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年報第40号 関西支所研究成果発表会記録

森林からの有機物の流出特性

金子真司(土壌研究室)

1. はじめに

琵琶湖は京阪神地域1,400万人の水道水源となっている。琵琶湖大橋から北側の北湖はこれまで良好な水質を保ってきたが、最近では毎年のように赤潮が発生するようになりCOD値も増加傾向にある。このことから北湖において何らかの有機汚濁が進行しつつあるのではないかと考えられている。北湖の集水域の約半分は森林に覆われているので、森林から流出する成分は湖水の水質形成に深く係わっている。しかしながら、森林から流出する有機成分に関しての調査は少なく、その実態はよくわかっていない。そこで森林から有機成分の流出の特徴について調査を行った。

2. 方法

比良山系から流出する四ツ子川の支流(6.57ha)に量水堰堤を1995年10月に設置して、定期的に水質観測を行うと共に、和迩川、知内川および田川の支流において広域の渓流水質調査を行った。四ツ子川支流では水量、水温および気温を自動観測するとともに、渓流水の採取を月に2回の頻度で行い、溶存有機物(DOC)や浮遊有機物(OSS)およびその他の水質成分の分析を行った。また量水堰堤内に堆積した落葉や枝等の粗大有機物量を月に一度の割合で測定した。

3. 結果及び考察

四ツ子川支流では無機成分は濃度の変動が少なくきわめて安定していたが、DOC やOSSなどの溶存有機物は琵琶湖水に比べると濃度は低いものの変動が大きく、季節的には冬季に濃度が低く春から夏にかけて高い傾向がみられた。それに対して、粗大有機物は秋から冬にかけて流出する割合が高くなり、春から夏にかけてその割合が低下した(図-1)。春から夏にかけて渓流水中のOSSやDOC濃度が高くなるのは、水温上昇によって渓流水中での粗大有機物の分解が進むためであろうと推定された。

四ツ子川における測定結果から計算した形態別の有機物の年間流出量は、粗大有機物が2.4 -11.3kg/ha、浮遊態有機物は5kg/ha程度、溶存態有機物は1996、1997年が6kg/ha前後であった。本渓流では粗大有機物の流出量が大きかったが、これについては急峻な地形や年降水量(2,400mm)が多いためであろうと推測された。また、粗大有機物の流出量の年変動が大きい理由は、粗大有機物の流出が降雨強度や降水量に依存するためであろうと考えられた。

広域調査の結果、渓流水中のDOC濃度は広葉樹>針葉樹と広葉樹の混在>針葉樹と流域の樹種によって異なることが判明した(図-2)。しかし、土壌水中のDOC調査では広葉樹と針葉樹で有意な差は認められなかったので、渓流水中における粗大有機物の分解で生成するDOC量は樹種によって異なるのではないかと推定された。

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図-1 流出土砂に占める粗大有機物の割合

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図-2 渓流水中の有機物濃度の比較

多様性からみた里山ランドスケープの変化

深町加津枝(風致林管理研究室)

1. はじめに

ランドスケープの形成は固有の文化と強く結びついており、その変化の特徴はランドスケープの多様性の変化にも現れると考えられる。本調査では、森林計画図上の41の小班を土地単位とし、社会、経済状況が大きく変化する直前の1970年と1995年の里山ランドスケープの多様性を比較した。対象地とした京都府宮津市上世屋地区は、丹後半島の山間部に位置し、面積は約650haである。集落の周りをナラ・シデ類が優占する二次林、スギやヒノキの人工林、水田などが取り囲み、典型的な里山ランドスケープを形成する。上世屋地区では1970年前後から過疎化が急速に進み、70年に38戸あった戸数は95年には13戸に減少し、また同時期に薪炭利用が激減した。

2. 土地利用とランドスケープの多様度の変化

図-1には、水田を中心とする1970年頃の上世屋地区の里山ランドスケープを模式的に示した。1970年頃は水源のある緩やかな斜面が水田となり、その周りを薪炭林が取り囲んでいた。水田周辺には、有機肥料や牛の餌となる草や柴を供給した採草地があり、また、水田が日陰になるのを防ぐために定期的に樹木が伐採された陰伐地が分布した。その他、茅葺き屋根の材料となるチマキザサを採集するための茅場も分布した。しかし、1995年までに大面積で多くの土地単位に広がっていた水田は激減し、採草地、陰伐地、茅場は消失した。

また、ランドスケープの多様度(土地単位ごとに土地利用、土地被覆面積の割合を求め、Shannonの多様度を用いて計算した値)をみると、両年とも全体の中で多様度が高い土地単位が、集落周辺および北部の傾斜が緩やかな地域に集中していた。しかし、1995年には多様度の高い土地単位が減少しており、特に集落から遠距離にある土地単位でその傾向が強くみられた。次に、森林の部分に注目し、10年の林齢区分ごとに面積を求めた森林の林齢の多様度をみると、まず、95年までにナラ・シデ類が優占する二次林の林齢の多様度が全体に増加し、特に集落周辺および車道沿いの土地単位でその傾向が強くみられた。人工林は面積が約1.4倍に急増し、集落周辺や歩道、車道沿いなど特定の土地単位で面積、林齢多様度が大きく増加した。

3. まとめと課題

上世屋地区では、ランドスケープの多様度が減少する一方で、林齢の多様度が増加した。これは、全体として土地利用が単純化した中で森林の断片化が進み、二次林、人工林という区分は同じであっても経歴や林齢の異なるパッチが混在するモザイクが形成されたことを意味する。採草地などの叢状地や水田が樹林化・人工林化によって減少し、異なる林種や林齢の混在化した森林を特徴とする里山ランドスケープへと変化したのである。また、集落からの距離や歩車道の有無などにより、変化のパターンが異なっていることも示唆された。

このような里山ランドスケープの変化は生態的にも大きな影響を与えていると考えられ、今後はこの観点からの調査が特に必要になるといえよう。

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図-1 上世屋地区における水田周辺部の里山ランドスケープ(1970年頃)