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更新日:2019年2月26日

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森林減少の影響を受けやすい住民の地理的分布を考慮した森林管理方策の検討

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1.共同研究機関

カンボジア王国森林局

2.研究期間

2016~2017年度 JSPS科研費

3.責任者

江原 誠(国際連携・気候変動研究拠点)

4.研究の背景

カンボジア・コンポントム州の森林は、住民の生計維持に不可欠な樹脂、薪、薬、食糧といった非木材林産物(NTFP)の供給源ですが、企業の大規模農園開発や住民の火入れ開墾農業等により減少しています。これによりNTFPを採取できなくなった住民の中には、今まで自身が行かなかった森林でこれを採取する、またはその森林を他用途に転用することにより生計の維持を試みます。これらの行為が他者のNTFP採取に必要な森林資源や森林そのものを奪うことになり、その結果、森林減少が止まらないという悪循環が短期間のうちに生じています。こうした悪循環を断ち切るには、森林減少の影響を既に受けた・今後受けやすい住民のために早急な救済・予防措置が必要ですが、そうした研究が不足しています。

5.研究の目的

本研究課題では、NTFP採取において、カンボジア王国・コンポントム州内東部の短期間の森林減少の影響を受けやすい住民のいる村の地理的分布を解明し、彼らのニーズを考慮した森林管理方策を提示することを目的としました。

6.研究内容

(1)NTFP採取において、上述の悪循環についての実態を把握し、森林減少の影響を受けやすい住民のニーズを考慮した森林管理方策を検討するために、DPSIRフレームワーク※を用いました。

※DPSIRフレームワーク(図1)とは、環境政策や研究において、生態系とその恵みを利用する人々との相互関係を描写するためのツールの一つです。同フレームワークの5つの構成要素(D、P、S、I、R)は、それぞれ、人間社会における問題の根本的原因(Driver、D);問題の直接的原因となる圧力(Pressure、P);圧力を受け変化する社会や生態の状態(State、S);それによって生じる影響(Impact、I);DPSIに対する社会側の対策や対応(Response、R)を意味する。生物多様性条約第10回締約国会議で合意された愛知目標の5つの戦略目標もこのDPSIRフレームワークの構成要素に準拠しています。

(2)2014年と2016年の二時期の森林分布図を重ね合わせて調査地(図2)の森林減少地点を把握し、村や行政上の森林利用区分を考慮した上で、世帯への訪問形式のNTFP採取・利用に関する質問紙調査を行いました(写真1)。この間に発生した森林減少により、NTFP採取による現金収入が減った、自家消費量が減ったなどの影響を受けた住民がいる村の特徴を一般化線形混合モデル(GLMM)で分析し、村ごとに、影響を受けた住民が居住している確率を予測する手法を開発しました。地域で代表的なNTFPである樹脂(写真2)の採取に着目し、樹脂とその他のNTFPの2つのGLMMモデルとしました。

図1.DPSIRフレームワーク

図2.調査地の位置(カンボジア・コンポントム州東部)

図1:DPSIRフレームワーク
出所:Smeets and Weterings(1999)

 

図2:調査地の位置
(カンボジア・コンポントム州東部)

 

 

世帯調査を行っている様子

写真1:世帯調査の様子

 

写真2:(左)仲介人のもとに集められた天然樹脂 写真2:(右)天然樹脂を採取している様子

写真2: 仲買人のもとに集められた天然樹脂

7.得られた研究成果

(1)カンボジア・コンポントム州東部の森林減少の影響を受けた住民がさらなる森林減少を助長するという連鎖の実態を、DPSIRフレームワークを用いて明らかにしました(図3)。そして、この森林減少の連鎖への主な解決策として、1)NTFPに生計を依存している住民が多い地域を特定する、2)同地域に配慮した土地利用計画を策定し、関連法の施行を強化する、3)同地域でのNTFPのマーケティングを強化する、4)NTFPに依存している住民を優先的に森林レンジャーとして雇用することを特定しました。

(2)過去に人為攪乱の程度が低く、樹脂を供給する樹木が比較的残っていた野生生物保護区に近い州の北東部では、樹脂とその他の非木材林産物を採取している世帯群が、村のそれぞれ半径20km圏内の択伐、10km圏内の森林減少の影響を受けやすかったことが明らかになりました。これらのNTFPの採取において、州内東部の3年の短期間の森林減少の影響を受けた世帯のいる確率が高い村の分布を解明しました。

図:カンボジア・プレイロング地域の森林減少を助長する仕組み
図3:カンボジア・プレイロング地域の森林減少・劣化の影響を受けた住民がさらに森林減少を助長する仕組み (図中の数字は作用の順序を示します。結果的に社会側は図のような対策と対応をとることになります)

8.研究成果の利活用

カンボジア政府の林野行政当局やNGOは、NTFP採取において、短期間の森林減少の影響を受けやすい住民のいる村への応急的な救済・予防措置を行政区界ごとに現場の実態に合わせ検討できるようになります。得られた手法は調査地以外での救済・予防措置を早急に必要とする地域の選定基準の開発にも活用できます。

9.研究論文

Makoto Ehara, Kimihiko Hyakumura, Ren'ya Sato, Kiyoshi Kurosawa, Kunio Araya, Heng Sokh, Ryo Kohsaka. 2018. Addressing Maladaptive Coping Strategies of Local Communities to Changes in Ecosystem Service Provisions Using the DPSIR Framework., Ecological Economics 149, 226-238., DOI:10.1016/j.ecolecon.2018.03.008

 

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