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年報第40号 主要な研究成果

1.スギの樹冠疎開と雄花生産

清野嘉之・井鷺裕司・伊東宏樹(造林研究室)

1. はじめに

伐採で樹冠を疎開された個体とされなかった個体を比較し、樹冠疎開で①雄花着生個体の割合が増大するか、②雄花着生個体当たりの雄花量が増大するか、③日当たりの良くなった陰樹冠が雄花を着生するかどうか検討した。

2. 調査地と方法

京都市内の16年生スギ林(平均胸高直径8cm、平均樹高7.6m)を1998年6月に一部皆伐し、林縁木となった22個体、その他77個体(林内木)の位置、直径、樹高、枝下高、雄花着生状況ランクを11月に調べた(図-1)。同ランクの係数は雄花/当年葉重比と正比例する。なお、調査木は1998年秋~1999年春の花期に雄花を着けていない。

3. 結果と考察

林縁木は林内木より①雄花着生個体割合が4.7倍高く(p<0.001)、②雄花着生個体当たり雄花量は2.3倍多かった(p<0.01)。③林縁木の日当たりの良い陰樹冠は雄花着生した。周囲木の位置と高さで表した樹冠疎開程度には雄花着生の閾値が認められる(図-2)。これを一次式で近似し、疎開穴に面する陰樹冠は雄花生産に参加するとして計算すると、間伐は林分雄花生産を最大2倍強増大させ、間伐で雄花生産を減らすには9割以上木を伐る必要があることが分かった(図-3)。間伐による雄花生産抑制は間伐年には有効だが2年目以降は逆効果となる可能性がある。

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図-1 16年生スギ林
北側2列伐採。各円が個体を表す。
大円ほど高樹高で、網掛けは雄花着生個体。
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図-2 樹冠疎開と個体の雄花生産
閉円は疎開陰樹冠に雄花着生した個体.
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図-3 間伐と林分の雄花生産(推定値)

2.土壌発達の初期過程における土壌微生物バイオマスCに及ぼす環境要因の影響

古澤仁美・荒木 誠・鳥居厚志(土壌研究室)

1. はじめに

筆者らは緑化施工直後からの土壌変化の指標として土壌微生物バイオマスC(以下バイオマスCとよぶ)を調査してきた。その結果、バイオマスCは施工後半年以降の2年半は変動しながらも平衡状態であることが明らかになった。バイオマスCの変動の要因としては、温度・水分などの環境要因が考えられる。そこで本研究では土壌発達過程のバイオマスCに及ぼす環境要因の影響について検討した。

2. 方法

1996年4月に、関西支所構内実験林の斜面においてアカメガシワ区、ヤシャブシ区、アカマツ区、草本区、対照区(裸地)の5つの試験区を設けた。各区にマサ土を客土して播種工により植生を成立させ、2ヶ月毎に表層土壌(深さ0-5cm)の採取時含水率、バイオマスC、全炭素含有率を測定した。また、各試験区の深さ2cmの地温を継続的に測定した。これらの採取時含水率、全炭素含有率、土壌採取前月の月平均地温を独立変数、バイオマスCを従属変数として重回帰分析をおこなった。

3. 結果と考察

採取時含水率、月平均地温、全炭素含有率の3要因のバイオマスCに対する偏相関係数はそれぞれ0.413、-0.202、 0.396でありいずれも有意であった。重回帰式は、y=-36.05+6.054×採取時含水率-0.996×月平均地温+188.8×全炭素含有率となった(r2=0.40)。重回帰式から計算された推定値は実測値の変動をおおむね表現できた(図-1)。植生のある区の推定値は対照区のそれに比べて変動が小さかった。これは、3つの要因の変動が対照区に比べて少ないためと考えられた。しかし、これらの区では実測値の変動は大きかった。根からの易分解性有機物の供給などの植生の影響も、バイオマスCの変動の要因と考えられた。一方、対照区の推定値は実測値との適合性が他の区に比べて高かった。対照区では今回用いた3つの要因の影響が強いと考えられた。

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図-1 試験区におけるバイオマスCの実測値と重回帰式による推定値の比較

3.大台ヶ原の土壌の塩基状態

金子真司・荒木 誠・古澤仁美・鳥居厚志(土壌研究室)
伊東宏樹(造林研究室)
羽原健二(島根県林業技術センター)

1. はじめに

一般に我が国の亜高山地帯には冷涼な気候環境を反映して塩基の乏しい強酸性の土壌が分布している。大台ヶ原では標高が1400-1700mと高いことに加えて年降水量が4000mm以上と極めて多いことから、土壌における塩基の流亡は一段と激しいと推定される。このため、森林が生育するにはきびしい土壌環境にあるといえる。そこで本研究では大台ヶ原の土壌の塩基状態について調査を行った。

2. 試料及び方法

特定研究「酸性雨等の森林生態系への影響モニタリング」の一環として、1998年10月に大台教会西にあるウラジロモミを中心とした針広混交林で植生および土壌の調査をした(標高1540m、N34°10′44″, E136°5′52″)。この調査で採取した土壌と一昨年行った調査1)の際に採取した土壌についてpH、電気伝導度(EC)、塩基置換容量(CEC)および交換性塩基含量を調べた。本年の調査地は一昨年の調査地と1km程度離れており、上層木30本の平均樹高、胸高直径は15.2m、 37.9cmで一昨年の調査林分(平均樹高17.2m、胸高直径56.9cm)に比べて樹高、胸高直径ともやや小さかった。

3. 結果及び考察

表層土壌16カ所の平均pHは深さ0-5cmと5-10cmで差はなく、調査年によっても差はみられず、4.4と強酸性であった(表-1)。ECは今回の調査の方が前回の調査よりもやや大きく、特に深さ0-5cmで有意差(p<0.01)が認められたが、いずれも3.9mS/m以下の低い値であった。

表-1 表層土壌16地点のpH及びECの平均値
pH (0-5cm) pH (5-10cm) EC (0-5cm) EC (5-10cm)
1996 4.42±0.16 4.36±0.20 2.87±0.82mS/m 2.89±0.97mS/m
1998 4.40±0.18 4.42±0.20 3.87±0.96mS/m 3.43±0.96mS/m

CECおよび交換性塩基量は1996年と1998年でほぼ類似していた(表-2)。CECは最表層で50c・mol(+)・kg-1以上と大きく、下層では10 c・mol(+)・kg-1付近の小さい値となっていた。表層でCECが大きいのは有機物を多量に含むためとみられる。交換性の塩基は非常に少なく、最表層のCaでも1c・mol(+)・kg-1以下であった。このために塩基飽和度(B.S.)は最大でも3.4%と極めて低いことが判明した。

表-2 大台ヶ原土壌のCECおよび交換性塩基量
層位 ex.Ca ex.Mg ex.Na ex.K total CEC B.S.(%)
1996 A1 0.95 0.65 0.16 0.42 2.17 63.6 3.4
A2 0.09 0.16 0.08 0.17 0.50 34.5 1.5
B 0.04 0.05 0.06 0.07 0.22 24.1 0.9
C1 0.02 0.01 0.06 0.07 0.17 13.8 1.2
C2 0.04 0.01 0.05 0.04 0.15 11.9 1.2
1998 A1 0.63 0.38 0.13 0.35 1.49 54.8 2.7
AB 0.13 0.15 0.11 0.20 0.60 39.2 1.5
B 0.05 0.04 0.06 0.08 0.22 23.9 0.9
ⅡA 0.05 0.03 0.10 0.08 0.26 23.6 1.1
ⅡB 0.04 0.01 0.15 0.12 0.33 13.0 2.5

引用文献

  • 1)金子真司ほか(1996)大台ヶ原の森林及び土壌の状況.関西支所年報38,p.25

4.高性能林業機械を使用した列状間伐の採算性

細田和男(経営研究室)

1. はじめに

列状間伐は下層間伐に比べ、間伐の効果が小さかったり、風雪害抵抗性が低下するなどの難点も指摘されているが、間伐の採算性を高める手段のひとつであることには疑いない。特に近年、タワーヤーダの普及が始まったことから、その特性を生かした、中~急傾斜地向けの低コストな間伐方法としても再評価されつつある。本報では、中国地方のスギ・ヒノキ人工林を対象にした間伐収穫モデルと、タワーヤーダ・プロセッサによる素材生産功程の予測モデルとを組み合わせてシミュレーションを行い、列状間伐と下層間伐の採算性を比較検討した。

2. 間伐収益の推定方法

ワイブル分布関数と林分密度管理図を中心とした間伐収穫モデルを用いて規格別素材収穫量を予測し、現在の平均的な規格別素材単価を乗じて間伐収入に換算した。林道に接する1haの正方形伐区を想定し、各種作業条件から単位時間あたり作業量を推定して素材生産費を求めた。機械経費は1時間6.4千円で資本利子は考慮せず、労務経費は1人1日15千円とし、原木市場までの運材費と市場での販売手数料・椪積料も控除することにした。以上から林齢・本数間伐率・間伐種別に間伐収益を算出して比較した。

3. 結果と考察

本数率を基準にしているため自明ではあるが、各林齢・間伐率とも、素材収穫量は下層間伐より列状間伐のほうが大幅に大きくなると推定された。列状間伐の収穫量は下層間伐のそれの1.5~2.3倍であり、林齢が若いほど、また間伐率が小さいほどその比は大きくなった。また、列状間伐のほうが相対的に単価の高い材種が多くなるため、列状間伐の素材価額合計は下層間伐のそれの1.9~3.3倍に達した。

素材生産費は、スギの場合3,900~13,800円・m-3、ヒノキの場合5,900~33,700円・m-3と推定され、同林齢・同間伐率で比較すると列状間伐の素材生産費は下層間伐の0.5~0.8倍にとどまっていた。素材生産費の内訳をみると、伐倒費には大差がないが、集材費・造材費は列状間伐のほうが30%以上少なくなった。特に、素材生産費全体の6割を占める集材段階での功程改善が、素材生産費の圧縮に寄与していると考えられた。

以上から間伐収益を算出すると、林齢・間伐率・樹種にかかわらず列状間伐は下層間伐に比べ、著しく採算性が向上すると推定された(図-1)。また、スギ25年生未満、ヒノキ30年生未満では、高性能機械を使用した列状間伐の場合でさえも収益が負となることが分かった。

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図-1 間伐収益の推定結果(左:スギ、右:ヒノキ)
注)各林齢の左から下層間伐20%、列状間伐4残1伐、下層25%、列状3残1伐、下層33%、列状2残1伐

5.システムダイナミックスを用いた「ウッドシステム」の分析

野田英志(経営研究室)

1. 課題と方法 ―「ウッドシステム」的把握の意義とSD―

人工林資源の成熟化にともない、地域森林資源の高度かつ持続的な利用が求められている。そのためには森林育成から木材の生産・加工・流通そして消費に至るまでの、森林資源利用に関わる経済循環をトータルなシステムとして捉えることが重要である。この森林資源利用のトータルシステムを「ウッドシステム」と呼ぶことにしたい。本研究では、時間経過等に伴う「ウッドシステム」の動特性を定量的に捉えることを目的として、システムダイナミックス(SD)の手法を用いた「ウッドシステム」の基礎的なモデル開発を行った。

ところでなぜ「ウッドシステム」的な把握が今日、重要なのだろうか。その理由の1つはわが国を含む世界の産業全般が、従来の価格競争そして非価格(品質)競争の時代から、さらにIT(Information Technology)を活用した時間競争をも加えた新たな時代を迎えており、林業・木材関連産業もその例外足り得ないからである。しかしわが国の国産材関連産業はこの新たな競争ステージに乗り遅れている。時間競争の世界では、川下の実需要の変化に即応した供給活動を、川中~川上の供給サイドに要求する。“即応"と記したように、そこでは供給全体の効率化と供給時間(リードタイムlead time)の短縮が不可欠である。ここで重要な点は、川上から川下の或る段階(例えば素材生産や木材加工段階)だけが、その内部でどれ程高いレベルの効率化・リードタイムの短縮を達成しえても、他の段階(例えば立木販売や木材流通段階)がそれに対応(同期化)したレベルに達していなければ、そこがボトルネックとなって供給システム全体の実需対応を限界づけてしまう点である。垂直的・水平的に分業化した各段階-サブシステム内での改善と併せて、「ウッドシステム」としてのトータルでの効率化・リードタイムの短縮が要請されているのである。

こうした点に関しては既に構造-機能論的な視点から、主として定性的な把握を行った(野田1998)。しかし具体的に流域林業等のシステム構築に向けて計画策定などを行う場合、システムの動きを計量的に比較秤量し検討することが求められる。そうしたシステムの動特性を定量的に把握するのに有用なツールの1つがSDである。

野田英志(1998):実需に対応した国産材供給システムの構築、森林総研所報No.113

2. 基礎モデルの概要とその動特性の計測例

ウッドシステム」の基礎モデルを図-1に示した。当モデルでは、人工林材の伐出から加工・流通・消費に至るフローとストック(在庫等)の関係、および関連情報の流れ、木材(モノ)の流れと逆方向のカネの流れ等を統一的に関連づけ、把握できるシステム構成とした。モデルには最新の効率的技術群(高性能林業機械による皆伐方式の素材生産、全自動ノーマン型の製材加工など)を組み込んでいる。

モデル化の諸前提は、①スギ・ヒノキ3mKD柱材(並材)の供給システムとし、製材規模は3万m3強(1シフトの標準年間素材消費量)を想定。②立木供給は、地域総体として集団的・計画的になされるものとする。③素材生産経営は伐出請負方式で、林家の立木販売収入は、市場逆算方式で決まる(市場販売額-市場手数料等-運賃-伐出コスト-素材生産手数料)。④木材の販売、即、販売代金回収とする(要するにキャッシュフロー重視の現金商売で、販売と入金のタイムラグ、回収リスクは考慮していない)。⑤供給モデルはプル方式に基づく受注生産型とする(要するに旦那商売でなく御用聞き型)、⑥素材生産経営や製材経営などのシステム構成主体は、木材価格や木材需要(建築着工数)への影響力は持たない、などである。

上記の枠組みの下にSDによる基礎モデルを作成し、建築着工数・木材価格を外生変数として、平成7年3月から11年3月の49ヶ月間のシステムの動特性を観察した。実際に計測したのは図-1の「ウッドシステム」の人・物・金に関わる約120のデータである。その計測結果の1例を図-2に示した。図によると、需要(木造住宅受注戸数)の月次変動に対し、川上に溯るほど需要への対応に時間的遅れと変動の増幅等が観察される。葉枯らしを含む伐出工程期間が3ヶ月の場合、集材量(山土場集積量)では需要の変動におよそ半年のタイムラグが生じた。伐出工程期間を1ヶ月に短縮したモデルでは、タイムラグはほぼ半減するなど、木材需要や市場価格の変動への反応や、システム構成内容を変えた場合の変化など、「ウッドシステム」の動特性を計量的に把握できた。SDを用いた当基礎モデルはさらに改良が必要だが、今後の流域林業のシステム設計・構築などにおいて、有用な思考実験ツールとなることが示された。

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図-1 「ウッドシステム」の基礎モデル―システム構成の概要―
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図-2 基礎モデルにみる木材の生産・流通・消費の時間(月別)変動

6.森林群落における物質交換効率から見た林冠形状の評価

玉井幸治(防災研究室)

1. はじめに

森林樹冠層の表面は平坦ではない。幹のある場所では凸形状となり、幹間では凹形状となる。このような凹凸形状は森林群落と大気間における二酸化炭素や水蒸気などの物質交換効率に大きな影響を及ぼすと考えられる。そこで着葉期と落葉期とで樹冠形状が大きく変化する落葉広葉樹林を対象に、林冠表面の凹凸形状を評価した。

2. 試験地と方法

京都府相楽郡山城町の北谷国有林内に位置する落葉広葉樹林を対象とした。胸高断面積合計は常緑樹が6.3m2ha-1、落葉樹が13.3m2ha-1であった。開空度は着葉期で15%、落葉期で50%であった。

27.5m四方の観測プロットを設定した。そして2.5m間隔のメッシュ状に169ヶ所で、測竿を用いて林床から林冠表面への比高を測定した。その際に測竿頂部と林冠表面が同じ高さにあることを、観測プロット内に設置した高さ12mの鉄塔から確認しながら観測を行った。そして比高と林床面の標高を合計して林冠の標高(hi)を算出した。添え字iは測定点番号を意味する。観測プロットは更に方形のブロックに細分した。ブロックへの細分は、2.5m四方×144個、5.0m四方×36個、7.5m四方×16個、10.0m四方×9個、15.0m四方×4個の5種類とした。

3. 理論

ブロック間におけるhiの分散度を示す指標であるIδを、(1)式によって計算した。

Iδ = q Σ{nj ( nj - 1)} / N (N - 1) (1)

ここでqはブロック数、nj はブロックごとに、(2)、(3)式によって求める。添え字jはブロック番号を意味する。Nは観測プロット全体における hiの総計である。

nj = Σ(hi - hmin) / h* (2)
nj = Σ(hmax - hi) / h* (3)

ここでhmin、hmaxはそれぞれ観測プロット全体でのhiのそれぞれ最小値と最大値、h*は無次元化のための単位高さである。凹形状を評価する際には(2)式を、凸形状の際には(3)式を用いる。ブロックの大きさと数を変化させ、それに伴うIδの変化で凹凸形状の水平方向の大きさを、Iδ値の大きさで凹凸形状の垂直方向の大きさを判定する。

4.結果と考察

着葉期には凹、凸形状ともに、ブロックが5.0m四方の時にIδが最大となった。つまり凹凸形状の水平方向での大きさは5.0m四方と判断された。落葉期の凹形状の場合、5.0m四方と7.5m四方の時のIδがほぼ等しい大きさで最大となった。凸形状の場合、ブロックが7.5m四方よりも小さい時のIδはほぼ一様であった。これは7.5m四方よりも小さな形状は平面的であり、つまり凸形状の大きさは7.5m四方であることを意味する。このことから落葉期における水平方向の大きさは5.0~7.5m四方と判断された。したがって、落葉期に凹凸形状は水平方向に大きくなると判定された。一方、Iδの値はおおむね着葉期の方が大きかった。つまり落葉期になると凹凸形状は垂直方向に小さくなると判定された。落葉期になると凹凸形状は水平方向には大きく、垂直方向には小さくなることは、落葉期になると林冠形状は比較的滑らかになることを意味する。一般的に物質の交換効率は表面形状が滑らかであるほど悪いので、落葉期になると二酸化炭素などの交換効率は悪くなると考えられる。

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図-1 凹凸形状の大きさとIδの関係
▲: 着葉期 □: 落葉期

7.林野火災跡地における地被量の季節変化

深山貴文(防災研究室)

1. はじめに

1994年8月11日、京都市山科区の琵琶湖第1疎水の上方斜面において林野火災が発生した。火災によって林床堆積物はほぼ焼失し、翌春にワラビ群落が出現した。ワラビは落葉性のシダであるため、落葉期の地被量の不足によって土壌侵食が発生した場合、京都市の水源である疎水に悪影響が及ぶことが懸念された。そこで、本研究においては当ワラビ群落における地被量の季節変化、地被量と侵食土砂量の関係を求め、各季節の地被量が土壌侵食防止に十分な量であるかどうかを評価することを目的とした。

2. 調査地及び調査方法

調査地の標高は約150m、斜面方位はS6°W、平均傾斜角は20°、表層地質は古生層、周辺植生はアカマツ・コナラ林である。調査地の地表はワラビによって被覆され、ワラビ地被量の季節変化を求めるため、調査地の平均的な箇所に2m×2mの調査区を設けて地被を除去し、1997年4月から1999年2月までの間、毎月1回、葉長測定と枯死体の回収を行った。調査開始時、その他の植物の被度は1%未満であったため、地被量はワラビの現存量と枯死体発生量及び枯死体残存量の合計とした。枯死体発生量とは測定月に初めて枯死が確認された枯死体の量とし、枯死体残存量とは測定月より前に発生した枯死体が分解を経て残存した量とした。現存量は葉長による推定式から推定し、枯死体発生量は風乾重を実測し、枯死体残存量は枯死体発生量とその経過日数による重量残存率の推定式から推定を行った。

一方、ワラビ地被量と侵食土砂量の関係を求めるため、大型人工降雨装置を用いた実験を行った。人工降雨装置の降雨強度としては、京都市の年最大時間降雨強度の最頻値が約30mm/hrであるため、この値を用いた。地被量以外の実験条件を一定とし、地被量を0~444(g/m2)まで10段階に変化させ、各地被量ごとに3箇所で測定枠による侵食土砂量の測定を行い、その平均を求めた。

3. 結果と考察

現存量の推定式(W = 0.0016L1.9211、r=0.929、n=50、W: 現存量(g) 、L:葉長(cm))、枯死体残存量の推定式(y = 100e-0.0013ty:残存率(%)、t:経過日数(day))が作成され、これらを用いて地被量の推定を行った。図-1に現存量、枯死体発生量、枯死体残存量の季節変化を示した。地被量の推定の結果、現存量による被覆が失われる冬期にも、枯死体発生量の蓄積によって約300g/m2以上の枯死体が地表を被覆していると推定された。

図-2には地被量と侵食土砂量の関係を示した。侵食土砂量は地被量の増加に伴って指数的に減少するため、 (E=401.12e-0.0114G, r=0.979, n=10, E:侵食土砂量(g/m2) 、G:地被量(g/m2))、1997年9月以降、調査区のワラビ地被量は年間を通じて土壌侵食を防止するのに十分な量となっていると考えられた。

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図-1 地被量の季節変化

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図-2 地被量と侵食土砂量の関係

8.新潟県の積雪の気温依存性について

小南裕志(防災研究室)

1. はじめに

日本の積雪地域の多くは世界的に見ても降雪量が多く、冬季の降雪水量が1000mmを越える地域も存在している。これに対して冬季の気温は比較的高く、厳冬期であっても、気温によって融雪が起こることは珍しくない。このような地域においては積雪の形成が雨・雪の境界域に近い気温の範囲でおきており、積雪量の変動はその多くを気温の変動量によって決定されていることが考えられる。そこで新潟県南部の多雪地帯において積雪水量と気温のデータから積雪変動の分布特性の年変動を検出して、気温に対する積雪水量のレスポンスを調べ、気温の変動に対する積雪量の変動特性の解析を行った。

2. 方法

まず、代表地点の積雪水量の変動を降水量と気温を用いて行う。次にこのデータを用いて、標高の異なる周辺部において気温変化を考慮に入れて積水量の推定を行う。こうして得られた推定積雪水量と実測値との関係を比較することによって積雪量の変動に対して気温の寄与する程度を評価した。温度を主要な支配変数として積雪状況を記述するために積雪量の推定は積雪水量を用いて行い、推定方法は式1、2に用いられているような比較的単純なものを用いた。

Hw=Hw+Pr Ta<Ts (Hw: 積雪水量、Pr: 降水量、Ta: 日平均気温、Ts: しきい値気温) — (1)
Hw=Hw-K×Ta Ta≥Ts (K: 融雪流下パラメーター — (2)

3. 結果と考察

図-1に森林総合研究所十日町試験地(標高200m)とその周辺部(標高530m)の地点における観測積雪深と推定積雪深の図を示す。標高530mでの積雪変化は標高200mでのデータを用いて再現されたものである。得られた推定値はどちらの標高においても比較的よい対応を示しており、標高200mでのデータを用いても標高530mでの積雪深を推定できることがわかる。次に同じデータを用いて標高毎の積雪の高度分布を計算し、最大積雪深の標高分布を推定した。得られた推定値と十日町周辺域での25カ所での積雪両調査で得られた実測値を比較してみると(図-2)、両者はよい対応を示している。これらのことから、新潟県南部において積雪量の大小を決める要因の多くは雨-雪の供給条件であることが考えられ、気温による積雪量の面的な分布の変化推定の可能性が示唆された。

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図-1標高の異なる2地点における積雪量の推定

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図-2 最大積雪深の標高分布の推定値と実測値の比較

9.写真投影法被験者の撮影ペース

奥 敬一・深町加津枝・大住克博(風致林管理研究室)

1. はじめに

写真投影法は、レクリエーション活動に伴う現実の景観体験を記録するために有効な方法であることが知られている。しかしながら、行動・社会科学的調査方法が抱える、手法ごとに特有の調査バイアスや被験者の反応については、質問紙調査などのように頻繁に利用される手法ほど蓄積がなく、十分な吟味がされていない。本論では、写真投影法被験者の、距離的、時間的な撮影ペースについて、これまでの調査データをもとに報告する。被験者の撮影ペースの傾向を把握することは、収集されたデータの質を検討する上で重要な意義を持つものと考える。

2. 方法

撮影ペースの検討対象とするデータは、1998年5月に京都大学芦生演習林で行われた写真投影法調査(以下、芦生調査)、および、1994年に箕面国定公園で行われた写真投影法調査(箕面調査)によって収集されたものである。芦生調査では、トレイルの散策に訪れた来訪者に対してレンズ付きフィルム(25枚撮影可)を配布し、散策の往路でのみ良いと感じた風景を撮影するよう指示し、調査地点からの出発時刻、折り返しの地点と時刻、調査地点への帰到時刻を記録した。これらの記録が完全に揃い、かつフィルム枚数が十分であったと報告した被験者(41件)について、片道距離、影時間(往路に要した時間)を算出した。箕面調査ではトレイル散策、および園地利用に訪れた来訪者に対してレンズ付きフィルム(25枚撮影可)を配布し、芦生調査と同様に良いと感じた風景を撮影するよう指示し、調査地点からの出発時刻および帰到時刻を記録したが、折り返し地点の記録、往路復路に関する指示は行わなかった。活動形態が散策型であり(先行研究による)、かつフィルム枚数が十分であったと報告した被験者(53件)について撮影時間(出発から帰到までの時間)を算出した。なお、芦生において調査対象としたトレイルは、分岐がほとんどない平坦な一本道であり、また明確な最終到達点を持たない open-end な構造である。箕面においては何本かの自然観察路の基点となっている場所を調査地点として選んだため、トレイルの構造はそれぞれに異なるが、明確な目的地となり得る景観資源を比較的多く擁する。

以上から各被験者の撮影枚数と歩行距離、撮影時間との関係を検討した。また、撮影ペースとデモグラフィックな属性との関係を、分散分析を用いて検討した。

3. 結果と考察

片道距離と撮影時間との間には高い正の相関がみられた(図-1; R=0.72、P<0.01)。これは歩行速度のばらつきが、比較的少ないことを意味していると考えられる。片道距離と撮影枚数との間にも正の相関がみられたが(R=0.41、P<0.01)、片道距離を対数変換した場合の方がわずかながら高い相関が得られた(図-2; R=0.44、P<0.01)。距離に基づく撮影ペース(1撮影あたりの移動距離)のモードは、150~100m/枚であったが、その分布には比較的ばらつきがみられる。また、対数距離との相関がより高いことは、行程が長い被験者ほど、距離あたりの撮影枚数が逓減していく傾向を示している。これについては調査に対する被験者の興味、あるいは、風景に対する関心が行程の間に薄れていくことが要因として考えられる。つまり、行程の短い被験者において撮影枚数が過大に現れたり、行程の長い被験者において逆に撮影枚数が過小に現れる可能性を示唆している。収集されたデータの有効性を担保し、より等質な条件下で得られたデータとして解析を行うためには、出発地からある一定の距離までに収集されたデータを有効とする、あるいは調査設計の段階で写真投影法の対象とする区間を一定距離までとする、といった方法を用いる必要があると考えられる。 次に撮影時間と撮影枚数の関係をみる。芦生調査においては撮影時間と撮影枚数の間には相関はみられなかった(図-3; R=0.25)。しかし、時間に基づく撮影ペース(撮影1枚あたりに要する時間)には大きく二つのグループがあることが散布図から読みとれる。芦生では7分/枚程度を境界として、撮影ペースの遅いグループ(平均10分/枚程度)と速いグループ(平均4分/枚程度)が存在する。この傾向は箕面調査の結果でもみられ、撮影時間と撮影枚数の間に若干の相関があるものの(図-4; R=0.34、P<0.05)、10分/枚程度を境界として、撮影ペースの遅いグループ(平均18分/枚程度)と速いグループ(平均6分/枚程度)が存在する。芦生調査と箕面調査における撮影ペースの違いの要因としては、被験者が自らの行動予定などからおおまかな撮影可能時間を当初から認識しており、撮影ペースを自然に調整している可能性が考えられる。また、行程の長さによる風景に対する興味の逓減とも関連して、撮影は往路で行われるものが主体で、復路ではあまり撮影されないという可能性もあり得る。データの均質化という点からは、往路のみでの撮影を指定することは妥当であろう。

それでは、こうした時間に基づく撮影ペースの二分化は被験者のデモグラフィックな属性と関係があるのだろうか。芦生調査の被験者について、来訪回数の多寡、被験者のパーティーの人数・年代構成と撮影ペースの関係を分散分析を用いて検定した結果、いずれも有意な関連はみられなかった。また、箕面調査の被験者について来訪回数の多寡、被験者のパーティーの人数・年代構成、および調査季節の違いと撮影ペースの関係を分散分析を用いて検定した結果、いずれも有意な関連はみられなかった。時間に基づく撮影ペースは、デモグラフィックな属性とは独立した被験者の特性であるといえる。こうした撮影ペースの違いは、被験者の森林風景に対する根本的な反応の違いからきているのか、あるいは調査手法に伴うバイアスなのかを、今後確認していく必要がある。

この場合の撮影ペースは、林内トレイルの利用者が実際によいと感じる風景に遭遇するペースとして近似できる。収集された写真に現れる風景のタイプと、風景体験のペースとの間にどのような関係が存在するのかについて詳しく検討することで、森林のレクリエーション資源性評価にも応用できるものと考えられる。

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図-1片道距離と撮影時間の散布図(芦生調査)

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図-2 片道距離と撮影枚数の散布図(芦生調査)

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図-3撮影時間と撮影枚数の散布図(芦生調査)

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図-4 撮影時間と撮影枚数の散布図(箕面調査)

10.日本産ならたけ病菌の生物学的種間におけるDNA塩基配列の比較

宮下俊一郎(樹病研究室)

1. はじめに

従来、樹病学の分野では、ならたけ病の病原菌は Armillaria mellea 一種とされてきたが、 近年になって、その中に複数の生物学的種(生殖的に隔離された菌株のグループ)の存在することが知られるようになった。さらに、生物学的種ごとに形態的特徴や病原性に一定の傾向のあることが明らかにされてきている。したがって、本病害の研究においては、まず第一に病原菌の生物学的種を判別することが重要である。通常、生物学的種の判別は単胞子分離菌株によるテスター菌との交配試験により行われる。形態との対応関係により子実体の形態的特徴等から判別できる場合もある。しかしながら、いずれの方法においてもかなりの熟練と労力が必要である。そこで本研究では、分子生物学的手法によりならたけ病菌の生物学的種を識別することを目的に、ならたけ病菌の核リボソームRNA遺伝子IGS(Intergenic spacer)領域の塩基配列を決定し、生物学的種間での比較を行った。

2. 実験材料と方法

日本産ならたけ病菌の生物学的種5種類(グループA、B、C、D、E)の単相菌株を供試した。各供試菌株を液体培地(ポテト・デキストロース・ブロス)に接種し、25℃下で約2週間静置培養した。培養菌糸体を回収し、蒸留水で洗浄した後、凍結乾燥を行った。得られた凍結乾燥菌体を乳鉢で粉砕し、DNAの抽出を行った。得られたDNAに対し、IGS領域の一部(26S rDNAと5S rDNAの間の領域)をPCR法により増幅した。PCR産物を精製後、ダイレクトシークエンス法により塩基配列を決定した。

3. 結果と考察

PCRを行った結果、供試したいずれの菌株からも約0.7kbpのPCR産物が得られた。これらの塩基配列を決定し、菌株間で比較した結果、26S rDNA側約100bpの領域はほぼ完全に相同であることが判明したため、この領域を除いた部分を比較の対象とした。また、一部の菌株においては、この結果に基づいて対象領域のみを増幅するプライマーを新たに設計し、これにより得られたPCR産物を用いて解析を行った。以上により、対象領域のほぼ全域について塩基配列のアライメントを作成し、各菌株間の相同性を算出した。

それでは、こうした時間に基づく撮影ペースの二分化は被験者のデモグラフィックな属性と関係があるのだろうか。芦生調査の被験者について、来訪回数の多寡、被験者のパーティーの人数・年代構成と撮影ペースの関係を分散分析を用いて検定した結果、いずれも有意な関連はみられなかった。また、箕面調査の被験者について来訪回数の多寡、被験者のパーティーの人数・年代構成、および調査季節の違いと撮影ペースの関係を分散分析を用いて検定した結果、いずれも有意な関連はみられなかった。時間に基づく撮影ペースは、デモグラフィックな属性とは独立した被験者の特性であるといえる。こうした撮影ペースの違いは、被験者の森林風景に対する根本的な反応の違いからきているのか、あるいは調査手法に伴うバイアスなのかを、今後確認していく必要がある。

グループ内および各グループ間における菌株間の相同性の平均値を表-1に示した。菌株間の相同性は、同一生物学的種内においては98.2%以上と高い値を示したのに対して、生物学的種間においてはA-D間の97.9%を除き、いずれも94.2%以下の値にとどまった。グループ間の相同性において、A–D間で際立って高い値を示したことは、形態的所見においてこれらの子実体の形態が酷似していることと一致している。以上の結果により、本配列の変異がならたけ病菌の生物学的種や形態の分化と高い相関を示すことが明らかとなった。また、アライメントを行った結果から、各グループに特異的な配列の存在することが判明しており、これらを利用した診断技術の開発が可能であると考えられる。

表-1 生物学的種内・間における塩基配列の相同性(%)
  A B C D E
A 98.9        
B 93.1 98.8      
C 90.4 89.7 98.9    
D 97.9 93.4 90.0 98.2  
E 94.2 90.1 88.2 93.2 99.3

11.マツの木部キャビテーション感受性と組織構造との関係

池田武文(樹病研究室)

1. はじめに

植物の水ストレス耐性に関しては、各組織、特に葉における浸透圧調節等の細胞レベルでの研究が盛んに行われている。しかし樹木では水分通導組織(道管、仮道管)でのキャビテーション発生による水分通導組織の空洞化とその結果生じる水分通導機能の消失は重大な問題である。これまで、キャビテーションに対する感受性の違いは水分通導組織の内径の大きさと関係している、つまり、これといった科学的な根拠なしに大きな径の道管や仮道管ほどキャビテーションがおきやすいと信じられてきた。ところがキャビテーションはair seeding(エアーシーディング)理論によっておこることが証明され、植物のキャビテーションに関する研究は新しい展開を見せ始めている。ここでは、マツの木部で発生するキャビテーションに対する樹体各部の感受性とその解剖学的特性との関係について報告する。

2. 材料と方法

クロマツ(4ないし5年生)の樹体各部(当年生幹、1年生幹、根)について、空気注入法でvulnerability curveを作成し、その曲線の形状とこの曲線から計算したmean cavitation pressureの値から、各部位のキャビテーションに対する感受性を評価した。さらに、解剖学的特性として、仮道管の内径と木部径を測定した。

3. 結果と考察

根のキャビテーションに対する感受性は、あるものは非常に高く(キャビテーションがより発生しやすい)(図-1、根-2)、あるものは地上部の幹と同程度であった。地上部では当年生幹が1年生幹に比べて高い注入圧でよりキャビテーションが発生しやすい傾向にあった。日中の水ポテンシャルが-1.5MPaにまで低下することがあるので、一部の根では水分通導性が40%近く失われていることを示している

Mean cavitation pressureと水分通導組織の解剖学的特性との関係をみると(図-2、3)、根-2のグループともう一方の根のグループとでは明らかな違いが認められた。つまり、同じ木部径あるいは同じ仮道管径に対して、根-2のグループのmean cavitation pressureはかなり低かった。それぞれのグループの中では、仮道管内径や木部径とキャビテーション感受性とに明瞭な関係は認められなかった。今後は仮道管の壁孔膜の特徴を検討する必要がある。

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図-1 クロマツのvulnerability curve

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図-2 Mean cavitation pressureと木部の直径との関係

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図-3 Mean cavitation pressureと仮道管内径との関係

12.オオコクヌスト成虫放虫によるマツノマダラカミキリ捕食効果

上田明良・藤田和幸・浦野忠久(昆虫研究室)

1. はじめに

オオコクヌスト(以下オオコク)はマツ材線虫病の媒介者マツノマダラカミキリ(以下マダラ)の天敵のひとつとして知られている。筆者らはオオコクの3・4齢幼虫をマダラ幼虫のいるアカマツ丸太の樹皮下に接種し、有意な捕食効果があることを示した(本誌37号34ページ)。今回は、オオコク成虫を網室内に放し、マダラ成虫への直接な捕食効果と、放した成虫が産卵し、そこから孵化した幼虫による丸太内マダラ幼虫への捕食効果について調べた。

2. 研究方法

1997年7月2日、野外網室3室と常温の室内の網室3室にアカマツ丸太を5本ずつ入れ、マダラ成虫6雌3雄を各網室に放し、産卵させた。7月9日、オオコク成虫3雌1雄と2雌1雄を野外と室内の網室に放し、残りの1室は対照区(放虫数ゼロ)とした。オオコク放虫区においては、10月29日まで6~9日毎にオオコク成虫の餌としてマダラ終齢幼虫2・3頭をピンで丸太に刺して与えた。7月23日にマダラ成虫を回収し、その死亡数を外傷の有無別に数えた。11月21日に全ての丸太を割材し、マダラとオオコクの材内および樹皮下別生存・死亡個体数を調べた。

3. 結果と考察

回収したマダラ成虫はほとんど生存していて、オオコク放虫区の死亡個体に外傷がなかったことから、オオコク成虫にマダラ成虫を捕食する能力はほとんどないことが判明した。孵化した幼虫による丸太内マダラ幼虫への捕食効果を調べるための割材調査結果を表-1に示した。マダラ幼虫数計はオオコクによる捕食圧が高ければ対照区(放虫数ゼロ)より少なくなるであろう。また、空室の蛹室率は、放虫区で対照区よりこの値が高かった場合、その分オオコクに捕食された可能性が高く、オオコクの捕食効果を示す指標となる。しかし、幼虫数計は対照区とほぼ同じで、捕食効果はみられなかった。空室の蛹室率は野外網室の3雌1雄区で対照区よりも有意に高かったが、他は対照区と差はなく、捕食効果はみられなかった。以上の結果から、放したオオコク成虫が産卵し、そこから孵化した幼虫による丸太内マダラ幼虫への捕食効果はほとんどないことが判明した。野外網室では3頭のオオコク幼虫がマダラ蛹室から得られたが、室内網室からはわずか1頭であった。室内網室では、キクイムシがいなかったために、孵化幼虫の餌が少なかったと考えられ、これが室内網室でオオコク幼虫が1頭しか得られなかった理由のひとつと考えられる。

表-1 割材で得られたマツノマダラカミキリとオオコクヌストの平均個体数(各区の丸太は5本)
網室の設置場所 オオコク放虫数 丸太1本あたりのマダラ個体数 空室蛹室率(%) 平均オオコク放虫数
樹皮下幼虫 蛹室内幼虫 空室の蛹室c 幼虫数計  
A B C A+B  C/(B+C)
野外a ゼロ 0.2 15.8 3.4 16.0 17.7 0
2雌1雄 0 15.0 5.8 15.0 25.0 0.2
3雌1雄 0.2 14.0 6.6 14.2 30.0d 0.4
室内b ゼロ 0.2 10.6 3.4 10.8 20.9 0
2雌1雄 0.8 12.8 2.2 13.6 12.2 0
3雌1雄 0.2 11.6 2.2 11.8 16.0 0.2

a たくさんのキクイムシの孔道がすべての丸太の樹皮下にみられた。
b キクイムシの加害はなかった。
c 捕食された幼虫またはオオコクヌスト幼虫がいた蛹室を含む。
d 放虫数ゼロとの間に有意差あり(p=0.03, U-検定)。

今回の試験でマツ丸太にいた昆虫はマダラだけ、またはマダラとキクイムシ類だけという単純な環境であった。しかし実際の野外ではタマムシ類、他のカミキリムシ類、ゾウムシ類とそれらの寄生蜂など様々な昆虫がマツ枯損木にいて、今回の試験よりも複雑な環境の中でオオコクは生息している。試験設定をより複雑な環境にしていくと、オオコク成虫放虫による材内マダラ幼虫への捕食効果が高くなる可能性がある。

13.ヒメスギカミキリの飼い殺し寄生バチ2種における生活史および寄生率

浦野忠久(昆虫研究室)

1. はじめに

スギ、ヒノキの樹皮下を食害するヒメスギカミキリ幼虫には、数種類の寄生バチが捕食寄生する。これまでに知られている穿孔虫類の寄生バチの大半は、雌バチが産卵時に寄主を永久麻酔し(殺傷寄生)、幼虫が寄主体表面に付着して摂食を行う(外部寄生)種であった。今回ヒメスギカミキリ穿入丸太において、これまでにあまり報告されていない寄主を発育させながら(飼い殺し寄生)体内に寄生する(内部寄生)2種類の寄生バチが確認され、その生活史および寄生率の調査を行った。

2. 材料と方法

1992年4月中旬、関西支所構内でヒメスギカミキリ産卵用のスギ立木を伐倒した。この中から長さ1.5m、直径5~7cmの丸太8本を1カ月間林内に放置し、ヒメスギカミキリに産卵させた。これらの丸太は5月下旬に室内に搬入し、室温(10~30℃)で保存した。5本の供試丸太については、1992年11月上旬から1993年3月上旬にかけて剥皮、割材し、樹皮下と材内のヒメスギカミキリおよび寄生バチの調査を行った。残り3本は1993年3月に野外の網室に移し、成虫の脱出消長を調べた。

3. 結果と考察

割材した供試丸太の材内蛹室からは、ヒメスギカミキリの幼虫、成虫および寄生バチの繭が得られた。幼虫をプラスチックカップに入れて室温(10~25℃)で保存したところ、1~4日後に体内から寄生バチ幼虫が脱出した。脱出したハチ幼虫はさらに1日ほど寄主を摂食したのち営繭した。繭を室温で保存した結果、2月上旬から3月下旬にかけて2種類の寄生バチが羽化した。1つはヒメスギツノコマユバチ(Baeacis semanoti (Watanabe))で、もう1種は Rhimphoctona sp.(ヒメバチの1種)であった。調査期間中にヒメスギカミキリ幼虫から脱出したハチ幼虫は全てヒメスギツノコマユバチであり、Rhimphoctona sp.は全て繭の状態で材内から得られた。したがってヒメスギツノコマユバチは寄主体内で越冬するのに対し、Rhimphoctona sp.は秋までに寄主摂食を終えて、営繭後に越冬するものと推定された。各種寄生バチのヒメスギカミキリに対する寄生率を図-1に示した。供試丸太内の全寄生率は56%で、2種以外に殺傷寄生者であるヨゴオナガコマユバチの寄生が認められた。ヒメスギツノコマユバチによる寄生率は19%、Rhimphoctona sp.は30%であり、2種によってほぼ半数のヒメスギカミキリが寄生を受けたものと考えられる。室内羽化個体の性比(雄率)はヒメスギツノコマユバチが0.50、Rhimphoctona sp.が0.34であった。野外の網室に入れた丸太からは、4月中旬から約1カ月間にわたって2種の成虫が羽化脱出した。4~5月はヒメスギカミキリの産卵時期であるため、2種の寄生バチはこの時期に寄主の卵あるいは孵化幼虫に産卵することが推定される。

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図-1 各種寄生バチのヒメスギカミキリに対する寄生率

14.寒冷な地域でのマツ材線虫病の実態

藤田和幸(昆虫研究室)

1. はじめに

1960年代後半から続くマツ材線虫病の全国的大流行のなかで、1970年代の半ば以降、それまで被害報告のなかった北関東や東北地方、あるいは西日本でも比較的高標高地に被害が拡がった。比較的冷涼な地域(以後、寒冷地と略す)でのマツ材線虫病の被害の特徴として、空間的に散発的、一般的には微害で終始する、まれに激しい被害が起きても長続きしない、等が挙げられる。被害拡大を受けて、寒冷地におけるマツ材線虫病に関する研究が、とくに1980年代の半ばまで、精力的に行われた。材線虫病によるマツ枯れの実態調査、気象要因の関わりの解析、あるいは病原のマツノザイセンチュウ(以後、センチュウ)や媒介昆虫の樹体内での個体数変化等の調査が主なものである。ここでは、激害地とは異なる被害の様相をもたらす要因を、研究成果から抽出してみたい。

2. 生物間相互関係と気象条件

マツ、センチュウ、媒介者の3者関係、およびそれをとりまく気象条件を中心に考えてみると、以下のようになる。

センチュウは自身では環境内を動くことができない。したがって、新たに被害林分が発生するためには、センチュウをもった媒介者(国内ではマツノマダラカミキリとカラフトヒゲナガカミキリ)の飛来が必要で、飛び火的な被害拡大には、媒介者の自力での移動以外の、被害材の持ち込みという人為が関与していると思われるケースが存在する。

マツ材線虫病が激害になるためには、相当量のセンチュウを体内に持った媒介者の脱出、媒介者によるマツ樹体内へのセンチュウの持ち込み、そこでのセンチュウの急速な増殖、その結果急激に衰弱した木への媒介者の産卵、媒介者次世代の羽化、脱出、の一連のプロセスが1年以内に完了するサイクルが途切れなく続くことが求められる。プロセスのどこかで滞れば1年では完了しない。それが非激害地であり、寒冷地は具体的には次のような実態であろう。すなわち、健全なマツに早期に病原が入り、その年の温量が枯死を招くのに十分であれば、やがて衰弱・枯死する。しかし、寒冷になればなるほど、その年に枯れる割合が低くなる。次年以降にセンチュウ増殖のための条件が整えば、その年に全身的な衰弱、枯死に至る「年越し枯れ」になるが、その場合、衰弱する季節が媒介者の産卵時期に重なるとは限らない。衰弱と媒介者の飛翔時期が重ならなければ媒介者に産卵されず、その木のセンチュウが持ち出される機会はなくなって、その木が次なる被害源になることはない。また、木の衰弱と媒介者の産卵期が合致しても、寒冷になればなるほど、次年の初夏までの温量が媒介者の成長を完了するためには十分でなく、媒介者は衰弱の翌々年以降にしか脱出できない「2年以上1化」の割合が高くなる。枯れたマツでのセンチュウ密度は時間とともに減少するので、脱出時期が遅れれば、持ち出されるセンチュウ数は減少していく。このように、基本的に夏期気温によって、サイクルがスムーズに運ばず、1年では完了できない確率が高いのが寒冷地が激害にならない理由である。マツ材線虫病流行に関わる夏期気温の評価については、竹谷(1975)は激害が起こるかどうかを、その地域の夏季気温の平年値の指標となるMB示数で説明することを試み、MB示数40前後が激害発生の閾値と結論した。

しかし実際には、それを大きく下回る示数値の地域でも、散発的に激しいマツ枯れが起こっている。わが国では夏期気温の年次変動が大きく、単年的には1年サイクルを容認する年が現れる。気温データからは、MB示数30前後の京都府美山でも、単年のMB示数が40前後まで上昇する年が5年おき程度には現れる。したがって、とくに慢性激害地域以外でのマツ材線虫病発生に関わる夏季の温度条件に言及する際には、平均気温のみではなく、変動幅も問題にすべきなのである。

3. おわりに

寒冷地においては、サイクル完了が長期にわたることがままあることから、サイクルを完結するまでに、気象条件や林内の生物相の季節変化を経験すること、人為的な要因も含めて多くの要因の影響を受けやすくなることが予測される。とすれば、寒冷地での動態解析によって、当該地域での被害防止のための基礎的知見を提供することはもちろん、速やかに枯れに至る激害地では見いだしにくい要因が見られる可能性がある。また、寒冷地は概ね微害地であることから、激害地での被害を微害に誘導するヒントが得られるものと考えられ、これらの地域でのマツ材線虫病研究の発展が望まれる。一方、地球温暖化による気温上昇により、微害地でのマツ材線虫病被害激化、および被害地域の拡大が懸念されている。こうした予測を行う際には、上に述べた環境条件のバラツキや今回述べられなかった生物の個体間のバラツキ、を組み込んだ手法の導入が必須であろう。また、病原が持ち込まれなければ、被害が起こることがないわけで、温暖化の進行とともに、病原や媒介者の生息分布の拡大過程を予測していくことも重要であろう。

15.異なる生息環境がニホンザルの土地利用形態と繁殖に及ぼす影響

室山泰之(科学技術庁特別研究員)
北原英治(森林生物部森林動物科長)

1. はじめに

ニホンザルは暖温帯林から冷温帯林までの多様な環境に生息する日本固有の雑食性霊長類である。近年、農林産物被害の急増が報告されており、個体群管理に関する具体的な方策と長期的な展望が求められている。しかし、人為的に改変された環境に生息するニホンザルの生態については不明の点が多く、森林に生息する野生群に関する知見の利用も現在までほとんどなされていない。本研究では、農林産物被害が報告されている地域で、ニホンザル集団の生態と生息環境に関する基礎的なデータを収集し、どのような環境条件がニホンザルの生態、とくに土地利用と繁殖に影響を与えるかを分析し、ニホンザル個体群管理の指針を得ることを目的とした。

2. 研究方法

被害発生地域において、群れ個体の捕獲および発信器の装着をおこない、調査地域内の群れの分布、各集団のサイズ、集団構成、行動域、土地利用状況、食性およびそのほかの行動についてデータを収集した。

3. 結果と考察

平成9年度調査地・三重県度会郡大宮町内に生息していた発信器装着個体の移動範囲を図-1に示した。装着個体は7月中旬まで群れと行動をともにしていたが、その後群れから離脱したと推測された。5月から7月にかけての群れの行動域は、被害を与えている集落をほぼ南端として約20km2であった。行動域の季節的変動は大きかったが、特定の食物資源の分布に対応しているかどうかは不明であった。この群れの最大個体数はオトナオス4頭、オトナメス18頭を含む61頭で、メスのうちの15頭が新生児(ないしは1歳児)を持っていた。なお7月中旬以降、調査地周辺ではニホンザルによる被害がほとんどなかったことが聞き取り調査により判明しており、この地域では果実・堅果等の豊凶により被害発生の程度が大きく変動すると推測された。

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図-1 平成9年度に発信器を装着した個体の移動範囲
7月*は集団を離脱した後の個体の移動範囲)

平成10年度は調査地を移し、三重県中部の上野市周辺に生息する比自岐群を追跡した。同個体群の群サイズは、53頭程度(11月20日確認: 成獣雄6頭、成獣雌12頭、亜成獣7頭、幼獣(1–3歳)21頭、0歳7頭)で、行動域面積は約15.6km2だった。行動域内の植生は、スギ・ヒノキの植林地が多く、川沿いや尾根上にわずかに落葉広葉樹林が残存していた。行動域内にある数カ所の集落の農地周辺に1-2日滞在し、農作物に被害を与えて次の集落に移動するというのが、典型的な土地利用パターンであった。追跡調査中農地に現れない日はなく、多くの農作物に被害が及んでいた。農林産物に対して被害をもたらしているニホンザルの生態について、行動域および土地利用に関する基礎的な資料を収集することができた。その結果、人為的な影響の少ない森林に生息する野生群とは異なり、農地への依存度が高い集団では見かけ上の行動域面積が拡大する可能性があること、土地利用は農地や市街地周辺に集中するかなり偏りの大きいものであることなどがあきらかとなった。これらの知見は、限定された地域での有害駆除の実施が予想外に広範囲の地域にまで影響する可能性(地域個体群の縮小・絶滅の可能性)を示唆するものであり、ニホンザルの個体群管理を考える上で重要な問題を提起するものであった。

16.鳥の葉食昆虫に対する捕食の効果

日野輝明(鳥獣研究室)

1. はじめに

森林に生息する昆虫食の鳥は、樹木の葉を食害する鱗翅目やハバチの幼虫を捕食することで、樹木の生存や成長に対して有益な効果をもたらしていると考えられる。本報告では、鳥による捕食の効果を人為的に除去することで、葉上の虫の個体数、および虫による樹木の葉の食害量がどの程度違うのかを、定量的に明らかにする。また、虫の密度の違いによる捕食効果についても検討する。

2. 方法

大台ヶ原の針広混交林内に設けた固定調査地において、鳥の繁殖期である5月から7月まで月に2回ずつ計5回の調査を行った。主要構成樹種であるブナ・オオイタヤメイゲツ・タンナサワフタギの3種の低木(樹高約3m)について、網で囲んだ鳥除去区と囲まない対照区の各5本の木において、葉食性の昆虫個体数と体長、および虫による葉の食害量を調べた。また同時に、調査地内で繁殖する全ての鳥類の個体数センサスを行った。

3. 結果と考察

96年度に比べて、97年度はブナでハバチの幼虫の大発生により、葉食昆虫のバイオマス(乾燥重量;体長から換算)が大幅に増加したが、鳥の個体数に変化は見られなかった。鳥除去区と対照区で葉上の虫のバイオマスを比較すると、96年度には、どの樹種においても鳥除去区で有意に大きく(図-1)、それにともなって、葉の食害量も大きかった(図-2)が、97年度には、虫の個体数も葉の食害量も除去区と対照区の間で差が見られなかった。これらの結果から、鳥による虫の捕食は、虫の密度が通常の密度であれば、樹木に対して有益な効果をもたらすが、虫の大発生時には効果がなくなることが示唆された。

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図-1 鳥の除去区と対照区における各樹種の葉上の鱗翅目等幼虫のバイオマス

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図-2 鳥の除去区と対照区における各樹種における鱗翅目等幼虫の食害による葉の消失量

17.限界採餌密度(Giving-Up Density)を用いた餌資源量評価の試み

島田卓哉(鳥獣研究室)

1. はじめに

動物の生活を考える上で、食物は最も重要な要素の一つである。そのため、様々な方法を用いて動物にとって利用可能な餌資源量の評価が行われてきた。一般的には直接的な評価法で、例えば、一定の範囲の植物を刈り取りシカ等の草食性動物の餌資源量を推定するといった方法である。直接的評価法は、労力がかかるという難点はあるが、確実に餌資源の評価を行うことが可能である。しかしながら、採食品目が多岐にわたる広食性の動物の場合、1)採食品目の完全な把握が容易ではなく、2)個々の採食品目の現存量を把握できたとしても、採食品目間の相対的重要性が分からなければ動物にとっての餌資源評価には繋がらないという理由から、直接的評価法の適用は困難である。その場合、間接的評価法によって餌資源の評価を行う必要が生じる。本研究では、Brown (1988)によって提唱された限界採餌密度 (Giving-Up Density : GUD)を用いて、ヒメネズミ Apodemus argenteusにとっての餌資源環境の評価を試みた。

2. 方法

調査は奈良県大台ヶ原で行った。調査地は、ウラジロモミ、トウヒ、ブナ、ミズナラの優占する針広混交林である。餌資源量の指標として、GUDの測定を行った。林内に乾燥した砂の入ったステンレス製のバット(330×198×57mm)を6ポイントに設置し、5gの麻の実を混入した。バットは、金網製の篭で被い、ヒメネズミのみが利用できるようにし、一晩放置後食べ残された麻の実の重量をGUDとした。調査期間は、1997年6~11月、および1998年4~11月である。なお、1998年にはブナ堅果が大量に結実したが、1997年には結実は認められなかった。

3. 結果と考察

GUDの値が小さいということは、そのパッチに対する依存度が高いということなので、そのハビタットの餌資源が相対的に貧弱であることを示している。図-1にGUDの季節変化を示した。1997年には、ヒメネズミの繁殖期にあたる秋期にGUDが減少するのに対して、1998年では増加する傾向が認められた。図-2には、GUDとヒメネズミ個体群密度を積算して推定した餌資源量の季節変化を示した。秋期の餌資源量は両年で対照的で、1997年には餌資源量は低いレベルであったことが示唆される。1997年の秋には繁殖のため個体数が増加し、その結果ハビタットの質が相対的に低下しGUDが低い値を示したが、1998年には個体数の増加にもかかわらず、ブナの大量結実によってハビタットは高質な状態になったことを、これらの結果は反映しているものと思われる。しかしながら、図-1が示すように、GUDはポイント間のばらつきが大きく、ハビタットの質をどの程度正確に反映しているかに関しては疑問が残った。GUDを餌資源の評価に用いるためには、GUDが反映するスケールのサイズを明らかにし、その知見に基づいた適用を行うことが重要であると思われる。

<引用文献> J. S. Brown. 1988. Behav. Ecol. Sociobiol. 22:37-47.

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図-1 限界採餌密度(GUD)の季節変化

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図-2 GUDから推定した餌資源量の季節変化