更新日:2017年8月29日

ここから本文です。

フィンランドの林業と林木育種

                                    
 矢野慶介
 国立研究開発法人 森林総合研究所 林木育種センター   

 北海道育種場

1.はじめに

   林木育種センターでは、フィンランド自然資源研究所(Luke)とマツやトウヒを対象に共同研究を進めています。2015年5月にフィンランドにてセミナーを開催すると同時に、フィンランドの林業と林木育種の現状の視察に行って参りましたので、報告させていただきます。
 フィンランドは、面積が約34万平方キロ、人口が約533万人であり、日本と同じ面積に北海道と同じ程度の人が住んでいます。フィンランドと言えば、オーロラやトナカイ、サンタクロースなどのイメージが思い浮かぶとかと思いますが、フィンランドは先進国の中では有数の林業大国であり、パルプなどの林産業を含めるとGDPの約4%、林産物が輸出の約20%を占める一大産業となっています(図-2)。 

 

finzu1  

 図-1 フィンランドの位置図

finzu2

図-2 EU諸国におけるGDPに林業関連産業が占める割合。左端がフィンランド。(出典:フィンランド自然資源研究所HP)

 

2.フィンランドの林業 

   フィンランドにおける主要造林樹種はヨーロッパアカマツとヨーロッパトウヒであり、広葉樹としてシルバーバーチ(カンバ)も植栽されています。苗木のほとんどは、工場で生産されたコンテナ苗を利用しています(写真-1)。植え付け前にはモールダーと言われる機械で植え付け箇所(半径数十cm程度)を反転し鉱質土壌を露出させ、プランティングチューブを利用して植え付けます。今回見学した植え付け現場ではヨーロッパトウヒを植栽していましたが(写真-2)、熟練者は1日に1000本ほど植え付けできます。また、フィンランドは日本と比べると植生が貧弱であり、草刈りは2年ほどで終わるとのことです。3年前にフィンランドの研究者が来日された際には、ササなどに興味を示していましたが、実際にフィンランドに行くと日本と植生が大きく違うことを肌で感じることができました。また、母樹を残す傘伐や、機械による土壌の攪乱と種子の直播きを活かしたDirect Seedlingという簡易な更新方法も利用しており、樹木の更新が容易であることを活用した施業を行っています。
 今回の視察ではハーベスターによる伐採現場も見学する機会がありましたが、クローラータイプのハーベスターが主力であり(写真-3)、間伐の場合で1日100㎥程度、皆伐なら1日200㎥程度の伐採を行うとのことです。また、冬の方が雪に覆われて土壌を傷めないことなどから伐採に適しており、冬季には大型の投光器を用いて2交代制で作業を行います。
 皆伐の際には、最近日本でも大規模実験が行われている保残伐が行われており、ha当たり5本の樹木を残すことになっています。主に利用価値の低い木や枯損木を残し、虫の多様性を保全しているとの説明でしたが、その他の動物や菌類などにとっても重要なハビタットとなっていると考えられます。

 

finsya1 

写真-1 コンテナ苗の生産現場

 finsya2

写真-2 植栽されたヨーロッパトウヒ。下草が非常に少ない。

finsya3

写真-3 フィンランドでは主流のクローラタイプのハーベスター

 3.フィンランドの林木育種

 

  フィンランドでは、日本と同じく林木育種事業を推進する国の機関が設立されており、現在はフィンランド自然資源研究所(Luke)が推進しています。日本と同様にプラスツリー(精英樹)の選抜と検定、プラスツリーを用いた採種園の造成が進められており、主な対象は、ヨーロッパアカマツとヨーロッパトウヒ、シルバーバーチ(カンバ)の3種類です。育種種苗の普及率は約70%で、第1世代精英樹の種苗が40%、1.5世代精英樹の種苗が30%ほどとなっています(写真-4)。今回は南部のヘルシンキに比較的近いランリアイネンにある林木育種センターと、ロシア国境に近いプンカハリュ支所を見学し、人工交配による次世代化や原種の配布などについて話を伺うことができました。
 人工交配は日本と同じように不織布の交配袋を用い、高所作業車(写真-5)や交配用温室で進めています。現在第2世代同士での交配やその検定も進めており、交配用温室ではジベレリン処理も併用して着花促進も進めています。精英樹のクローン苗は接ぎ木で増殖しており(写真-7)、50cm以上に伸長した苗を原種として民間業者に販売し、採種園の造成を進めています。
  また、温暖化への対応に関する研究も進めており、温室での試験やラトビアなど他国の種子を用いた産地試験での研究も行っています(写真-8)。フィンランド国内では種苗の配布区域をゾーン1から6に分けていますが、他国産の種子はゾーン0と呼んでいます。現在の結果では、ラトビア産のマツが霜害に遭いやすい傾向が見られるが、今後気候が変動した際にはゾーン0の種子として導入する可能性もあるとのことです。
 フィンランドと日本の林木育種には共通する所も異なる所もありますが、北方針葉樹の着花などについては参考になることも多いと思われます。今後も共同研究を進めると共に、フィンランドで得た知見を北海道の林木育種に活用していきたいと思います。 
 

finsya4

 写真-4 ヨーロッパトウヒの採種園。今後遺伝的改良を兼ねた間伐を予定。 

finsya5 

 写真-5 高所作業車を用いた人工交配。コンパクトながら24mまで伸びる。 

finsya6 

 写真-6 樹冠の狭いヨーロッパトウヒ。このような突然変異個体も遺伝資源として保存している。

   

 

 

お問い合わせ

所属課室:森林総合研究所林木育種センター遺伝資源部 

〒319-1301 茨城県日立市十王町伊師3809-1

Email:idensigen@ffpri.affrc.go.jp