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調査中の島津実験林(京都市伏見区桃山町)の竹林主要な研究成果p.17
森林は、生態系の保全や炭酸ガス固定化など地球的規模での環境保全に重要な役割を果たしています。なかでも、国土の2割を有する国有林は、奥地脊梁山脈を中心に存在し、我が国の急峻な地形や季節的に集中する降水パターンをかんがみますと、生態系の保全や炭酸ガス固定化のみならず、土砂災害の防止や水源のかん養等国土の保全のためにも極めて重要な役割を果たしています。しかしながら、木材価格の長期低迷など林業経営を巡る厳しい状況や育成途上にある資源内容等からみますと、独立採算制を前提に国有林経営の健全化を図ることは極めて困難と予想されてきており、かねてから行政上の重要案件として財政当局はもちろん、マスコミにもしばしばとり上げられてきました。
林野庁においては平成8年11月以降、林政審議会の下に森林・林業基本問題部会を設け、国有林野事業の改革について幅広く審議・検討を重ねた結果、今後の事業のあり方については、行政改革プログラムに沿って、行政改革や財政構造改革の動きを見ながら、平成9年度前半期中に経営の健全化のための抜本的改善策を検討・策定のうえ、平成10年度中に所要の法案を国会に提出することとなっています。国有林の動向・帰結については、貴重なフィールドと資料の提供を受けている我々研究機関としても重大なる関心を持って見守っているところであります。
さて、関西支所管内は先進開発地域であり、市街化や遷都、及び巨大寺院建立に伴う森林の過度の伐採や燃材採取などが極めて古くから進展してきました。そのため早くから人工林化が進められ、優れた先進林業地を生み出しました。その反面、都市化・工業化の進んだ当地域の貴重な自然生態系に関しましては、断片化の進行という結果も招いています。そのため都市域では、森林の環境資源・文化資源としての機能の発揮への期待が高まっています。一方、多様な林業経営方式が展開されてきた管内の林業地帯では、新たな生産技術や経営管理方式の体系化などにより木材消費動向に敏感な総合経営システムの確立が望まれていて、戦後造林され成長しつつある膨大な並材の取り扱い、未経験の病虫獣害の発生や後継者不足問題、あるいは不在村所有者森林対策など多くの問題を解決する必要があります。
このような地域特性に対応するため、平成8年度も三つの大課題、「風致林・都市近郊林を中心とする森林の機能解明」、「多様な保続的林業経営と施業技術の体系化」、及び「森林機能の総合化手法と地域森林資源管理手法の確立」のもとで調査研究を実施し、それぞれ有効な知見、提言などを得ました。本年報は、平成8年度の当支所における研究課題、試験研究の概要、主要な研究成果、研究資料、研究成果発表会記録、試験研究発表業績、及びその他関連資料を取りまとめたものです。これらの内容が皆様の業務にいささかでもお役に立つとともに、忌憚のないご意見を賜れば幸甚に思います。
森林総合研究所関西支所は、本年をもって開設50周年の節目を迎えることとなりました。これを契機に、当支所が今後なお一層、地域に開かれた森林・林業・林産業の技術相談窓口及びPRの拠点として機能するとともに、管内の各種研究機関や行政機関と密接な連携を図り、試験研究の更なる深化に向けて努力を重ねる所存であります。関係各位の絶大なるご協力ご支援をいただきたく、心からお願い申しあげます。
平成9年9月
森林総合研究所関西支所長 高田長武
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