森林総合研究所について > 国際連携 > 共同研究 > 熱帯林の劣化ステージに対応した土壌有機物の分解機構の解明
更新日:2019年2月26日
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カンボジア王国森林局、カンボジア王国環境省
2014~2017年度 JSPS科研費
鳥山 淳平(九州支所)
熱帯地域において土壌有機物は、元来貧弱な土壌の養分保持機能を強化し、透水・排水性を改善することで農林地における生産活動を支える、人間の生存基盤です。このため、急速に進行する森林減少と森林劣化が土壌有機物の分解速度に与える影響を把握し、土壌有機物の貯留量とその分解ポテンシャルを国レベルで推定することは、熱帯諸国の共通課題となっています。このためには、土壌有機物の骨格である土壌有機炭素のデータベースが不可欠となりますが、多くの国で、森林域のデータベースが不十分であるため、データに裏づけされた推定技術の開発が進んでいません。
本研究課題では、森林の減少と劣化の進む熱帯地域において、土壌有機物の貯留量とその分解ポテンシャルを国レベルで推定するための技術開発を行います。さらに、途上国の森林減少抑制のための国際的メカニズムであるREDDプラスを推進する観点から、現地調査から得たカンボジア国の森林域の土壌有機炭素のデータセットを公開します。
本研究課題ではカンボジア森林局とカンボジア環境省の協力を得て、二つの調査解析を実施しました。
(1)同一地点における土壌有機物の追跡調査
森林劣化の進むカンボジア中央部の10サイトにおいて、2010年、2014年の2時期に土壌試料を取得し、土壌有機物の減少速度を炭素量ベースで評価しました。10サイトのうち3サイトは調査期間中に森林からキャッサバ畑に転換されています。
(2)データセットを利用した土壌有機炭素貯留量の広域評価
カンボジア国の土壌有機炭素データを整備し、オープンデータとして公開しました。それを利用し、同国における土壌有機炭素の貯留量とその放出ポテンシャルの広域推定を行いました。
上記の研究内容に対応し、以下の成果を得ました。
(1)土壌有機物の貯留量の経年変化を評価したところ、キャッサバ転換サイトでも1-2%の減少(4年間、深さ0-30cm)に留まっていました。この減少速度は、同じカンボジアのゴム林転換サイトの減少速度(10年以内に40%減少)と比べて極めて小さく、減少速度の違いを生む要因として、土地利用形態の違いに加え、砂質、粘土質といった土壌の粒径組成の違いが関与していると考えられました。
(2)公開したデータはカンボジア国の森林66地点、土壌層位数309点です。この土壌有機炭素データと、植生、気象の空間情報および重回帰モデルを利用し、同国の森林域における土壌有機炭素の貯留量を広域推定しました。さらに本研究課題において整備した「森林の消失に伴い放出されやすい土壌有機炭素の貯留量の推定手法」を利用し、土壌有機炭素の放出ポテンシャルの広域推定を行いました。以上の土壌有機炭素の貯留量と放出ポテンシャルは、それぞれ土壌有機物の貯留量と分解ポテンシャルに読み替えることができます。
カンボジア森林域の土壌有機炭素の貯留量マップ |
2015年12月にフランスのパリで開催された第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)において、パリ協定を含むCOP決定が採択されました。同協定にはREDDプラスの促進を推奨する条項があり、本研究成果はこの条項に対応した取り組みです。また2017年12月に国連食糧農業機関(FAO)が、世界初となる全球土壌炭素図GSOCmapをリリースしました。本研究はこの国際的な取り組みに対応し、途上国における精度向上に利活用されます。
J. Toriyama, M. Hak, A. Imaya, K. Hirai, Y. Kiyono (2015) Effects of forest type and environmental factors on the soil organic carbon pool and its density fractions in a seasonally dry tropical forest. Forest Ecology and Management, 335:147-155.
J. Toriyama, A. Imaya, K. Hirai (2018) Dataset of soil carbon stock in Cambodian forests. Bulletin of FFPRI 17-2(446): 175-186. (Research record)(Open access by FFPRI, http://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/bulletin/446/446toc-en.html)
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