研究プロジェクトの概要
◎メコン中・下流域の森林生態系スーパー観測サイト構築とネットワーク化
−環境省研究プロジェクト 公害防止等試験研究費(2008-2011)−
- 背景
- 東南アジアでは森林の減少と劣化が続いており、生物多様性の維持や生態系保全が危惧される状態が各地で見られ、社会的に非常に大きな問題となっている。とりわけ、メコン川中・下流域の東北タイではすでに熱帯平地林が消失しており、アジア開発銀行の報告書によるとインドシナ半島のカンボジア平地林における生物多様性の重要性が非常に高まっている。しかしながら、過去の歴史的な背景から本地域での森林生態系情報の蓄積は皆無で、イドシナ半島においてはこのような空白域を重点的にカバーすることが極めて重要であり、統一的な森林生態系観測情報を提供する正確かつ堅固なシステムの開発が喫緊の課題となっている。
- 目的
- メコン中・下流域のデータ空白域である平地の熱帯季節林地帯を対象に、森林生態系観測サイトを整備・構築する。このサイトでの観測により、現地森林流域における森林生態系保全に関わる多くの特性を解明するとともに、森林環境データセットを作成する。加えて、衛星データ解析などのわが国の先進的な技術を適用して、土地利用変動の広域かつ迅速な把握により、モニタリングサイトを含む森林エリア情報の高度化をはかる。また、既存の生態系観測サイトのデータと連携し、長期継続的な森林生態系観測のためのアーカイブを作成する。
成果の概要
- 気象観測タワーを中心とする落葉林スーパー観測サイトに、4ha植生プロットを設置し、植生調査を完了した。併せて実施した微地形測量によりDEMを作成し、下層植生と微地形との間には明瞭な対応関係があることを確認した。これらに土壌型・土層厚等の立地環境情報を加え、広範囲にわたる落葉林のデータセットを作成した。このデータセットは、カンボジアばかりでなくインドシナ半島における熱帯季節林生態系の森林環境を総合的に解明していく上で、貴重な基礎資料となる。
- 落葉林および常緑林の地下水分環境をモニタリングする観測体制が構築された。両地域とも多くの井戸で地下水面が地表にまで到達する冠水状態が観測された。これらのソースエリアの拡大範囲は平地林においても微地形により規定されていることが明らかになった。これらの知見は、当地での物質循環研究やプロセスベースの流出モデルを構築する際の重要な知見となる。
- 平地熱帯季節林の水文特性を解明し、森林の取り扱いにおける重要なポイントを抽出した。常緑林流域では、乾季といえども雨季に劣らない蒸発散量が観測されたが、この蒸発散による潜熱は、常緑林周辺の高温・乾燥状態の緩和に寄与していると考えられるものである。したがって、常緑林の開発は流域周辺の生活環境や森林生態系は大きく劣化する可能性があり、伐採・更新においてこの点を十分配慮する必要があることを明らかにした。
- 常緑林流域における河川水の滞留時間特性を解明し、森林開発が水資源に及ぼす影響を予測するためには、土壌や風化基岩の特性に関する情報が必要であり、これらの情報からデータセットを作成することが重要であることを明確にした。
- 地域の健全な森林管理に資するため、常緑林流域と落葉林流域を対象に水文・気象データセットを作製した。このデータセットはさらに継続して蓄積することで、森林資源に対する人為影響や温暖化影響を解析することが可能になる。カンボジアはこの種のデータがきわめて少ない、いわゆるデータ空白域であることから、本研究におけるデータセット作成の意義は、極めて大きい。
- 落葉林はカンボジア国の森林面積の40%以上を占有しており、雨季・乾季を伴う熱帯アジアでは潜在的に最もポピュラーな植生であるため、さらにデータを蓄積・精査して河川流出量や蒸発散量の定量化とデータベース化を推進する必要がある。一方、常緑林では乾季でも樹木の蒸散活動が盛んであり、かつ河川流出も維持している。このような水文特性は、常緑林流域の厚い土壌層の水貯留に由来しており、その水循環機構を詳細に明らかにすることは、常緑林流域の水資源管理手法を検討する上で、欠くことのできない情報であることなど各森林の重要な特徴を抽出した。
- メコン中・下流域の森林開発や土地被覆変動を早期に把握するため、季節変化を含む森林の変化を準リアルタイムで捉えるアルゴリズムを開発した。この成果はアジアリモートセンシング学会でブースを借りて、2010年にベトナムで、2011年には台湾で報告し、大きな反響を得た。さらに、このアルゴリズムからワークステーションレベルの汎用PC上で動くソフトウェアを開発し、準リアルタイムでの森林開発監視を可能にした。メコン川中・下流域における森林変動情報が必要な人は誰でもアクセス可能である。これは、REDD+など広域の伐採監視に役立つことが期待されており、共同研究機関であるカンボジア森林局からも大きな関心が寄せられている。
- 連携サイトであるタイ国試験地では9-12年間の水文・気象のデータセットを整備した。また、水文・気象データに加えて、両試験地の2005年から2010年までの6年間のエネルギーと二酸化炭素フラックスのデータセットを整備した。
関連プロジェクト
- 「アジアモンスーン地域における人工・自然改変に伴う水資源変化予測モデルの開発」 文科省研究プロジェクトRR2002(2002-2006)
- 「地球規模水循環変動が食料生産に及ぼす影響の評価と対策シナリオの策定」 農林水産省研究プロジェクト(2003-2007)
- 概要
- メコン流域全流域を対象とするリモートセンシングによる過去20年間の植生変動解析やインドシナ半島メコン流域の水資源賦存量推定、カンボジア国における常緑林流域の水循環特性および森林立地環境、植生変動などについて研究を実施した。地上60mの高さの森林気象観測タワーなどを中心とした試験地を設営し、広範囲な試験流域を対象として森林環境にかかわる多様な要素のデータ取得を実施して、常緑林流域の年間水収支をはじめ、深部に分布する根系特性やモデルによる蒸発散量の変動推定など多くの成果を得た。
Back to HOME
Copyright (C) Forestry and Forest Products Research Institute. All Rights Reserved.