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更新日:2022年10月4日
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森林研究・整備機構は、森林・林業・木材産業分野が直面する課題に的確かつ効率的に対処するため研究開発を推進しています。
研究開発業務では、基礎研究から応用研究、現場への普及まで一元的に研究開発を行う我が国唯一の総合的な森林・林業の研究機関として、国の施策、林業関係者及び国民のニーズに応え、研究開発によって得られた成果を積極的に発信して、社会に貢献することを目指します。2021(令和3)年4月に開始された第5期中長期計画では、国の政策や社会的要請に対応し、成果の社会実装を一層推進すべく、以下の重点課題を実施します。
重点課題1「環境変動下での森林の多面的機能の発揮に向けた研究開発」
重点課題2「森林資源の活用による循環型社会の実現と山村振興に資する研究開発」
重点課題3「多様な森林の造成・保全と持続的資源利用に貢献する林木育種」
水源林造成業務では、水源涵養(かんよう)機能を強化し、土砂の流出・崩壊の防止、二酸化炭素の吸収による地球温暖化防止など、森林の有する公益的機能の持続的発揮に貢献します。
森林保険業務では、森林所有者が自然災害に備えるセーフティネット手段として、森林保険のサービスを提供します。
上記第5期中長期計画の概要にある業務、さらに、当機構組織として、ダイバーシティ推進にも取り組んでまいります。
下記のとおり、これらの業務や取組はいずれも、SDGsの達成に大きく貢献するものです。
業務・取組 | 概要 | 関係が深い目標 |
研究業務(重点課題1) | 環境変動下での森林の多面的機能の発揮に向けた研究開発を行います | ![]() |
研究業務(重点課題2) | 森林資源の活用による循環型社会の実現と山村振興に資する研究開発を行います | ![]() |
研究業務(重点課題3) | 多様な森林の造成・保全と持続的資源利用に貢献する林木育種を実施します | ![]() |
水源林造成業務 | 水源涵養(かんよう)機能を強化し、森林の有する公益的機能の持続的発揮に貢献します | ![]() |
森林保険業務 | 森林所有者が自然災害に備えるセーフティネット手段として、森林保険のサービスを提供します | ![]() |
ダイバーシティ推進 | 様々な職種の人々が多様で柔軟な働き方を実現し活躍できる組織作りをします | ![]() |
研究開発業務においては、森林・林業・木材産業及び林木育種に関わる総合的な研究開発を実施するため、次の3つの重点化した研究課題を設け、様々な課題に対し、戦略的に取組を進めています。
1 環境変動下での森林の多面的機能の発揮に向けた研究開発
2 森林資源の活用による循環型社会の実現と山村復興に資する研究開発
3 多様な森林の造成・保全と持続的資源利用に貢献する林木育種
森林の持つさまざまな機能が健全に発揮される森林管理技術を開発し、国内外の森林環境問題の解決や国土強靱化に貢献します。
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森林と農地の土壌炭素蓄積量の比較 | 森林管理が森林の生物多様性に及ぼす影響を多角的に調査 |
強風による森林気象害の研究(スギ林) |
木質資源と森林空間を持続的に利用しながら、川上から川下まで森林に関わる産業の一体的発展と山村復興に資する技術を開発し、安全・安心で豊かな循環型社会づくりに貢献します。
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森林内部をレーザーで可視化 | クビアカツヤカミキリの防除に関する研究 |
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実物大建築部材の性能評価 | 木質バイオマス資源の低コスト供給源として期待される「ヤナギ」の研究 |
これからの森林づくりと林業の持続的な発展に役立つ優良種苗の生産に貢献するための品種改良(林木育種)、林木の遺伝的な多様性を守るための技術開発等に取り組みます。
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成長に優れたエリートツリーの植栽試験 | 特定母樹や優良品種の原種苗木の生産・配布(都道府県等からの要望に応じて配布) |
森林総合研究所などの研究グループは、農地と農地に隣接し過去に森林に転換された場所をペアとして選定し、同じ土壌重量に含まれる土壌炭素量を比較しました。転換からの経過年数の異なる22組のペアで同じ土壌重量に含まれる土壌炭素量を比較したところ、森林になってから20年を経過すると、森林の方が農地よりも大きくなること、経過年数が長いほど森林の方がより大きくなることがわかりました(図8)。今回得られた結果を国家インベントリ報告※に反映することにより、農地から森林への転換による炭素量の変化を正しく評価することが可能になり、国家インベントリ報告の信頼性の向上に寄与できます。
※国が1年間に排出・吸収する温室効果ガスの量をとりまとめ、国連に提出する報告
図8 農地から森林へ転換された土壌の炭素量
<コラム>執筆者の声
全国の平均値では森林よりも農地の方が土壌炭素量は多いのですが、農地から森林になった場合は土壌炭素量が増えることが明らかになりました。つまり、「平均値」を比較して土地利用変化時の炭素量変化を推定することに問題があるということになります。また、このプロジェクトを通じて、多くの農村の高齢化問題と耕作放棄地を見ることになりましたが、こういった場所の有効活用はますます重要になってくると感じました。
森林総合研究所と関東学院大学らの研究グループは、森林の多様な生態系サービスを林相と林齢から評価するモデルを世界で初めて開発し、第二次大戦後の生態系サービスの変遷と、維持・向上方法を明らかにしました(図9)。世界的に人工林が地域の生態系サービスに及ぼす影響に関心が集まる中、日本国内では戦後造成された人工林が伐期を迎え、生態系サービスの低下を防ぎつつ、いかに森林を伐採し、木材を生産するかが大きな課題です。本研究では森林の10種類の生態系サービスを評価するモデルを茨城県北部を対象に開発しました。
図9 森林の10種類の生態系サービスと林相、林齢の関係
<コラム>執筆者の声
日本の国土の7割は森林です。この大事な公共財は私たちに多様な生態系サービス(多面的機能)を提供しています。果たしてそれぞれの生態系サービスは、森林の扱いかたによってどのように変化するのか?―森林総合研究所の大先輩で日本を代表する森林生態学者・藤森隆郎さんが20年前に投げかけたこの問い。その後に集められた国内のデータや知見に基づいて皆で挑みました。パンフレットでも紹介しています。是非ご覧になってください。
ケニアは乾燥地・半乾燥地が国土の約8割を占め、森林面積は5.9%(2018年)に過ぎません。国内総エネルギー供給の70%を薪炭材に依存し、森林資源への大きな圧力となっています。また、国内外で干ばつ等の影響を受けた地域からの農民の移入が森林資源の荒廃や土壌の劣化を加速させており、ケニアは気候変動の影響を最も受けやすい国の一つと考えられています。
気候変動の問題はケニアの国家発展計画において重要な課題とされ、砂漠化の抑制と生計の向上のため、半乾燥地及び乾燥地における商業樹種の開発が提言されています。また、森林率を2030年までに10%へ引き上げる目標を定め、政府は更にこれを2022年までに前倒しして達成するとしています。
ケニアに自生する高木のメリア(Melia volkensiiセンダン科センダン属)は乾燥に強くて成長が良く、マホガニーの代替になります。また、アカシア(Acacia tortillisマメ科アカシア属)は更に乾燥に強く、優れた飼料や木炭となることから、伐採圧力を緩和する有力な樹種と考えられ、その植林を推進すべく、育種改良の技術協力がJICA国際協力機構に要請され、林木育種センターでは2012年から10年にわたりこれに協力してきました。
このうちメリアについては、ケニア国内から幹がまっすぐで樹高が高い「精英樹」を全国から100個体選抜し、そのつぎ木クローンを「採種園」に植栽して、自然受粉で交配させました。実った種子から苗木を育成し、2015年にケニア国内8ヵ所に検定林を設定して植栽しました。採種園で種子がついていた各母樹(母親)ごとに解析し、樹高・直径・材積・幹の通直性・耐病性・着果性の6つの形質について母親からの遺伝率を推定すると、複数の形質において他の樹木種と同程度の遺伝率が推定され、十分に改良可能と判断されました。
植栽後5年目(2019年)には、検定林の樹高等のデータをもとに、採種園に植栽されている母樹の形質を評価しました(第1世代の育種価の推定)。その結果、特に種子生産性、苗木の初期成長、通直性の良い個体が明らかになり、2021年には形質の優劣を整理した「特性表」を作成し、下位の個体を採種園から除去し(採種園改良)、残る個体の間で交配させることによって子世代の幹の材積を17%向上させることができると推定しました(図10)。
一方、2018年には、検定林内の場所による成長の良し悪しへの影響を統計的に補正したうえで、検定林植栽個体の選抜を実施しました(第2世代)。その際、精英樹100個体のうち着果して検定林に植栽されたものは60~70系統であり、集団選抜の母集団としては小さいと言えます。その検定林から形質のみに着目して第2世代集団を選ぶと、形質の優れたごく少数の採種園個体の親を持つ家系のみが残り、次代以降での選抜効果が小さくなったり近親交配が起きるおそれがあります(日本のスギでは約3,900の精英樹から選ぶことでこれらを回避)。このため、今回は選抜効果を抑えてでもなるべく多様な母家系(幹材積や通直性の上位50母家系程度)からの個体が含まれるよう選抜を行いました。また、選ぶ際の形質は(1):材積、(2):幹の通直性、(2)同:健全性(病気に強い)、(3):着花/着果性の優先度で、なるべく上位であり且つ家系平均を下回らないことを条件としました。その結果、植栽個体のうち上位約10%程度をメリア第2世代系統として選抜しました(写真5)。
最終年度の2021年にはこれら成果をまとめるとともに、(1)検定林から選抜された第2世代個体のクローン苗木を作製し、新たな採種園を造成して次世代開発の基礎を作る、(2)精英樹系統を追加して遺伝的多様性を維持する、(3)採種園の改良を実行し、成長に優れた種子の生産・販売基盤を整える等を内容とする次期計画を作成し、2022年2月から新たな技術協力プロジェクトを開始しました。
本成果のメリア精英樹とその第2世代は、従来種苗より成長が早く、材質も優れると期待され、需要に種苗供給が追いつかず、海外資本の民間企業も強い関心を示すなど国際的評価も高まりつつあります。今後改良を進め、次世代メリアを生み出すことで、政府系機関や民間企業等による優良種苗の生産・利用を支援し、ケニアのみならず東アフリカの持続可能な森林経営の実現に貢献することが期待できます。
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図10 メリア採種園選抜の改良効果 | 写真5 メリア検定での第2世代選抜 |
<コラム>執筆者の声
前例のない樹種の育種改良は、試行錯誤の連続です。広葉樹の実績もクヌギやナラなどに限られています。このため、我々はまずケニア国内でのメリアの分布、遺伝的分化・集団構造の把握に始まり、形質の遺伝性の確認、採種園の造成、自然交配、検定林の造成・測定による採種園世代の評価と、ひとつひとつ段階を踏んできました。その上での第2世代選抜は大きな成果と考えていますが、なお、採種園での交配やその前提となる開花時期の傾向など、解明を要する点は多くあります。こうして開発している次世代メリアの系統が木材として流通するにはまだ10年以上を要しますが、造林の普及による森林率の向上はもとより、内装・家具・器具材の分野でマホガニー等の輸入天然材を代替し、伐採圧力の低減・緩和に役に立ってくれるものと期待しています。
洪水の緩和や水質の浄化に必要な森林の持つ水源涵養(かんよう)機能を確保するため、ダムの上流域などの水源涵養上重要な奥地水源地域の民有保安林のうち、土地所有者自身による森林整備が困難な箇所において、公的なセーフティネットとして水源を涵養するための森林を造成し、整備する事業を行っています(これを水源林造成事業といいます)。
水源林造成事業は、主に造林地所有者が土地を提供、造林者が植栽・保育を行い、森林整備センターが費用の負担と技術指導等を行うという分収造林契約方式により、協力して森林を造成しています。
【対象地】
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奥地水源地域の民有保安林で、無立木地、散生地、粗悪林相地等、人工植栽の方法により森林の造成を行う必要がある土地が対象となります。 |
【森林整備の過程】
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森林の機能が劣っている対象地に、既に存在する広葉樹等を活かしながら苗木を植え、雑草を刈り払い、生長して混み合ってきたら間伐します。 |
【未来に向けた森林づくり】
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広葉樹等を活かしながら長伐期の針広混交林を造成していきます。 |
群状又は帯状の育成複層林誘導伐※の実施により、複数の樹冠層からなる育成複層林を造成していきます。 |
※育成複層林に誘導するために必要な区域について、部分的に伐採を行うことをいいます。森林整備センターでは、育成複層林への誘導は、概ね同一の林齢で構成された森林で群状や帯状の伐採・植栽を数回に分けて行います。具体的には、一定の区域内に林齢、樹高等が異なる複数の小区画で構成される森林に誘導するものであり、伐採時期と伐採面積を分散させることにより、森林の持つ公益的機能の持続的な発揮が図られます。
1961(昭和36)年から開始された水源林造成事業では、これまでに、約49万ヘクタール(東京都と神奈川県の合計面積に相当)に及ぶ水源林を造成し、計画的に保育を実施しています(写真6、図11)。これにより、水源の涵養(かんよう)はもとより、土砂災害の防止、二酸化炭素の吸収、生物多様性の保全等森林の有する公益的機能の発揮を通じて、環境の保全に貢献してきました。
2021(令和3)年度においては、1,939ヘクタールの植栽などを実施しました。
写真6 池原ダム周辺の水源林造成事業地(奈良県吉野郡下北山村)
図11 水源林造成事業の契約地【2021(令和3)年度末】(※地図中の濃緑色の点の箇所が契約地)
これまでに整備された水源林は、全国の民有保安林約500万ヘクタールの約1割を占め、地域の人々の暮らしを支えています。
水源涵養(かんよう)効果
年間約30億立方メートルを貯水 |
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環境保全効果
(約172万世帯の年間消費電力の発電時に排出されるCO2量に相当) |
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山地保全効果
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その他の効果(貨幣換算できない効果)
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政府が策定した森林・林業基本計画において、水源林造成事業は「森林造成を計画的に行うとともに、既契約分については育成複層林等への誘導を進めていく。その際、当該契約地の周辺森林も合わせた面的な整備にも取り組む。」とされています。
森林整備センターでは、森林の水源涵養(かんよう)機能等の公益的機能を持続的かつ高度に発揮させるため、植栽や間伐等の森林整備を計画的に行うとともに、一定の区域内に樹齢や樹高等が異なった複数の樹冠層からなる森林を育成する施業(写真7)や、伐期を長期化し針広混交林を育成する施業(写真8)を推進しています。さらに、近年では、流域保全の取組を強化する観点から、既契約地周辺の手入れが不十分な育成途上の森林を対象とした面的な整備にも取り組んでいます。
以上のような水源林造成事業の取組により、森林による水の貯留・浄化機能や土砂の流出・崩壊防止機能の維持・向上を図り、良質かつ安定的な水の供給・洪水の緩和や土砂災害の防止に貢献するとともに、二酸化炭素の吸収や育成複層林・針広混交林等の多様な森林づくりを通じた生物多様性の保全等にも貢献してまいります。
写真7 育成複層林(茨城県久慈郡大子町)
写真8 長伐期針広混交林(秋田県大館市)
我が国では、2030(令和12)年度における森林吸収量の目標(2013年度総排出量比約2.7%)達成のため、間伐等を推進することとしています(写真9)。
森林整備センターにおいては、2021(令和3)年度に約24千ヘクタールの除間伐を実施し、森林吸収量の目標達成のために貢献するとともに、約49万ヘクタールの水源林全体では、年間約234万トンの二酸化炭素を吸収し、森林吸収量の確保に貢献しています。
また、近年、気候変動の影響による集中豪雨等が起こす自然災害が増加傾向にある中、無立木地等への人工植栽や、森林の成長に応じた適切な間伐等の実施を通じて、洪水の緩和や土砂災害の防止を図り、自然災害に対する強靱性(レジリエンス)や適応力の向上にも貢献しています。
写真9 間伐後の林内(熊本県人吉市)
業務の実施にあたっては、可能な限り地形、動植物、景観等への影響を緩和する必要があります。このため、路網の整備においては環境負荷の低い工法を採用し、主伐の実施においては伐採による公益的機能の一時的な低下を緩和させる小面積分散伐採を推進しています。
水源林造成事業においては、作業効率の向上や林業労働者の就労条件の改善等を図るため、作業道を開設しています。
開設にあたっては、急傾斜地を避けるよう努めるとともに、急傾斜地等で構造物が必要となる場合には、木材(丸太)を利用し、地形の改変量が少なく作業道の敷地としての潰れ地も小さい「丸太組工法」を採用することにより、環境負荷の低減に取り組んでいます(図12、写真10)。
森林整備センターでは、2021(令和3)年度に開設した485路線の作業道のうち、138路線で丸太組工法を採用しており、森林整備の過程で発生する間伐材等の木材の有効な利用を通じて、資源の持続的・循環的な利用に貢献しています。
図12 丸太組工法(のり留工)による作業道のイメージ
写真10 丸太組工法(のり留工)による作業道(福岡県筑上郡筑上町)
2008(平成20)年度以降の主伐については、伐採時期を分散させ伐採面積を小面積に分散させる「小面積分散伐採」を推進しています。これにより伐採による森林の持つ公益的機能の一時的な低下を緩和させています(図13)。
【新植時~約50年後】 【約50年後~約80年後】
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図13 小面積分散伐採による主伐のイメージ
<コラム>執筆者の声
森林整備センターは水源林造成業務実施によって整備された森林の公益的機能発揮を通じて、水源涵養(かんよう)はもとより洪水の緩和、土砂災害の防止、二酸化炭素の吸収、地球温暖化の防止、生物多様性の保全など持続可能な社会を実現しSDGsに貢献できるように取り組んでいます。森林の育成には長い年月を必要とすることから、常に火災や自然災害等の様々なリスクに直面しています。ひとたび災害に見舞われると、それまで多くの費用や労力をかけて造られた森林が一瞬にして失われるだけでなく、復旧には多額の費用がかかるため、林業経営の継続が困難になる恐れもあります。
また、森林の消失は、国土の保全や生物多様性の保全といった森林の有する多面的機能にも多大な影響を及ぼすこととなるため、被災地を速やかに森林へ再生していくことが重要です。
森林保険は、森林保険法に基づき、火災、気象災(風害、水害、雪害、干害、凍害、潮害)及び噴火災により発生した森林の損害をてん補する制度で、森林所有者自らが8つの災害に備える唯一のセーフティネットとなっています。森林保険は、被災による経済的損失を補てんすることによって林業経営の安定に貢献するとともに、被災地の早期復旧による森林の多面的機能の発揮に大きな役割を果たしています。
これらの役割を通じて、SDGsに定める「森林の持続可能な経営の実施を促進し、森林減少を阻止し、劣化した森林を回復し、世界全体で新規植林及び再植林を大幅に増加させる。」等のターゲットの達成や持続可能な社会の実現に貢献しています。
森林保険業務の実施にあたっては、被災した森林の早期復旧や林業経営の安定につなげるため、保険金の迅速な支払いや森林保険の加入促進等に取り組んでいます。
取組の結果、2021(令和3)年度においては、森林保険の契約件数約8万2千件、契約面積約57万1千ヘクタール、損害のてん補件数1,393件(507ヘクタール)、保険金支払額約3億7千万円となりました。
森林保険により損害をてん補した面積の推移
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【事例】火災(2020(令和2)年6月) 北海道 公有林 樹種・損害時林齢:カラマツ・10年生 実損面積/契約面積:1.10ヘクタール/5.74ヘクタール 支払保険金:1,026千円 (参考) ヘクタール当たり保険料/年:3,234円 付保率:80% |
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【事例】雪害(2020(令和2)年3月) 長野県 私有林 樹種・損害時林齢:スギ・57年生 実損面積/契約面積:0.43ヘクタール/1.38ヘクタール 支払保険金:956千円 (参考) ヘクタール当たり保険料/年:5,366円 付保率:100% |
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【事例】水害(2019(令和元)年10月) 神奈川県 公有林 樹種・損害時林齢:ヒノキ・27年生 実損面積/契約面積:0.59ヘクタール/7.95ヘクタール 支払保険金:705千円 (参考) ヘクタール当たり保険料/年:3,851円 付保率:40% |
森林保険は、林業経営の安定、被災地の早期復旧による森林の多面的機能の発揮に大きな役割を果たす制度です。
森林保険センターでは、「森林経営管理制度※」に基づいて市町村等が経営管理する森林については、特に自然災害リスクに対する備えが重要であり、森林保険の活用が同制度の適切な運用にも資するとの考えから、重点的に加入促進活動を推進しています。
2021(令和3年)度においては、都道府県や市町村等の担当者に対して、自然災害へのリスク対応や森林保険の必要性等を説明して森林保険の活用を促しました。これらの取組の成果として、49市町村における経営管理権集積計画に森林保険に加入できる旨が記載され、19市町、林業経営者3業者において森林保険に加入いただきました(2021(令和3年)年度末時点。森林保険センター調べ)。
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※森林経営管理制度:2019(平成31)年4月に施行された森林経営管理法に基づき、手入れの行き届いていない森林について、市町村が森林所有者からの委託を受けて経営管理できる制度。 | |
森林保険だより特別号「森林経営管理制度と森林保険」 |
森林保険センターでは安定的かつ効率的な資金の確保を図るため、独立行政法人通則法のもと、預金やリスクの低い地方債取得により、資金運用を行っています。
2021(令和3)年度においては、収益性に配慮しつつ、初めてグリーンボンドとして発行される地方債を取得しました(表4)。
グリーンボンドは、企業や地方自治体等が地球温暖化対策や再生可能エネルギーの導入促進等、環境改善に資するプロジェクトに要する資金を調達するために発行される債券で、近年、SDGs債の一つとして注目が高まっており、自治体による発行も増加しつつあります。
なお、グリーンボンドを取得した投資家は、その発行体のホームページ等に投資表明投資家として紹介されます。
森林保険センターでは、今後もグリーンボンドの取得を通じて、SDGs達成に貢献していきます。
表4 令和3年度に森林保険センターが取得したグリーンボンド一覧
発行時期 | 発行体 | 充当事業(対象プロジェクト) |
2021(令和3)年8月 | 川崎市 | ごみ焼却施設整備、本庁舎へのコージェネレーションシステム導入、洪水被害軽減のための放水路整備事業等 |
2021(令和3)年10月 | 東京都 | 都有施設への太陽光発電導入・照明のLED化、下水道整備による浸水対策等 |
2021(令和3)年11月 | 神奈川県 | 河川の緊急対応、遊水地や流路のボトルネック箇所等の整備、海岸保全施設等の整備、土砂災害防止施設の整備 |
2022(令和4)年1月 | 福岡市 | 博多区新庁舎整備事業、地下鉄営業線改良事業、雨水整備レインボープラン天神・雨水整備Do プラン2026 |
2022(令和4)年2月 | 三重県 | 林道の開設や森林・林業を担う人材育成のための拠点整備などの温室効果ガスの排出削減・吸収源対策、気候変動の影響の軽減対策 |
<コラム>執筆者の声
グリーンボンドは、利息収入を得るだけでなく、投資を通じて環境問題に貢献できます。引き続きグリーンボンドの取得を目指し、環境面から社会貢献につながる取組を進めていきたいと思います。
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