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更新日:2021年7月28日

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アカマツ保護林内での20年間にわたる枯損経過のモニタリング調査

令和3年7月28日

アカマツは材質に優れ、梁や桁といった横架材などの建築用材に利用されてきました。また、菌根菌と共生することでやせ地でも生育できるのが特徴で、焼き畑や落ち葉かきなどの人為的な影響で貧栄養化した土地にも生育できたために分布を広げてきた歴史があります。秋の味覚として有名な松茸もアカマツ林に特徴的に発生する菌根菌の一種です。このように私たちの生活に多くの恩恵を与えてくれるアカマツですが、近年は松くい虫(マツ材線虫病)による激害によって資源量が大幅に減少している現状にあります。マツを枯らす直接の病原体は体長1mm程度のマツノザイセンチュウという線虫で、これが特定の種類のカミキリムシ(マツノマダラカミキリ)に便乗して移動することで感染が拡大するという巧妙な共生関係があることが分かっています。マツ材線虫病に感染した個体の針葉は赤変し、やがて落葉することから外観で容易に判別できます。線虫が侵入したアカマツの材の中では、線虫が移動・増殖することによりマツの生理状態が急変し、そのアカマツ個体は最終的には枯死してしまいます。

国内で発生したマツ材線虫病の被害材積の年次推移は全体として減少傾向にありますが、高緯度地域や高標高地域ではこれまで被害を受けてこなかったアカマツ林への被害の拡大が続いています。林木育種センターでは、天然林の林分動態を把握するために様々な樹種を対象に長期モニタリングを行っていますが、そのうちの一つである福島県いわき市にある保護林(阿武隈高地生物群集保護林)の高樹齢のアカマツ天然林に設定したモニタリング試験地内においても(写真-1)、設定の翌年からマツ材線虫病の被害が発生しました。設定した2001年の時点で477本のアカマツがあり、2001年から2021年にかけて個体ごとの枯損の進行を詳細に記録してきました。すべての個体の位置座標を記録してありますので、配置図を頼りに試験地内を歩きまわって1個体ずつ生存確認をしました。被害が拡大するに伴って、枯損して横たわった倒木をまたいで移動する必要も出てきて調査はかなり難航しましたが、ほぼ毎年調査を継続してきました。2021年の時点で生存していた個体とそれまでに枯損した個体の立木位置図を図-1に示します。このようなデータが20年分蓄積していますので、試験地内でどのように枯損が広がっていったのかを視覚的に追跡することが可能です。

図-2に年ごとの枯損率を青の縦棒で、累積の枯損率を赤線で示します。年ごとの枯損率は2000年代は5%以下でしたが、2011年以降は10%前後の年が続いて被害が拡大しました。その後は枯損率は低下傾向となり、2021年の時点での累積枯損率は53%でした。2011年以降の枯損の増加は、本病を媒介するカミキリムシの防除のための薬剤散布を中止したことが原因と推測されます。

本試験地のように枯損の進行を長期間モニタリングし、時系列で空間的に把握した試験地は全国的にも少ないと思われるので、貴重なデータが得られていると考えられます。マツ材線虫病の被害対策のための林木育種分野の取組として、本病に対して抵抗性を持つ品種の開発が進められていますが、本試験地のような長期モニタリングデータについても、被害予測や防除技術の確立などに貢献できないか検討を進めたいと考えています。

 

写真-1阿武隈高地生物群集保護林の林内の様子

図-1.2021年時点のモニタリング試験地内の生存木(緑丸印)と枯損木(赤丸印)

図-2モニタリング試験地内のアカマツの枯損率の推移

 

写真-1 阿武隈高地生物群集保護林の林内の様子 図-1 2021年時点のモニタリング試験地内の生存木(緑丸印)と枯損木(赤丸印)の立木位置図

図-2 モニタリング試験地内のアカマツの枯損率の推移 年ごとの枯損率は前年の生存本数に対するその年の枯損本数の割合です。2010年のみ枯損調査を未実施であり、2011年の枯損率(※印)は2010年に枯損した本数も含んだ値です。

 

(遺伝資源部保存評価課)

アカマツ保護林内での20年間にわたる枯損経過のモニタリング調査(PDF:698KB)

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