伐倒技術
オープンフェースノッチ
伐倒技術の変遷のファイルをもう一度見 てみます。スウェーデン林野庁(1983)の文献に新しい伐倒技術が掲載されました。原文「The Chainsaw –Use and Maintenance」が1980年に翻訳の合意を得たとの記述が有り、1980年より少し前にはこの伐倒技術が確立したと考えられます。角度の大きい 受口(オープンフェースノッチ)を用いた伐倒技術です。
Skogsarbeten(1984)に、オープンフェースノッチ作成の角度や寸法、追口高さやツル幅、ツル長さが記載され、現在国内で紹介されている「北欧スタイル」とほぼ同様の伐倒技術となります。
新しい伐倒技術(以下「北欧式」と記す)の特徴は角度の大きい受口と、追口高さの低さにあります。受口角度を大きくすると、伐倒木がより大きく傾く まで受口がふさがりません。受口がふさがるとツルが引き抜かれてちぎれるので、大きな角度の受口を設けるとツルの破壊を遅らせることができます。そのた め、ツルによる伐倒方向のコントロールが長く効き、より安全だと言えます。
では、追口高さが低いとどのような利点があるのでしょうか?
追口高さが低いと年輪の影響を受けにくいと言われています。確かに実際の伐倒では、年輪に沿って裂けることで予定したツル幅が確保できないことがあります。根張りの大きい木では年輪の傾きも大きいので、低い追口は判断ミスを防ぐためにも有効な面があると言えます。
しかし、追口が低くなるとツルの追口側から上方向へ裂けるリスクが高くなります (上村他:2009)。上方向の裂けが大きくなると下図のような「Barber chair」と呼ばれる危険な現象につながります。北欧式では「Barber chair」にならないよう、低い追口高さと広い受口角度の鋸断は必ず一緒に用いなければなりません。
さらに、Ard and Eriksson(2000)が、オープンフェースノッチと突っ込み切りを用いた追口作成方法を組み合わせることにより、必要十分なツルの幅を決めてから倒伏させる方法を確立し、より裂けるリスクは少なくなったと言えます。
オープンフェースノッチ、低い追口高さ、突っ込み切りを用いた追口の鋸断手順は3つが一緒になって最大の効果を発揮します。また、突っ込み切りを行 う場合には狙った位置に正確に、しかも水平に鋸断する必要があります。受口会合線より下に切り込んでしまうと裂けるリスクが高まってしまいます。
スウェーデン林野庁(1983)チェーンソー-使い方と点検整備.65pp,エレクトロラックス ジャパン,東京
Skogsarbeten (1984) Felling Manual. 28pp, Forskningsstiftelsen Skogsarbeten, Sweden.
上村巧・岡安崇史・鹿島潤・佐々木達也・岡勝・加利屋義広・井上英二(2009b)倒伏初期における追口高さが内部応力に与える影響. 森林利用学会誌24(1):11~18.
ARD, T. and ERIKSSON,S. (2000)Fell a tree with the open-notch-and-bore method. Grounds maintenance 35(7): 33-34