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更新日:2020年11月18日

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環境考古学を応用した永久凍土の炭素動態復元と温暖化影響の検証

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1.共同研究機関

カナダ国サスカチュワン大学、オーロラ研究所(Aurora Research Institute)、信州大学

2.研究期間

2017~2019年度 JSPS科研費

3.責任者

藤井 一至(立地環境研究領域)

4.研究の背景

近年注目を集めている気候変動の中でも、北極圏の温暖化は最も急速であり、北極の海氷が減少していることが確認されています。温暖化によって永久凍土の融解が起これば有機物分解が加速するとモデルによって予測されていますが、陸域生態系への温暖化影響については証拠が乏しいのが現状です。温暖化による凍土劣化の一つとしてクロトウヒが傾く「酔っ払いの森」現象が知られていますが、温暖化によるものなのか、凍土地形面に特有な凹凸によるものなのか判っていません。クロトウヒには地面の動きによって生じた木の傾きを戻そうとする性質があり、その活動が年輪に歪みとして記録されます。年輪を解析することによって凍土マウンドの発達過程や有機物蓄積過程を復元することで、「酔っ払いの森」の成因や温暖化影響を解明できる可能性があります。

5.研究の目的

本研究課題では、温暖化の進行の顕著なカナダ北西準州イヌビック近郊のクロトウヒ林を事例に、1)年輪を用いて過去200年間の凍土マウンドの発達速度を推定し、2)温暖化に伴う土壌炭素蓄積量の変動を予測することで、3)凍土の炭素貯留機能に対する温暖化影響を定量的に検証することを目的としました。

 

凍土マウンドの写真
凍土マウンド(イヌビック)

6.研究内容

カナダ北西準州イヌビック近郊のクロトウヒ林において年輪および土壌を採取し、地形の平坦地と凍土マウンドのある地形面で土壌中の有機炭素蓄積量を比較しました。また、凍土マウンドの周縁部に生育するクロトウヒの年輪解析によって、凍土マウンドの発達過程の復元に成功しました。

クロトウヒ林において採取した年輪の写真
マウンド上に生育するクロトウヒの年輪

7.得られた研究成果

凍土マウンドを持つ酔っ払いの森は、平坦な地形面よりも高い炭素貯留機能を有することを発見しました。また、凍土マウンドの発達そのものは100年ほどの温暖年に起こる現象でしたが、温暖化によってマウンド発達が加速することを発見しました。ただし、凍土マウンドの発達には浅い凍土面の存在が必要であり、長期的な温暖化は地形面を平坦にし、炭素貯留機能を低下させる可能性があることを解明しました。

リグニン染色したクロトウヒの年輪の写真
マウンド上に生育するクロトウヒの年輪(リグニン染色)

8.研究成果の利活用

北極域の温暖化に伴う陸域生態系、永久凍土への影響の一つが解明されることは、永久凍土の果たす炭素貯留機能の変動予測に貢献できる可能性があります。

9.研究論文

K. Fujii, Y. Matsuura, A. Osawa (2019) Effects of hummocky microrelief on organic carbon stocks of permafrost-affected soils in the forest-tundra of northwest Canada, Pedologist 63, 12-25

K. Fujii, K. Yasue, Y. Matsuura, A. Osawa (2020) Soil conditions required for reaction wood formation of drunken trees in a continuous permafrost region. Arctic, Antarctic, Alpine Research 52, 47-59

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