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更新日:2019年2月26日

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ケニア国「気候変動への適応のための乾燥地耐性育種プロジェクト」

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1.共同研究機関

ケニア森林研究所、ケニア森林公社、九州大学

2.研究期間

2012~2017年度(独)国際協力機構による技術協力プロジェクト

3.責任者

生方 正俊(林木育種センター遺伝資源部)

4.研究の背景

ケニア共和国は地球温暖化にともなう乾燥化が進み、国土の約80%が乾燥地・半乾燥地となっており、森林率も7%まで低下しています。近年人口増加が進む中、さらなる森林の減少が懸念されており、森林の回復が大きな課題となっています。そこで、乾燥地等での植林に適し成長も早い優良品種の開発と普及に係る技術協力を日本政府に要請し、国際協力機構(JICA)による「気候変動への適応のための乾燥地耐性育種プロジェクト」が2012年7月からスタートしました。日本側はケニア派遣長期専門家及び林木育種センターが主体となり、5年間のプロジェクトを実施しました。

5.研究の目的

本プロジェクトでは、ケニア森林研究所ほかと協力して、乾燥に強く成長等に優れたメリア(Melia volkensii)及びアカシア(Acacia tortilis)の選抜育種技術等を開発することを主な目的としています。目的樹種の遺伝的多様性や地域的な遺伝的分化等の調査・研究を行うとともに、選抜育種に必要な各種技術(選抜、増殖、採種園(林)造成・管理、次代検定等)を開発し、ケニア森林研究所研究員等にその技術移転を行います。

6.研究内容

本プロジェクトでは、1)優良候補木の選抜、2)候補木による採種園の造成、3)検定林の造成、さらに4)耐乾燥性等求められる育種特性に基づいた優良品種の選抜、という林木育種の基礎サイクルを基に研究を実施しています。ケニアの分布域全体から100個体のメリア優良候補木を選定し、2か所に採種園を造成するとともに、12個所の検定林を造成し成長量等の調査を実施しています。また、アカシアについても100個体の優良候補木を選抜し、2個所の採種林兼検定林を造成しています。さらに遺伝的多様性や地域的な遺伝的分化等に配慮した、地域住民にとって適切な種苗の生産・配布を行うための基礎情報を得ることを目的として、メリア、アカシアについてケニア国内に存在する母集団のDNA分析等を行いました。

7.得られた研究成果

メリア次代検定林の調査データを分析し成長等の評価を進め、植栽後18ヶ月後の調査結果では樹高で約1m以上の系統差が確認されました。また、メリア採種園の断幹・整枝選定作業及びアカシア実生採種林の育成管理方法の検討を行い、適切な管理手法の技術指導を行いました。また、耐乾燥性の強い個体選抜については、採種園等での降雨量、肥大成長、フェノロジー、光合成量等耐乾燥性基準の確定に向けた調査を実施し、成長速度の速いクローンは光合成速度が高く着葉期間も長いと考えられることが判明しました。
採種園や検定林など多くの施設を造成する必要があることから、さし木、接ぎ木などの増殖技術は極めて重要な育種技術であることから、専門の技術者を派遣しつぎ木手法や苗畑の管理方法を基礎から指導しました。
メリア及びアカシアの個体分布調査を行い位置・環境情報を統合したGISデータベースを構築しました。さらにケニアに分布するメリアのDNA解析による遺伝的多様性については、集団間に大きな違いがないことが明らかとなりましたが、ケニア北部、中部、南部で明瞭な遺伝的分化が明らかとなり、これらの結果を基に「ケニア乾燥地域におけるメリア及びアカシアの遺伝的多様性保全ガイドライン(英文)」を作成しました。

 

採種園と検定林等の位置を示した図



 

 

メリア検定林系統別樹高のグラフ

 

採種園、検定林等位置図
Tiva、Kibweziにメリア採種園、アカシア採種林、メリア検定林を設定、その他のサイトには検定林を設定


メリア検定林系統別樹高
植栽後18ヶ月後の検定林調査による樹高の系統別平均値には1m以上の系統間差

 

8.研究成果の利活用

プロジェクトで造成された2個所のメリア採種園からは種子生産も開始され、改良メリアとして地域住民へも配布されるなど、ケニアの森林造成に貢献するとともに、タンザニア、エチオピア等周辺諸国へも研修や国際セミナー等をつうじて開発した育種技術の普及が始まっています。

9.研究論文

Hanaoka So, Gabriel M Muturi, Atsushi Watanabe, Isolation and characterization of microsatellite markers of Melia volkensii Gurke. Conservation Genetics Resources, 4:395-398, 2012

Hanaoka So, Norio Nakawa, Norihisa Okubo, Stephen Frederick Omondi, Jason Kariuki, Seed pretreatment methods for improving germination of Acacia tortilis. African Journal of Biotechnology, 13(50): 4557-4561, 2014

Stephen Frederic Omondi, Joseph Machua, John Gicheru, So Hanaoka, Isolation and characterization of microsatellite markers for Acacia tortilis (Forsk.) Hayne. Conservation Genetics Resources, Volume 7, 529–531, 2015

Hisaya Miyashita, James K. Ndufa, Variation of wood density in the plus tree clones of Melia volkensii selected from drylands of Kenya, International Symposium on Wood Science and Technology 2015

Nellie Mugure Oduor, Hisaya Miyashita, Basic density in Melia volkensii, International Symposium on Wood Science and Technology 2015

花岡創, 大平峰子, 松下通也, Jason Kariuki, 東アフリカの有用樹種Melia volkensiiにおける根挿し増殖の成功条件. 第4回森林遺伝育種学会 講演要旨集 5, 2015

Hanaoka S, Ohira M, Matsushita M, Kariuki J, Optimizing the size of root cutting in Melia volkensii Gurke for improving clonal propagation and production of quality planting stock. African Journal of Biotechnology. 15: 1551-1558, 2016

 

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