班就労のシステム化に関する研究成果を報告した。
保護部昆虫研究室 山田文雄
ノウサギによる造林木食害は古くから林業家を悩ませてきた問題の一つであるが、有効な防止法の確立には至っていない。食害発生の実態を明らかにし、かつノウサギの生物学的特性に基づいた食害防止技術の検討が必要である。新植地では、ノウサギにとっての餌環境が相対的に良好になるために、ノウサギの出現頻度は高まり、採食頻度も増す。このような環境に造林木を植栽すると、食害を受ける可能性が高くなる。したがって、造林木に対する採食頻度を相対的に低下させることが重要になる。この方法として、林床植生の量と質を変えることによって、生態的に食害を軽減させることが可能であることを明らかにした。
育林部 陶山正憲
山地崩壊、土石流などの自然災害が発生すると、最近では決ったように森林の伐採が問題にされる。このような場合、議論のポイントは“森林の伐採がどの程度の災害の原因になっているか”であり、これに対する合理的かつ定量的な回答は、残念ながらまだほとんど与えられていない。従来、森林と山地災害、特に崩壊との関係については幾多の試験研究が行われ、種々の知見が得られているが、それらの成果は事例的にすぎず、示唆の形でしか示されていない。今回は、樹木根系による斜面安定化機構に関する研究の現状と動向について総括し、若干の問題点を提起した。
昭和63年度「林業研究開発推進近畿・中国ブロック会議」は10月27日関西支所において、林野庁から田辺研究普及課企画官、森林総研から勝田企画調整部長を迎え、営林局、林木育種場、14府県、当支所関係者が出席して開かれた。府県側から提案のあった「研究推進上緊急かつ重要課題」34課題について協議した結果、当ブロックにおける「緊急かつ重要課題」として4題を摘出した。
8月20日から27日までの間、77カ国から約2,100人が参加して国立京都国際会館で開催された。本会議は5年毎に開催されており、アジアでは今回が初めてである。会議は16の研究分野に分かれ、関西支所からは5名が樹病学と線虫学の分野における研究発表と討論に参加した。研究発表は全体で約1,200題に及び、各研究分野では連日活発な討論が行われた。
(伊藤進一郎)
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