更新日:2017年8月29日

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アカマツにおける地域固有の遺伝変異の評価

                                    
 那須仁弥
 国立研究開発法人 森林総合研究所 林木育種センター   

 東北育種場

⒈はじめに

  アカマツは、本州・四国・九州・朝鮮半島・中国東北部に広く分布し、建築材や燃料として利用されるほか、里山の景観を構成する重要な樹種です。全国のアカマツ林では、マツ枯れと呼ばれる「マツ材線虫病」による枯損被害が、九州・沖縄から東北地方北部にまで広がっています。さらに、マツ枯れを引きおこすマツノザイセンチュウやザイセンチュウの運び屋であるマツノマダラカミキリは、気温が上がると分布域が広がるため、温暖化が進むと、高海抜地やこれまで被害のなかった地域にまで、マツ枯れ被害が拡大することが予想されています。 このような枯損が進むと、各地のアカマツが長い年月をかけて蓄積してきた地域に固有の遺伝変異が喪失することにつながり、アカマツの遺伝資源に重大な影響を与えると懸念されます。アカマツ遺伝資源を保全するためには、「マツ材線虫病」の防除とともに、各地のアカマツを生息域外保存しておく必要があります。 

 2.産地試験による地域固有の遺伝変異の保存

  アカマツ遺伝資源を生息域外保存するため、全国62箇所のアカマツ天然林の遺伝的多様性の評価と各天然林の環境条件の違いから、偏りのないように10産地を選び(図-1)、種子を採取して、産地試験地の造成を進めています。産地試験地は、北海道、茨城、長野、岡山、熊本に造成する計画で、現在、それぞれの産地試験地造成予定地に隣接する苗畑で、試験材料の育成と各産地の発芽特性や成長パターンなどの調査を行っています。産地試験地では、環境の異なる様々な地域(産地)から材料を集めて、同一環境下に植栽することで、環境の影響を排除した地域固有の遺伝変異(産地間変異)を検出することができます。

 図-1 産地試験に用いたアカマツ天然林の位置

  nasu-zu1.gif

 

  ⒊ 苗畑で見られた発芽経過の産地間変異

  茨城、岡山、熊本において苗畑で蒔き付けから出芽本数の増加が頭打ちになる時期(出芽停止時期)について調査を行いました。出芽停止時期は、箱根から東の産地では早く、産地内のばらつきが小さい、西の産地では時期が遅く、産地内のばらつきが大きい傾向がありました(図-2)。今後、年間の成長パターンなどの調査結果とあわせて、苗畑におけるアカマツの初期成長の産地間変異の評価を進める予定です。 

 図-2 産地別の出芽停止時期

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お問い合わせ

所属課室:森林総合研究所林木育種センター遺伝資源部 

〒319-1301 茨城県日立市十王町伊師3809-1

Email:idensigen@ffpri.affrc.go.jp