森林総合研究所関西支所年報第62号
令和3年版
まえがき
新型コロナウィルス感染症に翻弄された令和2年度は、国立研究開発法人森林研究・整備機構にとっては5年間にわたる第4期中長期目標期間の最終年度という節目の年に当たっていました。このため森林総合研究所関西支所では、コロナ禍で自由な研究が阻害されるなか、中長期目標で掲げた4つの重点課題のうち特に近畿・中国地域の森林・林業の現状を踏まえ重点課題ア「森林の多面的機能の高度発揮に向けた森林管理技術の開発」及びイ「国産材の安定供給に向けた持続的林業システムの開発」を中心に、中長期目標達成に寄与する多数の課題を遂行して参りました。
関西支所がかかわった令和2年度の課題は60課題(基盤事業5課題を含む)で、これらの課題を予算別に分類すると外部資金によるものが5割強(34課題)、残りは運営費交付金となっていました。外部資金の中では、科学研究費助成事業によるものが18課題と最も多く、そのほかは農林水産省、環境省、民間財団の研究助成金でした。また、新たな研究課題として「スギ、ヒノキ、カバノキ科の花粉飛散抑制の新手法の開発」(アウbPS11)、「広葉樹利用に向けた林分の資産価値および生産コストの評価」(イアaPS12)、「適地適木植栽のための乾燥耐性評価に向けた小型苗のキャビテーション抵抗性の非破壊的測定法の確立」(イアaPS14)を令和2年度より開始することができました。
関西支所では研究課題の推進に加え、産学官民を対象とした地域連携への取り組みについてもコロナ禍の状況を考慮しながら実施して参りました。主な取り組みとしては、(1)関西支所公開講演会「空から森林(もり)をみる」(令和2年10月16日)を龍谷大学響都ホール校友会館において開催し、感染拡大防止に配慮した人数制限の下約90名の方に参加していただくことができました。また、当日参加が叶わなかった皆さまのために「森林総研チャンネル」(森林総合研究所のYouTube公式ページ)において講演会の様子を3か月間公開いたしました。一方、近畿中国森林管理局との連携・協力協定に基づく共催イベントとして、(2)「スマート林業の推進に関する現地検討会」(令和2年12月3日)のうち座学部分をMEETING SPACE AP 大阪駅前で開催しました。翌12月4日はこのテーマに関連した現地検討会を予定しておりましたが、大阪府に緊急事態宣言が発令されたためこちらについては急遽中止とさせていただきました。令和3年3月11日には(3)「第2回 里山広葉樹活用シンポジウム ~里山の森林再生と地域振興に向けて~」を共催しました。これら2つの共催イベントは、ライブ配信という形をとることにより遠方の皆さまにも多数ご参加いただくことができました。さまざまな制約から会場での参加が難しいという方にもご参加いただける開催方法として、次年度以降の講演会のあり方の参考にさせていただきたいと考えております。講演会・シンポジウム以外では、森の展示館を活用した「森林教室」や京都府、京都大学からの研修生受入れを感染症の拡大防止に配慮しながら実施しました。また、三重大学との協定に基づく講義をオンラインで実施しました。
最初にお伝えしたとおり、令和2年度は第4期中長期目標期間の最終年度でした。関西支所では今中長期目標期間中に得られた様々な成果を市民の皆さま、民間企業・行政の皆さま等にご活用いただくため、研究発表、技術指導、一般公開などを通し成果をお伝えしていきたいと考えております。また、令和3年度からはじまった第5期中長期目標の達成に向け、近畿中国地域を中心とした森林・林業に関する様々な問題の解決にも積極的に取り組んで参りたいと考えております。皆さま方におかれましても、より一層のご支援、ご指導をお願い申し上げます。
令和3年12月
森林総合研究所関西支所長 桃原郁夫
目次
- アアa1 森林の災害防止機能高度利用技術の開発
- アアaPF11 山地災害リスクを低減する技術の開発
- アアaPS4 樹木根系の分布特性の多様性を考慮した防災林配置技術の開発
- アアb1 多様な管理手法下にある森林の水保全機能評価技術の開発
- アアbPF16 熱帯雨林生態系における水循環機構と植生のレジリエンスの相互作用の解明
- アアbPF18 気候変動への適応に向けた森林の水循環機能の高度発揮のための観測網・予測手法の構築
- アアd1 森林における放射性セシウム動態の解明
- アアdPF1 森林内における放射性物質実態把握調査事業
- アアdPF11 放射能汚染による渓流性水生昆虫への生理的影響及びそれに伴う群集変化の解明
- アイa1 森林における物質・エネルギーの蓄積・輸送パラメタリゼーションの高度化と精緻化
- アイaPF3 森林土壌の炭素蓄積量報告のための情報整備
- アイaPF24 人工林に係る気候変動の影響評価
- アイaPF42 樹木内部の水・炭素輸送と樹木成長の季節・環境応答特性の解明
- アイaPF44 竹林は地球温暖化を緩和しうるのか?:モウソウチク林の炭素固定量の算定と将来予測
- アイaPF45 「経験的なパラメーター」に依存しない新しいフラックス測定法の開発
- アイbPF28 土地利用変化による土壌炭素の変動量評価と国家インベントリへの適用に関する研究
- アイbPF32 林業を対象とした気候変動影響予測と適応策の評価
- アウaPF40 日本の樹木の多様性は山岳地形により地史的に高く保たれてきたのではないか?
- アウaPF52 世界自然遺産のための沖縄・奄美における森林生態系管理手法の開発
- アウaPF65 腸内細菌に由来する匂いは昆虫の社会を司るか?-アリを題材に-
- アウaPS2 渓流に注ぎ込む光の量から渓畔林を評価する-光量・藻類量・水生昆虫量の関係解明-
- アウb1 環境に配慮した樹木病害制御技術の高度化
- アウb2 森林・林業害虫管理技術の高度化
- アウbPF52 日本における樹木疫病菌被害の発生リスク評価
- アウbPF56 鳥獣害の軽減と農山村の活性維持を目的とする野生動物管理学と農村計画学との連携研究
- アウbPF57 「天然の実験室」を活用した外来リス根絶と生態系回復に関する研究
- アウbPF60 サクラ・モモ・ウメ等バラ科樹木を加害する外来種クビアカツヤカミキリの防除法の開発
- アウbPF65 増えるシカと減るカモシカは何が違うのか?最適採餌理論からの検証
- アウbPF70 AIやIotによる、人材育成も可能なスマート獣害対策の技術開発と、多様なモデル地区による地域への適合性実証研究
- アウbPF71 線虫をもって線虫を制する-捕食性線虫を用いた新規マツ枯れ制御技術の開発
- アウbPF78 森林昆虫の多様性研究の新展開:駆動力としての昆虫関連微生物の存在意義の検証
- アウbPS11 スギ、ヒノキ、カバノキ科の花粉飛散抑制の新手法の開発
- イアa1 多様な森林の育成と修復・回復技術の開発
- イアa2 地域特性に応じた天然林の更新管理技術の開発
- イアaPF31 成長に優れた苗木を活用した施業体系の開発
- イアaPS12 広葉樹利用に向けた林分の資産価値および生産コストの評価
- イアaPS14 適地適木植栽のための乾燥耐性評価に向けた小型苗のキャビテーション抵抗性の非破壊的測定法の確立
- イアb2 森林情報の計測評価技術と森林空間の持続的利用手法の高度化
- イアbPS6 積極的長期伐期林業を目指した大径材生産技術の開発
- イアbTF5 新たなリモートセンシング技術を用いた効率的な収穫調査と素材生産現場への活用方法の提案
- イイa1 持続可能な林業経営と木材安定供給体制構築のための対策の提示
- イイaPF9 森林管理制度の現代的展開と地域ガバナンスに関する比較研究
- イイaPF11 アメリカにおける森林の多面的利用の制度的基盤の解明
- イイaPF15 農山村地域における観光施設の遊休化が及ぼす地域社会への影響と観光イノベーション
- ウアb3 木材及び木質部材の信頼性向上に向けた耐久性付与技術の開発
- ウアbPS5 土木分野における木材の利用技術の高度化
- キ102 森林気象モニタリング
- キ105 森林水文モニタリング
- キ109 気候変動下における広葉樹林、温帯性針葉樹および森林被害跡地の生態情報の収集と公開
- 基盤事業:森林水文モニタリング-竜ノ口山森林理水試験地-
- 基盤事業:森林流域の水質モニタリング
- 白見スギ人工林収穫試験地(和歌山県新宮市)定期調査報告ー比較的温暖多雨な地域における高齢級スギ人工林の成長量についてー
- 沿革
- 土地及び施設
- 組織
- 受託出張
- 職員研修
- 受託研修生受入
- 特別研究員
- 海外派遣・出張
- 業務遂行に必要な免許の取得・技能講習等の受講
- 森の展示館(標本展示・学習館)
- 会議
- 諸行事
- 試験地一覧表