文字サイズ
縮小
標準
拡大
色合い
標準
1
2
3

森林総研トップ

ホーム > 研究紹介 > 刊行物 > 森林総合研究所関西支所年報第44号 > 年報第44号 平成14年度関西支所の研究概要

ここから本文です。

年報第44号 平成14年度関西支所の研究概要

ア.(イ).1.a 主要樹木集団の遺伝的多様性評価手法の開発および繁殖動態の解析(→主要成果p.32)

  • 目的 : ホオノキ実生の近交弱勢の大きさと光環境の影響調査等に取り組む。
  • 方法 : 3母樹の人工受粉実験で得たホオノキ自殖実生・他殖実生を、遮光率の異なる2種類の寒冷紗をかけた圃場で2年間栽培し、自殖と被陰が成長(個体サイズ、器官重、成長率)と成長形態(配分比、幹形、葉面積比)に及ぼす影響を調べた。
  • 成果 : ホオノキ自殖実生・他殖実生を遮光率の異なる2種類の寒冷紗をかけた圃場で2年間栽培した結果、個体サイズ、成長率、器官重に大きな近交弱勢が現れた。被陰がこれらの近交弱勢に及ぼす影響は有意でなかったが、葉重比(葉重/個体重)と根重比(根重/個体重)では受粉処理(自殖vs他殖)と被陰の有意な交互作用が認められた。これらのことから、ホオノキ他殖実生は自殖実生よりも光環境に対して高い可塑性を持つことが明らかになった。

ア.(イ).3.a 森林施業が森林植物の多様性と動態に及ぼす影響の解明

  • 目的 : 間伐が林床植生に及ぼす影響について、京都近郊における資料を収集する。
  • 方法 : 3段階の間伐率(25%、50%、75%)で間伐試験を行ったスギ林(京都大阪森林管理事務所管内醍醐国有林)において、無間伐の対照区も含めて4つの試験区を2000年に設定した。この試験区において、2001年から毎年春秋の2回林床植生の調査を行った。調査は、1m×1mの方形区を調査毎にランダムに20個配置し、その中に含まれる維管束植物の種を方形区毎に記録する方法で行った。
  • 成果 : 無間伐区では、林床植生に大きな変化は見られなかった。25%間伐区でも、無間伐区と同様に、林床植生には大きな変化は見られず、この程度の間伐では、林床植生があまり変化しないことが示唆された。これらの試験区ではチャノキの出現率が高かった。一方、50%間伐区、75%間伐区では、種数の増加が認められた。特に、75%間伐区では、イワヒメワラビの出現率が50%ともっとも高くなり、チャノキ(40%)以外にも、ベニバナボロギク(35%)・タケニグサ(30%)・オオバチドメ(20%)・ヨウシュヤマゴボウ(20%)・スギ(15%)・アカメガシワ(15%)・ダンドボロギク(15%)・チヂミザサ(15%)の出現率が10%を超えた。75%区では、陽性の草本の出現率が高くなっていた。

ア.(ウ).1.a 崩壊に瀕した大台ヶ原森林生態系の修復のための生物間相互作用の解明(→主要成果p.3335)

  • 目的 : 森林下層部の生物間相互作用ネットワークを明らかにし、森林下層部の生態系の動態についてのシミュレーションモデルを構築する。このモデルに基づいて、安定で多様性の高い森林生態系を維持していくために有効な生物管理技術について提案を行う。
  • 方法 : 奈良県大台ヶ原の針広混交林内に設置してある共同実験区において、ササの刈り取りと実生のモニタリング調査を、5月から11月まで月に1回行った。シカの採食による森林植生の変化が、鳥類群集に及ぼす影響を調べるために、シカ密度の異なる12カ所で植生調査と鳥の個体数センサスを5月と6月に行った。シミュレーション・モデルは、ソフトウェアSTELLA Researchを用いて作成した。
  • 成果 : 鳥は、シカが多いところでは、枯木の増加により樹洞を利用する種類が多く、逆にシカが少ないところでは、下層植生を利用する種類が多いために、全体的な種類数には差がなかった。シミュレーションの結果、シカを現在の密度のまま放置すると、更新の阻害と樹木の枯死によって森林は衰退の一途をたどることが予測された。ところが、駆除によってシカの個体数が減少すると、現在のササ現存量との平衡関係が崩れて、成長速度の大きいミヤコザサの現存量が最大値近くまで回復するために、天然更新が進まなくなることが予測された。従って、大台ヶ原の森林生態系を修復するためには、シカの個体数調整とササの刈り取りを同時に行っていく必要があることが分かった。

  • 目的 : 大台ヶ原原生林林床の主要樹種について、ササの影響の受け方がどのように違うのか検討する。
  • 方法 : 生存時間分析およびパス解析をもちいて、主要樹種の実生がササによってどのような影響を受けるか検討した。
  • 成果 : 生存時間解析の結果、ウラジロモミおよびブナについては、ササを残存させた処理区においてシカが実生の生存に対して正の効果を及ぼすという効果は認められなかった。しかし、アオダモについてはこの効果が認められた。シカがササをたべることによってササの現存量を減らし、実生の生存率を上げるという間接効果があったものと考えられる。ウラジロモミについては2年目以降、ササの影響はシカの影響よりも小さく、このためそのような間接効果があらわれなかったものと考えられる。ブナについては、シカがササの現存量を減らしても、生存率がそれほど向上しないためであるのかもしれない。パス解析の結果も同様の結論を示唆していた。

  • 目的 : ニホンジカの生息密度の高い大台ヶ原において、シカ糞から土壌への窒素供給を評価する目的で、大台ヶ原におけるシカ糞の化学的な分解過程を測定し、ササリターとして供給される場合とどちらの方が分解が速いか比較する。
  • 方法 : 3つの方法による分解消失過程を測定した。(1) 糞虫の土壌へ埋め込む作用を排除した場合の分解消失(フンカゴ法)(2)糞虫と降雨による物理的破壊を排除し、主に微生物による分解(フンバッグ法)(3)すべての作用を排除しない、自然状態の分解消失(粒数カウント法)。また、被採食植物のミヤコザサ(以下ササと言う)の分解速度をリターバッグ法で測定した。
  • 成果 : 設置6ヶ月後のシカ糞の重量残存率はフンバッグ法>フンカゴ法>粒数カウント法の順に高く、フンバッグ法では0.5以上であるのに対し、粒数カウント法ではほとんど0であった。粒数カウント法によって測定されたシカ糞の分解消失の半分は糞虫の影響や物理的作用による消失であることが示唆された。一方、バッグ法によるササ葉とシカ糞の分解過程には差が認められなかったことから、微生物による分解速度はシカ糞とササ葉でほぼ等しいと考えられた。また、フンカゴ法による測定では、シカ糞のC/N比の初期値はこれまでに測定された樹木葉の値と比較して低く、分解消失に伴う炭素含有率、窒素含有率の変動も樹木葉と比較して小さいことが明らかになった。

  • 目的 : 下層植生の変化の影響を直接受けるオサムシ科昆虫と徘徊性クモ類の群集の動態を把握し、その多様性を高める方法を検討する。また、ミヤコザサにゴールを形成するタマバエ(以下ササタマバエ)の生態やそのゴール数・個体数とシカとの関係を明らかにする。
  • 方法 : (1)オサムシ科昆虫と徘徊性クモ類および地表性小動物 : 全ての実験小区にプラスチックカップ製ピットフォール(落とし穴)トラップおよび10×8cmの粘着紙を設置して捕獲し、同定した。
    (2)ササタマバエのゴール : シカ除去柵内と周辺の柵外でゴールを採集し、ゴール内の各室内の寄生蜂およびタマバエ個体数を数えた。また、シカ糞の影響をみるため、シカ糞を蒔いた試験区と蒔かない試験区の間でゴール数を比較した。
  • 成果 : (1)オサムシ科昆虫と徘徊性クモ類 : ササ現存量に対して、捕獲数がオサムシ科では現在の大台ヶ原のササ現存量あたりでもっとも多く、シカの採食でこれらの多様性が高くなっていると考えられた。これらの餌となる地表性小動物全捕獲数は、ササ除去区で多い傾向があったが、オサムシ科昆虫とクモ類捕獲数との間に明確な関係はなかった。
    (2)ササタマバエのゴール : ゴール数はシカ非除去区に多く、シカの採食がゴール数を多くしていることが明らかとなった。ササタマバエの捕食寄生蜂2種のうちの1種はシカ非除去区で寄生率が高く、もう1種は逆にシカ除去区で高く、シカの影響を受けていた。シカ糞を蒔いた試験区と蒔かない試験区の間でゴール数に差はなく、ササの窒素含有量はササタマバエにほとんど影響しないと考えられた。

  • 目的 : ミヤコザサおよびシカ、ネズミの存在が樹木実生の菌根にどのように影響を与えているのか検討する。
  • 方法 : ササの被覆およびシカ、ネズミの侵入を調節した各実験区からウラジロモミ実生を採集し、地下部については外生菌根の形成率を、地上部については同化部および非同化部の乾燥重量や葉の病害の程度を計測した。
  • 成果 : ウラジロモミ実生の葉の病害には、2001年に見られたササおよびシカの影響は見られなかった。調査の全期間を通じて、このような影響が見られたのは2001年のみであり、この年の葉の病害の発生頻度は全体に他の年よりも高かった。このような葉の病害に対するササやシカの影響は病害の多いときのみに見られる現象である可能性がある。
    ウラジロモミ実生の菌根形成率はシカ、ネズミ、ササの影響を受けているとは言えず、地上部の形質で形成率に影響を及ぼしていると考えられるものもなかった。

ア.(ウ).2.b 希少雑種の遺伝的多様性と繁殖実態の解明

  • 目的 : シデコブシ集団の遺伝子流動と近交弱勢に関する研究 : 集団の遺伝変異とクローン構造の解析に取り組む。また、近交弱勢の大きさを推定するための調査・解析に取り組む。
  • 方法 : シデコブシ自生地内に設けた調査プロットにおいてSSRマーカーを用いて遺伝的変異とクローン構造を解析した。さらに胚段階に現れる近郊弱勢の大きさを推定するために人工受粉を行い、自家受粉が結果率や結実率に及ぼす影響を明らかにするとともに胚の生存率に現れる近交弱勢の大きさ等を推定した。
  • 成果 : SSRマーカーを用いてシデコブシの遺伝的変異を分析した結果、この樹木の遺伝的変異性はホオノキ集団のそれよりも低く、オオヤマレンゲ集団よりは高いことがあきらかとなった。さらにSSRマーカーでクローンの空間分布を解析した結果、萌芽と伏条の両方によりクローン構造が形成されていることがわかった。受粉実験の結果より、結果率、結実率で明らかな近交弱勢が認められ、種子生産量を減少させる大きな要因は自家受粉と花粉不足であることが示唆された。

イ.(ア).2.a 斜面系列における養分傾度と樹木の養分吸収・利用様式の解明

  • 目的 : ミズメの実生をもちい、個体間の地上部および地下部の競争がミズメ実生の成長に与える影響を明らかにする。
  • 方法 : 苗畑において生育したミズメ実生個体間にパーティション(塩ビ板の仕切り)を埋め込み地下部での競争を制御し、寒冷紗で光条件を制御して、各処理間で実生の成長を比較する。
  • 成果 : 直径成長の平均値では光とパーティションとの相互作用がみられた。一方、変動係数についてみるとパーティションありの区画で変動係数の値が大きくなった。

イ.(イ).3.a 水流出のモニタリングと全国森林流域の類型化

  • 目的 : 全国の森林理水試験地と同一手法によりデータベース化を図り、精度の高い流域水収支評価を行う。
  • 方法 : 竜の口山森林理水試験地において、高精度の水文データを収集するとともに、過去に収集したデータのデータベース化を行う。
  • 成果 : 内容 : 竜の口山森林理水試験地における2001年の降水量は1146.5mm、北谷の年流出量は334.4mm、南谷の年流出量は260.9mmであった。

イ.(イ).4.b 森林流域における窒素等の動態と収支の解明

  • 目的 : 淀川集水域の森林における栄養塩類の動態と収支を解明する。
  • 方法 : 志賀町の山地小流域における栄養塩類の収支を明らかにする。
  • 成果 : 志賀試験地における栄養塩類の収支は、窒素(N)は流入が多く、珪素、カルシウム(Ca)イオンは流出が多い傾向を示した。流出量はそれぞれ、3.1、154.1、33.1(kg ha-1)であった。

イ.(イ).6.b 湿雪なだれの危険度評価手法の開発

  • 目的 : 積雪の粘性圧縮モデルを湿雪なだれの危険度評価のための剪断強度評価モデルに応用する。
  • 方法 : 十日町試験地の積雪データを利用して粘性圧縮モデルの精度評価を行い、これに雪崩評価のための剪断強度モデルに当てはめた。
  • 成果 : 粘性圧縮モデルに融雪浸透水流下モデルを当てはめ、融雪流下水量と積雪密度の鉛直分布の推定を行い、積雪層内の積雪断面観測データとの比較を行った。さらに積雪下層からの推定流下量をライシメーター、熱収支法による融雪量、と比較し、その精度評価を行った、その結果、推定流下量は各方法と比較して良好な関係が得られた。これらのパラメタライゼーションによって得られた、積雪層の密度・含水率鉛直分布データを剪断モデルに適応した。

ウ.(ア).1.a 被害拡大危惧病虫害の実態解明と被害対策技術の開発

  • 目的 : 常緑ブナ科の種子(堅果)の死亡要因は散布後の虫害による割合が高いことが知られている。散布前加害昆虫については堅果数に対し、密度逆依存に昆虫の加害が生じることが知られている。散布後の加害でもこれが生じるかを調べる。
  • 方法 : 常緑広葉樹林内の12本のマテバシイの樹冠下に70×70cm(約0.5m2)のコドラートを4つずつ設け、2002年5/9、5/29、7/16、11/16にそれぞれ4つのコドラートのうちのひとつで前年(5/9、5/29、7/16分)または当年(11/16分)散布された堅果を採集し、虫害を調べた。
  • 成果 : ドングリキクイムシの堅果あたり穿入孔数は5/9、5/29、7/16においては堅果数と密度逆依存の関係、発芽率とは正の相関関係があった。この結果、散布後も密度逆依存な関係が存在するが、発芽により子葉が露出した部分から侵入する個体が多く、発芽率とも関係が生じたと考えられた。11/16についてはリター層乾重と正の相関関係があった。この時期は発芽した堅果はなく、リター層が厚い場所にある湿った堅果の方が果皮を穿つのが容易であったことでこの関係が生じたと考えられた。5/9、5/29、7/16には、他にガ類とケシキスイ類の加害があったが、これらのほとんどは発芽部から侵入していたため、発芽率と正の相関関係があった。

  • 目的 : 病害発生情報の収集および解析を行う。
  • 方法 : 病害発生情報の収集および解析を行う。
  • 成果 : スギやヒノキ壮齢林でいくつか集団的な枯損が発生した。暗色枝枯病、溝腐病の感染、カミキリ類の侵入に伴う腐朽菌の感染により主幹部の通導が停止した例が多いことが確認された。その他の病害としては、スギの褐色葉枯病、黒粒葉枯病、黒点枝枯病、ヒノキの樹脂胴枯病、漏脂病、マンサクの葉枯れ、アカマツ・クロマツの葉ふるい病、サカキの輪紋葉枯病、シキミのウィルス病などであるが、重大な被害は無かった。

ウ.(ア).1.b 集団的萎凋病の対策技術の開発

  • 目的 : カシノナガキクイムシ(以下カシナガ)の集中攻撃の生態を解明する。今年度は、寄主からの臭いに対する反応、成虫が発する摩擦音の集合への影響、抗集合信号の発信について野外での捕獲調査を行う。
  • 方法 : (1)寄主からの臭いに対する反応 : 長さ90cmのコナラ丸太7・8本を投入した網室と空の網室へ飛来した虫の粘着トラップによる捕獲。林床に置いた長さ90cmのコナラ丸太入り網袋と塩ビパイプ入り網袋へ飛来した虫の粘着トラップによる捕獲。
    (2)成虫が発する摩擦音の集合への影響 : 鞘羽先端を取り除いて無音にした雄を穿入させた丸太と有音雄を穿入させた丸太へ飛来した虫の粘着トラップによる捕獲。
    (3)抗集合信号の発信 : 丸太に雄を穿入させ、途中約半数を雌と交尾させた区とまったく交尾させない区での飛来虫の粘着トラップによる捕獲。
  • 成果 : (1)寄主からの臭いに対する反応 : カシナガの捕獲に丸太区と空区または塩ビパイプ区の間で有意差はなく、寄主からの臭いに対する反応はあるとしても非常に弱いと考えられた。
    (2)成虫が発する摩擦音の集合への影響 : 無音区と有音区でほぼ同数の捕獲があり、有意差はなかった。このことから、少なくとも摩擦音なしでも集合が生じることが明らかとなった。
    (3)抗集合信号の発信 : 未交尾雄あたりの捕獲数(雌あり区でも約半数は未交尾)は雌あり区と雌なしでほぼ同数で有意差はなかったことから、交尾後に集合フェロモンをマスクするような抗集合信号は発信されないことが判明した。

  • 目的 : 感染木の水分通導阻害発生過程・病徴進展を解析する。
  • 方法 : 鉢植えのミズナラ苗に病原菌を接種し、定期的にMRIにより撮像して樹幹内水分分布の変化を検出した(岩手医科大学との共同研究)。解剖によって得られた病徴進展に関する知見と対比させて、MRIにより得られる情報を明らかにした。
  • 成果 : 健全木のMRIの像では、水分を含む部位は白く見える。縦断面では木部全体が白っぽく見え、横断面では道管群が識別できた。接種1週間後には一部の個体で、接種部の上下各1cmの範囲がやや暗く見えた。水分が減少しており、菌の分布とともに通導阻害が起こっているものと推測した。8週間の経過観察では、通導停止範囲は接種部位の上下各2.0cmまで拡大し、その部位は完全に暗く見えた。対照試料では、接種部をはさんで約5mmの範囲がやや暗かった。 T2強調画像では、水分が減少した部位が白く見えた。菌の影響による生成物の蓄積が画像で検出されることがわかった。

  • 目的 : Raffaelea quercivora を接種したミズナラの萎凋枯死過程における生理的変化および通水阻害発生過程を把握する。また、シイ・カシ類に対する R.quercivora の病原性について予備的に検討する。
  • 方法 : 関西支所構内の苗畑に植栽されたミズナラ苗木およびアカガシ苗木に対して、米糠フスマ培地で培養した R.quercivora 1菌株を接種した。対照としては、何の処理も行わない苗木、接種苗と同様の剥皮を行った苗木、接種苗と同様の剥皮を行い滅菌培地を接種した苗木の3種類を用いた。
  • 接種した苗木の外観上の変化を観察し、ミズナラ苗木については、光合成速度および蒸散速度、日中・夜明け前のシュートの木部圧ポテンシャルを測定した。
  • 成果 : ミズナラ、アカガシのいずれについても R.quercivora の接種による枯死は観察されなかった。蒸散速度およびシュートの木部圧ポテンシャルについては、R.quercivora 接種苗木と対照の苗木との間に明確な違いは認められなかった。

このことから、盛夏の R.quercivora 接種では、ミズナラ苗は枯死せず、また樹体の水分通導阻害の程度も比較的軽い状態にとどまる可能性が示唆された。アカガシに対する R.quercivora の病原性については、樹体組織の変化とも合わせて、今後もさらに検討する必要がある。

ウ.(ア).2.a マツノマダラカミキリ生存率制御技術の開発(→主要成果p.39)

  • 目的 : マツノマダラカミキリの天敵サビマダラオオホソカタムシのマツ枯損被害地での野外放飼試験を行い、寄生率を明らかにする。
  • 方法 : 滋賀県野洲町において、2001年に材線虫病で枯死したと思われるアカマツ15本を供試木とし、この内9本に2002年5月、ホソカタムシ成虫415個体を放飼した(放飼木)。残り4本を無放飼木、2本を対照区とし、これらすべてを6月上旬から7月中旬にかけて伐倒回収し、関西支所で剥皮割材した。
  • 成果 : 放飼木9本のすべてにおいてマダラカミキリ幼虫、蛹および成虫がホソカタムシの寄生を受けていた。寄生率は全体で47%(供試木ごとの最高68%、最低16%)であった。しかし供試木材内には死亡原因不明のマダラカミキリがとくに成虫の段階で数多く死亡しており、これらの一部が、寄生したホソカタムシが途中で死亡したことにより生じたものと考えると、寄生率は65%と推定された。放飼木から羽化したマダラカミキリ成虫は合計42個体で、生存率は23%であった。対照区におけるマダラカミキリの生存率は86%であったため、ホソカタムシ放飼によるマダラカミキリへの防除効果は認められたといえる。一方無放飼木材内におけるホソカタムシによる明らかな寄生は認められず、65個体のマダラカミキリ成虫が羽化し、生存率は72%であった。放飼木と無放飼木間の距離は1~28mであったが、もっとも放飼木に近い木では原因不明の死亡個体が56%を占め、この一部もホソカタムシの寄生を受けたのではないかと推定された。

ウ.(ア).2.c マツ抵抗性強化技術の開発

  • 目的 : 抵抗性マツ家系における線虫の行動追跡を行う。
  • 方法 : 抵抗性クロマツ5家系の1年生苗に、線虫(松島)を接種した。今年の供試家系は抵抗性グレードが高い家系として波方73(5)を加え(かっこ内の数値は育種センターによる抵抗性区分)、グレード2と3は昨年と異なる2家系を用いた。供試木は10日ごとに採取し、根と主幹中央部の線虫を計数した。線虫の移動と増殖の経過を40日間調査した。
  • 成果 : 抵抗性グレードが低い、あるいはやや低いとされている家系では、接種10日後にすでに線虫の組織内密度が100頭/g(試料の乾燥重量あたり)を越える個体があり、一部で萎凋症状が発現していた。 10日ごとの調査では、グレード1から4の家系で、線虫密度の高くなる個体が増加した。グレード5の家系では接種後40日を通じて線虫密度が100頭以上になる例は非常に少なく、病徴発現個体はわずかであった。グレード4の家系で、線虫増殖と症状発現が著しい例が見られた。採種園で自然授粉させているため、隣接個体の性質に影響されている可能性がある。

ウ.(ア).3.b スギ・ヒノキ等病害の病原体と被害発生機構の解明

  • 目的 : スギ・ヒノキ暗色枝枯病菌の特異的検出および種内グループを判別するための手法を開発する。
  • 方法 : 前年度までに決定した各菌株のDNA塩基配列データをもとに暗色枝枯病菌に特異的なPCRプライマーを構築した。種内グループを判別するためにPCR-RFLP法の適用を検討した。
  • 成果 : 各菌株のDNA塩基配列データを解析し、最も本菌に特異性が高くPCRプライマーとして適正な配列を選定した。本プライマーを用いて暗色枝枯病菌の菌株に対してPCRを行った結果、供試した全ての菌株でPCRによる増幅が認められた。一方、スギフォマ葉枯病菌の菌株に対して同様にPCRを行ったところ、増幅は認められなかった。

暗色枝枯病菌の2種類の種内グループを判定するため、得られたPCR産物に対するPCR-RFLP法の適用を検討した。選抜した2種類の制限酵素を用い、すでに塩基配列からグループが確定されている菌株に対してPCR-RFLP法を行った結果、供試した全ての菌株でグループを明瞭に判定することができた。

ウ.(ア).4.b サル・クマ等の行動・生態と被害実態の解明(→主要成果p.37)

  • 目的 : サルの加害群の行動域を明らかにし、行動域の環境を解析する。
  • 方法 : ラジオテレメトリー法と直接観察により滋賀県の2群の行動域利用を調査した。さらに、滋賀県より提供を受けた群れの行動域についてのデータと併せてGISにて植生の選択性についての解析を行った。
  • 成果 : 滋賀県の現存植生図(第5次環境保全基礎調査<1993~1998年度>)をGIS上で作成した上で、108群について3,246点の観察地点のデータを重ねた。植物群落毎の群れによる利用の選択性を、イブレフの選択係数を用いて検討したところ、耕作地を除けば、クヌギ-コナラ群集、ススキ群団、竹林、休耕畑地雑草群落、ヤマツツジ-アカマツ群集の順で選択性が高かった。現存植生図の群落は土地に加えられた人為の影響の度合い(自然度)が低い方から高いほうに1から10の段階に区分されており、行動域の中には自然度が9や8の群落も含まれていたが、選択性が高かったこれらの群落の自然度は4~7と中程度であった。今後、このような選択性が群落の特長によるものなのか耕作地から近いなど立地によるものなのか明らかにする必要がある。

  • 目的 : クマの頭骨収集、齢査定を行い、出没地域の特性解析のためのデータを整備する。
  • 方法 : 中国地方、近畿地方の被害発生地域において駆除個体の頭骨資料を収集、クリーニングの上、齢査定を行った。京都府のデータについてGISデータベース化し植生など生息地条件との関連を検討する準備をした。
  • 成果 : これまでの研究から京都府では由良川を境に、クマが遺伝的分化していることが強く示されているが、この川の東西における捕獲個体(1991年度から2001年度の駆除個体)の性・年齢における特徴を検討した。性比(メス : オス)はいずれの側でも1 : 1.2であった。また、由良川東側におけるオスの年齢は4.2±3.1才、メスの年齢は6.8±5.4才、西岸におけるオスの年齢は5.8±4.1才、メスの年齢は7.4±4.4才であった。同性で川の両岸の捕獲個体の年齢を比較すると有意差はなかったが、両性をあわせて両岸の年齢を比較すると東岸の方が若齢個体が捕獲される傾向が認められた(U=4223、p<0.05)。

ウ.(イ).1.b 森林火災の発生機構と防火帯機能の解明

  • 目的 : 林野に自生する林木葉の含水率の変化を調べ、防火帯に適した樹種を選定する。
  • 方法 : ウィルトロニクス社製携帯型含水量計測器ME2000のキャリブレーションを行うとともに、この機器を用いて山城試験地に自生する樹木葉の含水率変化を調べる。
  • 成果 : 内容 : 試験地内で常緑広葉樹13種、落葉広葉樹26種、草本植物(ササを含む)3種の生葉を採取し、含水率を調べた。その結果、アオハダ、リョウブ、タカノツメ等の含水率が高いことがわかった。

エ.(イ).2.a 持続的な森林管理に向けた森林情報解析技術の開発

  • 目的 : 近年、持続可能な森林経営の重要性が述べられている。持続可能な森林経営を推進するには、森林の様々な側面の状態を科学的に測定して評価することが必要とされている。そこで日本の森林資源の状態を表すいくつかの指標値の算出ならびにその評価を行う。
  • 方法 : 本年度、滝谷収穫試験地において胸高直径ならびに樹高等の毎木調査を行い、その林分構造を解析した。
  • 成果 : 滝谷収穫試験地は普通間伐区、上層間伐区、ナスビ伐区に区分されている。この区画の中で、特に、この地域の森林と同様の施業が実施されている普通間伐区について解析をすすめた。普通間伐区の樹種はスギで、調査時における林齢は103年生であった。残存調査木の本数密度は384本/ha、平均胸高直径は39.9cm、平均樹高は25.3mであった。幹材積の純成長率は1.14%であり、林齢100年生を超えても成長していることが明らかになった。

オ.(ア).1.c 国際的基準に基づいた生物多様性及び森林の健全性評価手法の開発

  • 目的 : 森林の健全性を評価する技術について検討する。 方法 : 関西地域では集団枯損や梢端枯れが増加傾向にある理由について検討した。カナダ、オーストラリア、米国などの研究者と共同で、生物多様性及び森林の健全性評価に関するシンポジウムを開いた。
  • 成果 : 共同で開いたシンポジウムにおいて、関西地域の針葉樹人工林では集団枯損や梢端枯れが増加傾向にあることと、その理由について報告した。

オ.(イ).1.a 酸性雨等の森林生態系への影響解析

  • 目的 : 関西地域の降雨および渓流のモニタリングを行い、降雨および渓流の水質の特徴を明らかにする。
  • 方法 : 関西支所、安祥寺国有林、山城試験地において、降雨、渓流水を定期的に採取し、水質の分析を行った。
  • 成果 : 本年は昨年に引き続き、少雨であった。降雨のpHおよびECはほぼ平年並みであった。渓流水質もこれまでと同様であった。

  • 目的 : 1.山城水文試験地、安祥寺山国有林内スギ林における降水、渓流水のモニタリングを継続する。
    2.窒素過剰およびアルミニウムの負荷がスギ苗根系に与える影響を調べる。
  • 方法 : 1.京都府山城町の山城水文試験地および京都市山科区の安祥寺山国有林において林外雨(降水)、渓流水を月に2回定期的に採取、分析をする。
    2.窒素過剰およびアルミニウム負荷条件におけるスギ苗の培養試験を行う。
  • 成果 : 培養溶液中の過剰な硝酸濃度に関係になく、1.0mMのアルミニウム負荷によりスギ苗の白根形態変化および養分濃度低下が認められた。2.8mMまでの硝酸濃度では、スギ苗の根系に負の影響は認められなかった。京都市山科区のスギ林における土壌溶液中の平均硝酸濃度がおよそ0.9mM程度であったことことから、このスギ林では硝酸過剰がスギ根系に影響を与える可能性は低いことが推察された。

オ.(イ).2.a 森林資源量及び生産力の全国評価

  • 目的 : 森林動態にともなう炭素固定能推定モデルについて、さらにモデルの検証を継続し、妥当性を高める。
  • 方法 : モデルの修正をおこない、妥当性を高めるようにした。
  • 成果 : 銀閣寺山国有林についてシミュレーションを実行したところ、純生産量の予測値は、およそ8~11t ha-1 yr-1の間の値であった。1993年~1999年の間の実際の対象林分の純生産速度は9t ha-1 yr-1程度と推定されたが、それと比較するとシミュレーションによる初期の予測値は同程度であると判断された。当該林分については、大径の落葉広葉樹の減少にともないおよそ100年後にはいったんCO2固定能が失われるものの、その後の常緑樹の蓄積の増加にともなってふたたびCO2固定能が回復することが予測された。高台寺山国有林については、当面は蓄積の増大によりCO2固定能が維持されるという予測が得られた。

オ.(イ).2.c 人為的森林活動及び森林バイオマスのポテンシャリティ評価

  • 目的 : 炭素排出量を削減する手段の一つとしてバイオマス・エネルギーの活用が期待されている。しかし、どの程度まで森林バイオマスが化石燃料起源のエネルギー代替に貢献できるか不明なため、早急にそのポテンシャリティを明らかにすることが望まれていた。そこでそのポテンシャリティを評価する。
  • 方法 : 近畿地方の典型的な里山と考えられる滋賀県志賀町八屋戸地区を対象として1/25,000地形図ならびに航空写真を利用して森林資源の判読を行った。この判読結果に、森林簿や森林計画図からの人工林位置情報、齢級構成情報を組み合わせ、現在の森林資源分布を解析した。
  • 成果 : 当地区では標高80m~1,100mで森林資源が分布していることが明らかになった。その資源構成をみてみると、クロマツなどの湖岸植生、シイ・タブからなる杜寺林、スギやヒノキの人工林、広葉樹林、針広混交林等となっていた。高標高の部分では針葉樹の幼齢人工林が広がっていた。町を縦貫する湖西道路を過ぎたあたりから、森林の占める割合が高くなり、新興住宅地は里山林の中や隣接地に位置していた。特に里山林においては、針葉樹林と広葉樹林が混在する中、様々な林齢の人工林が幅広い標高域にまとまって分布するなど、都市化、人工林化の影響を受けたと考えられる植生分布がみられた。

オ.(イ).2.d 森林生態系における炭素固定能の変動機構の解明

  • 目的 : 乱流変動法よる観測を引き続き行い、観測結果やモデル計算などから潜熱・顕熱フラックス、CO2フラックスの経年変化を明らかにする。
  • 方法 : 潜熱・顕熱フラックス、CO2フラックスを乱流変動法によって観測を行った。また潜熱・顕熱フラックスとCO2フラックスをアウトプットとする多層モデルを構築し、乱流変動観測の結果と比較を行った。
  • 成果 : クローズドパス方式で測定した水蒸気および二酸化炭素の濃度変動についてはタイムラグの補正を行い、風向については風速の水平成分と鉛直成分からなる平面において座標系を回転し時間平均の吹き上げ角が0になるよう補正を施した。 一方、熱収支とCO2フラックスをアウトプットとする多層モデルを構築し、乱流変動観測の結果と比較を行った。土壌呼吸-温度の関係および葉呼吸-温度の関係、および個葉ガス交換モデルを含む多層モデルによる見積もりと較べると、CO2の乱流フラックス観測値は夜間の放出がかなり小さく、この違いが、純吸収量の過大評価の主な原因の一つとなっていると考えられる。

オ.(イ).2.e 多様な森林構造におけるCO2固定量の定量化

  • 目的 : 京都府山城試験地で、複雑地形下における乱流変動法によるCO2フラックス測定の妥当性の検討を行う。
  • 方法 : 乱流変動法によるCO2フラックスの測定と、チャンバー法による測定の相互比較による夜間呼吸量の精度評価。
  • 成果 : 山城試験地に設置した気象観測タワーを用いて、森林樹冠上におけるCO2交換量を連続測定することにより、落葉広葉樹2次林のCO2吸収量の定量化を行った。CO2吸収量は平均11.7t/haであるという結果が得られた。しかしこの観測結果に関しては安定度の高い夜間に関しては呼吸量が良好に測定されていない可能性があるため、土壌呼吸と葉面交換量について、手動、自動チャンバーを用い、CO2フラックスの観測を行った。その結果、夜間の呼吸量については乱流変動法はチャンバー法と比較して平均して67%程度の低い値を示している可能性があることが求められた。

  • 目的 : 樹幹表面におけるCO2交換量の長期連続観測手法の開発。
  • 方法 : 自動幹チャンバーを開発し、樹体呼吸量の測定を行う。
  • 成果 : 山城試験地の尾根部ではコナラとソヨゴ成木の樹冠部に自動葉群チャンバーを設置して、葉面における二酸化炭素交換量の連続観測を行っている。しかし、樹体全体における二酸化炭素固定量を推定するには、樹体呼吸量と樹体表面積の測定が必要である。そこで、当年度はプログラマブルリレーで電磁弁とポンプを制御し、樹冠表面に固定した幹チャンバー内の二酸化炭素濃度変化を測定するシステムを開発し、その設置を行った。このシステムは、コナラとソヨゴの樹幹における呼吸量を30分間隔でチャンバー内気温とともに測定するものである。今後、気温と呼吸量の関係の季節変化について解析を行う予定である。

オ.(イ).2.g 森林土壌における有機物の蓄積及び変動過程の解明

  • 目的 : A0層から発生する溶存および粒子状有機物の発生量およびそれらの土壌への蓄積過程を解明する。
  • 方法 : 室内実験から作成した溶存有機物の発生予測式を用いて、野外における溶存有機物発生予測を行った。
  • 成果 : 丹後半島のブナ林土壌では予測を実測がほぼ一致したが、京都市北部の落葉広葉樹林では過大評価となった。後者では土壌の乾燥が影響した可能性が考えられた。

オ.(イ).3.b-2 寒温帯植生の積雪変動に対する脆弱性評価に関する研究

  • 目的 : 温暖化が日本の積雪環境に与える影響を評価するためのモデリングと特に山岳域における推定精度の評価と補正パラメーターの決定。
  • 方法 : アメダスデータとGCMモデルの結果を用いて3次メッシュでの積雪変動の予測と実測データの比較による、山岳積雪量の推定値精度評価。
  • 成果 : 地球温暖化に伴う日本の積雪量の変動を推定するために、アメダスの降水量・気温・自動積雪深データを用いて1980年から2001年までの任意の位置における任意の時間の積雪水量を推定するモデルの開発を行った。しかし用いるアメダスデータが主に平野部に集中しているため、山岳域の推定精度に関しては、地域によっては大きな誤差が生じていることが考えられた。そこで、推定モデルに対して、大きな誤差が予想される富山県、新潟県、山形県の日本海側から内陸にかけての実測値を評価対象として、その誤差評価を行った。

カ.(ア).1.a 各種林型誘導のための林冠制御による成長予測技術の開発

  • 目的 : 長伐期スギ林の林分構造を把握する。
  • 方法 : 奈良県吉野地方の、スギ高齢林分において林分構造を調査した。
  • 成果 : 林齢が230年生前後で胸高直径が110cm、樹高が50m前後の個体までは、毎年樹高成長することが確認できた。

カ.(ウ).1.b 林業・生産システムの類型化と多面的評価手法の開発

  • 目的 : 効率的な間伐を推進するための収穫予測技術を開発する。また、列状間伐を対象とした収穫予測手法について検討する。
  • 方法 : システム収穫表LYCSを実用的なものに改良する。これまでの収穫予測は一様な間伐を想定しており、列状間伐は想定しなかった。これは、列状間伐では間伐列の位置により残存木の密度環境が異なることから、林内の密度環境を均一と仮定している従来の収穫予測手法では対応不可能であるためである。そこで、単木モデルと林分モデルの中間に位置するブロックモデルを考案し、シミュレーション実験を行った。これは林分を密度環境変化に応じてブロック化し、それぞれのブロックごとにLYCSを用いて収穫予測を行い、それを足しあげて林分全体の収穫予測とするものである。
  • 成果 : QuickBasicで開発されたLYCSプログラムを、エクセルのマクロにコンバートし、一般のパソコンで利用可能するとともに、プログラムの改善を行った。また、これまで数件の地域・樹種に関するパラメータしか得られていなかったが、国有林収穫表(約15種類)をもとに、各地域・樹種のパラメータ導出を行った。 列状間伐シミュレーションの条件としては、3,000本/haで植栽された地位2等の秋田地方スギ林を対象に、20年生時に初回間伐として列状間伐を実施することを想定した。間伐列が1列の場合、間伐列に隣接した立木にとっての立木密度は2,000本/haに低下すると見なすことができる。この仮定に基づき、間伐後の直径成長率を間伐列に隣接した林木とそうでない林木とに分けて予測した。間伐後の連年直径成長率は、間伐列に隣接した立木で3.59%、そうでない立木で3.40%となった。平均胸高直径で見ると、20年生時に11.0cmであったのが、30年生時には間伐列に隣接した立木で16.6cm、そうでない立木で14.9cmと予測された。

キ.(ア).1.a 都市近郊・里山林の生物多様性評価のための生物インベントリーの作成(→主要成果p.38)

  • 目的 : 里山林の優占種(コナラ属)の人為撹乱に対する応答反応を調べる。
  • 方法 : 琵琶湖湖西の志賀試験地において、落葉性のコナラ属の分布パターンの立地解析を行った。落葉性のコナラ属の初期成長パターンを比較するために、苗畑で育苗を開始した。
  • 成果 : 琵琶湖湖西の志賀試験地において、コナラ属各種は、高標高地のミズナラから低標高林縁部のナラガシワまで、立地に応じて配置された。従来河畔林要素と考えられてきたナラガシワは、林縁、水系、集落から近いところに数本~10数本の小集団を形成していたが、必ずしも河川沿いのみに限定されているわけではなかった。林縁部に多いことや林分内に被圧された個体が多く見られたことから、生存には開放的な環境を必要とすることが考えられた。

  • 目的 : 里山に典型的な広葉樹林における繁殖期の鳥類相を明らかにする。
  • 方法 : 志賀町のコナラとアベマキの優占する6haの落葉広葉樹林で、4月から7月まで鳥のセンサスを行なった。
  • 成果 : 33種の鳥が観察され、そのうち12種類、24つがい(シジュウカラ、ヤマガラ、メジロ、エナガ、アカハラ、ヒヨドリ、ウグイス、オオルリ、センダイムシクイ、キビタキ、コゲラ、ホオジロ)が繁殖するのが確認された。

  • 目的 : 都市近郊・里山林の生物多様性評価のための生物インベントリーを作成する。このうち昆虫について調査する。
  • 方法 : 滋賀県のマツ枯れあと地に形成された2カ所の二次林で調査を行った。1つは琵琶湖東岸の野洲町で、周囲に高い山がなく乾燥した場所、もうひとつは琵琶湖西岸の志賀町で、背後に標高1,000mを超える比良山系がある比較的湿潤場所とした。それぞれの場所にマレーズトラップを4器ずつ設置して、4~9月に捕獲した虫のうち、カミキリムシを同定した。
  • 成果 : 野洲町ではカミキリムシ24種106頭が捕獲され、前年と合わせて計33種となった。志賀町では22種76頭が捕獲され、合計32種となった。両地とも同様の多様性と捕獲数であったが、種構成は異なっていた。

  • 目的 : 分子生物学的手法による調査地プロット内の土壌微生物相の解析に着手する。
  • 方法 : 土壌から微生物由来のDNAを抽出し、電気泳動による多様性解析を行った。
  • 成果 : 土壌から微生物由来のDNAを抽出し、電気泳動による多様性解析を行い、解析の基礎データとなるバンドパターンを検出した。

  • 目的 : コナラ属樹木は、里山における最も重要な構成樹種の一つである。種子捕食者であり散布者でもある齧歯類とコナラ属樹木との相互作用を明らかにすることは、里山林の保全、および里山林における生物多様性の保全にとって重要な課題である。
    当年度の目標は、以下の2点である。
    a.堅果の散布過程における野ネズミの影響評価
    調査地としている滋賀県志賀町の森林には、4種のコナラ属樹木(コナラ、アベマキ、クヌギ、ナラガシワ)が分布するが、優先度合いや更新状況は地点地点で多様である。これらの多様な森林の成立過程に、野ネズミが与える影響の評価を試みる。当年度は、予備的に種子の持ち去り実験を行う。
    b.アカネズミにおける堅果中に含まれるタンニンによるanti-nutritional effectの回避機構の解明。
    担当者は、タンニンを高濃度で含む堅果は、堅果を常食するアカネズミにとっても潜在的に有毒であることを既に明らかにした。しかし、その一方で、野外ではアカネズミがミズナラ堅果を利用していることも事実であり、タンニンの回避機構が存在するものと考えられる。当年度は、馴化がタンニンによる負の効果の低減に果たす役割について検討する。
  • 方法 : a.志賀町の2地点に調査地を設定し、シャーマン式トラップを用いて標識再捕獲を行った。また、野ネズミによる堅果の利用様式を調べるために、コナラ、クヌギ、アベマキの堅果を各15個ずつ林床に設置し調査を行った。さらに、自動撮影装置を用いて堅果を利用する種を同定した。
    b.コントロールされた環境において、2群(馴化群と非馴化群)のアカネズミにミズナラの堅果のみを供餌し、堅果摂取によるインパクトの比較を行った。また、供餌実験と併せて、馴化のメカニズムとして重要と考えられる、タンニン結合性唾液タンパク質(PRPs)とタンニン分解性腸内細菌の検出・測定を行った。
  • 成果 : a.自動撮影の結果から、堅果の利用に訪れたのはアカネズミのみであると判断した。コナラ堅果はほとんど利用されず、クヌギとアベマキ堅果が積極的に利用された。クヌギ、アベマキ堅果の利用には顕著な違いは認められず、ほぼ全てが運搬利用されていた。運搬距離は、コナラよりもアベマキ、クヌギの方が有意に長いことが判明した。これらの結果から、三種の堅果が同時に存在する状況では、アカネズミは、アベマキ・クヌギの散布には寄与するが、コナラの更新に影響する可能性が低いことが示唆された。
    b.供餌実験の結果、馴化群の死亡は12頭中1頭であったのに対し、非馴化群は14頭中8頭と高率であった。堅果供餌開始から5日間での体重減少は、馴化群では2.5%だったのに対し、非馴化群では17.9%であった。以上の結果から、馴化によって堅果タンニンの負の効果がほぼ回避可能であることが判明した。
    アカネズミの糞便中から、タンナーゼ(タンニン分解酵素)産生細菌が2タイプ検出され、1つはStreptococcus gallolyticus (連鎖球菌の一種)であると同定された。また、アカネズミはPRPsを唾液中に分泌することが確認された。これら二つの生理学的特徴が、タンニンによる負の効果の回避に重要な役割を果たしているものと考えられる。

  • 目的 : マツ樹皮下穿孔虫の捕食寄生者であるキタコマユバチは、雌成虫に異なるサイズの寄主を同時に与えた場合、大きいサイズの寄主に雌卵(受精卵)を多く配分することが明らかにされているが、大小の寄主を1個体ずつ交互に与えた場合の性比がどのようになるかを解明するための実験を行う。
  • 方法 : 透明スチロールケースの底とアカマツ枯死木の樹皮の間に寄主(サビカミキリ幼虫)を挟んで固定し、ケースの中にキタコマユバチ雌成虫1個体を放って産卵させた。寄主は1日1個体与え、雌1個体につき30日間、以下の2通りの実験を行った。(1)サイズ小(生重30~50mg)とサイズ大(70~120mg)の寄主を交互に与える。(2)30~120mgの寄主をランダムに与える。産下卵は実験室内で成虫まで飼育し、次世代の性比を調べた。
  • 成果 : 大小の寄主を交互に1個体ずつ与えた場合の、各寄主サイズにおける次世代性比を雌10個体について調べた。どの雌個体においても小さな寄主における次世代性比は大きな寄主におけるよりも高く、5個体では有意差が認められた。一方様々なサイズの寄主をランダムに与える実験を雌8個体について行った結果、性比は0から0.9の間でばらつき、雌個体による差が大きかった。全体の性比は0.34であった。以上のことから、キタコマユバチは異なるサイズの寄主を同時に与えた場合のみでなく、1個体ずつ与えた場合でも寄主サイズに応じた性比配分を行い、それは直前に産卵した寄主との相対的なサイズ比較によるものと考えられる。

キ.(ア).1.b 人と環境の相互作用としてとらえた里山ランドスケープ形成システムの解明(→主要成果p.31)

  • 目的 : 里山林のランドスケープ構造・群落構造の現状を解析する。
  • 方法 : 琵琶湖湖西の志賀共同試験地において、45ヶ所の調査地(0.04ha)の低木層(1~5m)およ び林床層(0~1m)の植生調査を行い、類型化とランドスケープレベルでの分布パターンの 解析を行った。
  • 成果 : 低木層および林床層の植生を、各構成種の被度の比により類型化を行った。その結果、優占種によ り、それぞれ概ね4グループに区分できた。それぞれのグループのランドスケープレベルで の分布は、比良中腹から山麓へかけての立地の変化と、一定の対応を示した。林冠層と低木層の区分はほぼ対応したが、林床層の対応の度合いはやや低かった。解析した結果の一部を図に示す。アベマキ優占型林分において、低木層に常緑種が少ない傾向が見られた。このタイプの成立する場所においては、過去の撹乱が激しかった可能性がある。人工林内の低木層、林床層は、ともに様々なグループに分散したが、植生量の発達は非常に悪かった。

  • 目的 : 山城試験地における、樹種別の変化量を解析する。
  • 方法 : 山城試験地において胸高直径3cm以上の全木を対象に行った毎木調査の結果から、樹種別の個体数および胸高断面積合計量の増減を調べた。
  • 成果 : 5年間隔で行った2回の毎木調査結果から、山城試験地では、本数変化率ではヒメヤシャブシ(-52%)、ヤマウルシ(-51%)、アカメガシワ(-35%)、アカマツ(-32%)、ニセアカシア(-24%)などが大きく減少し、逆にネズミモチ(+46%)、アラカシ(+24%)、ヒイラギ(+20%)などの樹種が増加した。ネジキ(-3%)、コナラ(-2%)、リョウブ(+1%)、ソヨゴ(+1%)、マルバアオダモ(+5%)、コバノミツバツツジ(+6%)などは変化が少なかった。現存量の変化率では、ヤマウルシ(-40%)、ヒメヤシャブシ(-37%)、アカマツ(-26%)、ニセアカシア(-15%)、アカメガシワ(-7%)などが減少し、ネズミモチ(+81%)、アラカシ(+77%)、ヒイラギ(+59%)、ヤブツバキ(+59%)、コナラ(+39%)、アオハダ(+38%)などが増加していた。アセビ(-1%)、マルバアオダモ(-6%)、カスミザクラ(+6%)、リョウブ(+6%)、ソヨゴ(+8%)などは変化が少なかった。概して、パイオニアと考えられる種が大きく減少しているのに対し、常緑広葉樹は増加する傾向があった。現在、山城試験地の高木層優占種であるコナラは、本数では変化が少なかったが、胸高断面積は大きく増加していた。

  • 目的 : 里山落葉樹二次林の林床植物ミヤコアオイを対象に、遺伝的劣化の程度を規定する繁殖量に及ぼす上層木・立地の影響を調査すると共に、遺伝的劣化を把握するための遺伝マーカーの探索を行う。
  • 方法 : 琵琶湖湖西の滋賀共同試験地域に方形区を16ヶ所設定し、上層木と立地条件が開花量と繁殖形質に及ぼす影響を調べると共に、アイソザイムとISSRマーカーによる遺伝マーカーの探索を行った。
  • 成果 : ミヤコアオイの開花シュート密度は落葉樹林の方が針葉樹林よりも5倍高く、結実量と発芽率も落葉樹林の方が1.3倍大きな値を示した。里山における針葉樹人工林の増加がミヤコアオイ集団の断片化を促進していると考えられるが、針葉樹林内の低密度集団を介して落葉樹林集団間の遺伝子流動が生じている可能性がある。ミヤコアオイの繁殖形質は地域によっても異なり、結実量と発芽率は山地の方が扇状地よりも大きく、開花率では逆の傾向が認められた。アイソザイム17酵素種で予備的分析を行った結果、遺伝子型の判定可能な遺伝子座が11あり、7遺伝子座で多型が認められた。38種類のISSRプライマーを用いてPCR増幅を行った結果、10プライマーでDNA断片の増幅が認められた。

  • 目的 : 京都近郊の広葉樹二次林について、現存量や林分構造の実態について把握する。
  • 方法 : 銀閣寺山国有林試験地において毎木調査を実施し、現存量や林分構造の変化を検討した。実生調査を継続した。
  • 成果 : 毎木調査の結果では、常緑広葉樹の中では、クロバイとアラカシ、ソヨゴの3種の優占度が高かった。しかし、アラカシは本数・胸高断面積合計ともに増加したが、クロバイ・ソヨゴは本数では減少した。これは主に小径木が枯死し、それに見合う新規加入木がなかったためである。一方、アラカシは各階層で幹数の増加がみられた。その他、サカキ・ヒサカキでは多くの新規加入木がみられた。落葉広葉樹では、アオハダの優占度がもっとも高かった。加入数と枯死数は同じで、胸高断面積合計は増加した。新規加入は主に萌芽幹によるものであった。次いで、タカノツメの優占度が高かったが、2002年には本数・胸高断面積合計はともに減少した。

  • 目的 : 樹木の健全性低下に関わる要因を生理学的観点から抽出する。
  • 方法 : 集団枯損や突発的な枯損の見られる針葉樹林で、環境、気象、施業履歴、微生物感染、昆虫害の状況を調べ、枯損の原因について検討した。
  • 成果 : 枯損の目立つスギ・ヒノキ林では、暗色枝枯病菌の繰り返し感染や、カミキリ類の加害に伴う腐朽菌感染が確認された。感染部位では樹幹の水分通導が著しく減少しており、蒸散が活発な時期に枝葉への水分供給が不足して、枯死していた。菌の感染や虫害は枝打ちや間伐遅れによる高湿度で暗い林内環境で促進される。針葉樹林のいわゆる「衰退」は大気汚染や干ばつによるものとは限らず、生物的な要因で促進されることが示唆された。

  • 目的 : 地域住民が地域の森林景観に対してどのような評価構造を持っているのかを、都市住民との比較を通して明らかにする。
  • 方法 : 丹後半島の里山ブナ林を対象に、地域住民と都市住民による景観評価実験を行った。まずレパートリーグリッド法により、景観の物理的性質から生じる印象軸を明らかにした。次に視覚的な景観の評価構造と、ブナ林に対する継承意識(今後も大切に残したいという気持ち)との関係を重回帰分析を用いて明らかにした。
  • 成果 : レパートリーグリッド法による代表的な里山ブナ林の景観に対する印象軸の抽出から、林分構造など里山ブナ林の物理的な性質を示す印象軸では、地域住民と都市住民の違いはそれ程大きくないことが示された。一方、自然性や多様性など抽象的な印象軸や、平坦さや希少性など属地的な地域の情報が必要とされる印象軸の評価に差異があった。継承意識と里山ブナ林の景観評価との関係の解析からは、都市、地域住民双方において景観としての好ましさが継承意識にとって重要であった。また、地域住民では水土保全など生活環境の維持・向上のための機能や、身近さが継承意識に関わる重要な尺度となっていた。生物多様性については、都市住民では継承意識につながる重要な尺度とされていた一方、地域住民における重要度は低かった。

  • 目的 : 現代の里山系内における住民の環境認識を明らかにする一端として、里山管理活動を行っている団体の活動について事例調査を行う。
  • 方法 : 滋賀県志賀町の里山をフィールドとして管理活動を行っている団体Y会を対象に、里山の新たな利用方法と問題点について関係者から聞き取り調査を行った。
  • 成果 : Y会では志賀町内の民有里山林約0.5haを借りて里山管理活動を行っている。採集した柴はイベント時のたきぎや、周辺家庭の薪ストーブ用として利用され、また落ち葉とたきぎの灰は、同会が別に借りている畑に有機肥料として投入されている。その間の労働報酬と里山、畑から得られる作物の購入には、試験的に地域通貨を介在させている。さらに今年度からは里山からの柴を利用して、琵琶湖岸での粗朶消波工の設置に取り組み始めている。里山を地域内の循環的資源として多角的に利用する事例として注目に値する。

キ.(ア).1.c 都市近郊・里山林における環境特性の解明(→主要成果p.3436)

  • 目的 : 京都府山城町の山城試験地において、窒素酸化物等の汚濁物質の流入・流出量を調査する。
  • 方法 : 昨年度に引き続き、降雨、林内雨、樹幹流、土壌水および渓流水の定期サンプリングを行うとともに、本年は窒素の形態別割合、窒素の流入・流出量を明らかにした。
  • 成果 : 山城試験地の降雨中の窒素はアンモニア態窒素と硝酸態窒素が大半を占め、有機態窒素は13%と少なかった。渓流水中の窒素はほとんどが無機態窒素であり、有機態窒素はきわめてわずかであった。窒素流入量は5.5 kgN ha-1 yr-1(2001年9月~2002年8月)、窒素流出量は4.1kgN ha-1 yr-1であった。

  • 目的 : 自動測定システムにより土壌呼吸の時間変動デ-タを蓄積する。流域レベルでの空間変動について検討する。
  • 方法 : 林床面CO2フラックスの自動測定システムによる測定を常時行った。土壌呼吸測定の自動測定装置を設置し、連続観測デ-タの蓄積を行った。また、斜面部位別に4ヶ所(ソイルカラ-数 : 各24個)の土壌呼吸空間変動観測プロットを設営し、月に1~4回程度の観測を行った。
  • 成果 : 自動観測システムによる土壌呼吸の時間変動データの蓄積を行った。各プロットごとの平均土壌呼吸と観測期間中の平均地温(5cm深)、平均土壌含水率(5cm深)の50デ-タセットについてそれぞれの関係を調べたところ、土壌呼吸量と地温の間には指数関数関係が、土壌呼吸量と土壌含水率の間には対数関数関係が成立した。両者を組み合わせて土壌呼吸量の推定式を求めたところ、50のデ-タセット内における相対誤差はわずか2.6%であった。

  • 目的 : 関西地域の里山における環境負荷物質である窒素の流入・流出を調べる。
  • 方法 : 京都府山城町において降雨、林内雨、樹幹流、土壌水、渓流水を定期的に採取し、窒素酸化物等の汚濁物質の流入・流出量を調査した。
  • 成果 : 降雨中に含まれる窒素の大半はアンモニア態窒素と硝酸態窒素であり、両者を併せた窒素流入量(2001年9月~2002年8月)は5.7kgN ha-1 yr-1であった。一方、渓流水に含まれる窒素はほとんどが硝酸態窒素であり、平均濃度に流出水量を乗じて求めた窒素流出量は4.1kgN ha-1 yr-1であった。

  • 目的 : 葉面における年間CO2交換量の推定。
  • 方法 : 葉群チャンバーを設置し、葉面におけるCO2交換量の測定を行い、葉面積と光環境から群落総生産量の推定を行う。
  • 成果 : コナラとソヨゴ樹冠部に設置した葉群チャンバーの夏期と冬季の観測結果と、毎木調査や伐倒調査の結果から推定した落葉樹と常緑樹の葉面積指数から、門司-佐伯モデルで山城試験地における落葉樹と常緑樹の各総光合成量を推定した。その結果、群落総生産量は乾物量で28.34 t ha-1 yr-1で、落葉樹と常緑樹による内部分比は67 : 33であった。また、落葉期には年間総生産量の11%の総生産が行われていると推定された。積み上げ法と光合成法の結果から推定された純生産量に対する呼吸量の割合は60~63%で妥当な範囲であると考えられた。

キ.(ア).1.d 都市近郊・里山林の管理・利用実態の解明(→主要成果p.43)

  • 目的 : 都市近郊・里山林管理の実態および地方自治体の取り組みを把握する。それによって析出される都市近郊・里山林管理・利用に関する地域差の実態を明らかにする。
  • 方法 : 近畿地方管内2府5県(三重県・滋賀県・京都府・大阪府・兵庫県・奈良県・和歌山県)の全392市町村を対象として、「自治体における里山林保全の取り組み状況」に関するアンケート調査(郵送方式)を行った。
  • 成果 : 里山林の利用・保全に関する自治体独自の施策や条例の有無について、「ある」と回答した自治体は11%に過ぎない。80%はそのような施策を持っていないということである。里山ボランティア活動との関わりについて、全体では都市近郊地帯を中心に約3分の1の自治体が域内でボランティア活動を確認している。
    アンケート結果を通じて、人口密度が高い(人目が多いゆえに)里山の荒廃が目立つ都市部と人工林率が高く適度に人手が加えられているためにそれが目立たない過疎町村部との対比が際だった。人目の多さは大阪を中心とする里山林ボランティア活動とも直結しており、都市近郊の自治体においては里山林の保全・利用の取り組みに対してより積極的に取り組まざるを得ない状況がうかがえた。

  • 目的 : 滋賀県志賀町は、湖岸から標高1,000mを超える山頂までが一帯となった景観を呈し、さまざまな植生分布が見られるとともに、里山と結びついた長い歴史があり、特有の文化が培われてきた。本研究では、近畿地方における都市近郊の里山の一典型と考えられる滋賀県志賀町八屋戸地区を対象に、植生および土地利用の分布を空中写真によって面的に捉え、人と環境の相互作用の結果として生み出された今日の里山景観の特徴について分析する。
  • 方法 : 1/25,000地形図(国土地理院、1996年発行)、および1995年に撮影された約1/10,000の空中写真を用い、ステレオズームトランスファースコープによる空中写真判読を行った。また、2000年現在の森林簿、森林計画図による人工林の位置や林齢の確認を行うとともに現地踏査および地元住民に対する聞き取り調査を行った。空中写真判読結果は、GISデータとして取り込み、今日の植生分布の特徴を把握した。
  • 成果 : 滋賀県志賀町八屋戸地区では、琵琶湖湖岸から蓬莱山山預までの標高80m~1,100mに傾斜地が広がり、クロマツなどの湖岸植生、シイ・タブからなる杜寺林、集落周辺の水田・畑のほか、スギやヒノキの人工林、広葉樹林、針広混交林などで構成される。高標高の部分では針葉樹の幼齢人工林が広がっている。標高の低い部分には主に住宅地や田畑が存在する。町を縦貫する湖西道路を過ぎたあたりから、森林の占める割合が高くなり、新興住宅地は里山林の中や隣接地に位置する。このような植生分布は、立地とともに、土地利用や自然災害の歴史など様々な要因によって規定されたものと考えられる。今日、宅地や道路、観光施設などの人工物が里山林域に広がって散在し、回廊を形成する一方、耕作地は集落周辺や湖岸に限定されて分布している。また、里山林においては、針葉樹林と広葉樹林が混在する中、様々な林齢の人工林が幅広い標高域にまとまって分布するなど、都市化、人工林化の影響を強く受けた植生分布がみられた。

キ.(ア).2.c保健休養機能の高度発揮のための森林景観計画指針の策定(→主要成果p.4042)

  • 目的 : 嵐山の森林景観デザインの形成に大きな役割を果たしてきた「嵐山保勝会」を事例として、嵐山らしい森林景観や今後の課題などについて把握する。
  • 方法 : 「嵐山保勝会」の役員を中心に合計20名に対して聞き取り調査を行い、森林景観の維持・形成に関わる今日の嵐山保勝会の活動状況、嵐山らしい森林景観や今後の課題などを調査した。
  • 成果 : 嵐山保勝会の活動の意義として、「資金・機会・関心の確保」「森林景観に関する課題の明確化、意識化」があげられ、生活・生業上で嵐山らしい森林景観の重要性に対する認識を共有しつつ、住民参加による景観維持・形成のあり方を、具体的な活動として提示してきたことが明らかとなった。

  • 目的 : (1)林内での散策を対象として、良好と感じられる景観体験がどのような時間的分布で生起するのかを探ること。(2)森林レクリエーションサイトを訪れる利用者が、どのような動機づけと行動パターンを持った人々で構成されているかを明らかにする。
  • 方法 : (1)京都大学芦生演習林内の由良川本流に沿った2本のトレイルを対象地とし、一般来訪者に対してレンズ付きフィルムを配布して、散策の往路で良いと感じた風景を撮影し、その撮影時刻を記録するよう指示した。そして撮影の時間的分布状況を解析した。(2)同演習林の利用者を対象として質問紙調査を実施し、来訪の動機づけの構造を中心に、個人の属性、サイトでの行動、環境に対する評価、の4者間の関係を、多変量序列化手法であるCCA、およびクラスター分析を用いて検討した。
  • 成果 : (1)被験者の撮影行動の時間的分布パターンは、約半数がランダム分布であり、半数弱が集中分布であった。撮影行動は集中と弛緩を繰り返しながら、全体としてはほぼ一定のペース、ないしはペースを減衰しながら行われていた。ここから、レクリエーション利用者の景観評価の仕組みとして、周囲の環境との相互作用によって変動する景観意識レベルと実際の評価を行う段階とからなる概念モデルを提示した。(2)動機、属性、行動、評価といった複数の変数グループの関係が視覚化され、4種に分けられた利用者グループの特性について検討した。また、今後の利用形態管理に向けての調査方法論を示した。

サ.(イ).1.a 持続的な森林管理・経営の担い手育成及び施業集約・集団化条件の解明

  • 目的 : 昨年に引き続き、Iターン等による林業への就業希望者とそれを希望しながらも断念した者の属性および意識の違いを解明する。
  • 方法 : 京都府林業労働支援センターが毎年夏に行っている林業体験活動グリーンスカウト参加者に対して、就職に関する意識の聞き取り調査を行った。また、昨年度参加者のその後の就職活動状況についても後追い調査を行った。
  • 成果 : 林業体験活動の一つである京都府林業労働力支援センター主催の「グリーンスカウト」事業参加者(2001年度15名・2002年度15名)を対象に聴き取りおよびアンケート調査を行い、彼ら林業就業希望者の属性および意識を明らかにした。 「グリーンスカウト」参加者は近畿の都市圏出身者が多く、就業希望地も都市圏から比較的近い地域の森林組合を挙げるという特徴がある。しかし2001年度に関しては、京都府北部で就業を果たした4名のうち、3名を同地域の出身者が占めるという結果にいたり、都市圏出身者の不利な就職事情が明らかになった。2002年度に関しては京都府全体の求人数がほぼゼロという状況下、辛うじて3名のみが試験採用に至るという極めて厳しい状況となった。

シ.2.b 収穫試験地等固定試験地の調査(→研究資料p.45)

  • 目的 : 森林の成長に関する貴重なデータである収穫試験地等の固定試験地の調査を実施し、毎木調査データを収集する。
  • 方法 : 収穫試験地調査計画に基づき、六万山スギ収穫試験地の胸高直径ならびに樹高等の毎木調査を行う。
  • 成果 : 本試験地は、近畿中国森林管理局石川森林管理署管内に存在し、多雪地域のスギ人工林である。今回の調査における林齢は55年生である。残存木の林分平均胸高直径は33.7cm(標準偏差8.9cm)、同じく林分平均樹高23.4m(標準偏差4.7m)であった。林分の平均胸高直径に対する樹高の比である形状比は69.4であった。この形状比は雪害・風害に対する危険度の指標として有効であるといわれている。また、幹材積純成長率は4.46%であり、標準的な伐期齢を超えても成長を続けていると考えられる。