はじめに


 発展途上国の多くは、人口の急増、産業の著しい発展により水不足の地域が増大し、特にアジア諸国では急速な社会発展とそれに伴う森林開発、土地利用の転換、大量の違法伐採さらには地球規模での環境変動などが複合的に関連して洪水や旱魃などをはじめとするさまざまな社会・環境問題として顕在化している。この背景として、社会的には途上地域における人口増加と貧困問題があり、食料確保のために森林を伐採し、新たに開墾された農地では水需要が増加する一方で、伐採による森林の減少から大地の貯水能力をも衰えさせている現実がある。加えて、地球規模の気候変動や水循環変動により、地球上の降雨パタ−ンや降水量の地域的な分布の変化が予測され、洪水や旱魃による被害の拡大が懸念されている。このような諸問題の解決は、地域共通の重要課題であるとともにアジアモンスーン地域の一員であるわが国に深い影響を持つものである。地域住民の生活財としての森林資源と水資源について、その保全・利活用をどのように調和させるかはわが国と当該地域と共同で取り組むべき重要な課題である。

 インドシナ半島を含む東南アジアの熱帯季節林地帯ではさまざまな地域で個別に観測研究が行われてきた。しかしながら、インドシナ半島南部のほぼ中央部分に位置するカンボジアでは、2000年代はじめまでほとんど観測が行われておらず、森林流域での水循環についてはデータ蓄積の無い状態であった。カンボジアは現在急速に発展しているが、インドシナ半島において低地の平野部に多くの森林が残置している非常に貴重な地域である。このような平地に存在する森林はかつてインドシナ半島全域に分布していた可能性も高く、すでに開発されている他の地域では、山岳部など土地利用上困難性の高い箇所に分布している場合が多い。したがって、カンボジアの低平地に分布する常緑林、落葉林の森林流域を対象に詳細な水循環に関わる観測を行う体制を構築し、これをリモートセンシング情報と結合して既存の他地域の観測情報と連携させることで熱帯季節林地帯をカバーする観測システム構築を図ってデータセットを作成する意義は非常に高い。

 メコン川流域は、山岳林から熱帯季節林までが分布するが、水循環に関わる研究において、熱帯季節林の常緑林と落葉林の差異までに着目した評価は、未だなされていない。近年の研究において、熱帯域では常緑林と落葉林において、エネルギー循環・水循環季節変化の違いが温帯における差異よりも著しいことが指摘されている。メコン川流域の水循環変動を理解し、水資源の評価を進めるうえで、これらの現象を継続的な観測データに基づいて解明評価することが必要である。森林総合研究所および連携してプロジェクト研究を推進した東京大学大学院農学生命科学研究科森林理水及び砂防工学研究室では、カンボジア・メコン流域およびインドシナ半島における森林水循環変動を継続的に観測するため、基盤的な観測システムとして陸域生態系の中で固有の特徴をもつ森林流域を中心とした総合的な観測サイトを常緑林、落葉林、人工林を対象に平地や丘陵地に構築している。

 本Websiteは、これらの観測サイトを使用した研究成果を公表したものである。カンボジアの観測サイト関係では主に2003年以降の観測による成果のデータセットをとりまとめ、タイの観測サイトでは直近の研究プロジェクト期間に対応する研究成果のデータセットをまとめている。さらに、リモートセンシング関係では、直近のプロジェクト成果である森林開発検出システムについて、開発研究室である東京大学生産技術研究所沢田・竹内研究室とリンクしており、希望者が本システムを利用することが可能となっている。あわせて、2002年から開始した関連プロジェクトの成果であるリモートセンシングデータセットも閲覧可能となっている。本Websiteは、今後一層のデータセット充実を目指して、調査、観測を継続発展させる予定で有るが、現状では、2011年度で終了した直近のプロジェクト成果を中心に構成しており、すでに終了した研究プロジェクトの成果を一部組み入れたものとなっている。本Websiteが当該地域での水循環変動研究や森林保全・管理および環境保全等の活動のお役に立てれば幸いである。


プロダクト及びデータセットに関わる研究プロジェクト
  • 「メコン中・下流域の森林生態系スーパー観測サイト構築とネットワーク化」 環境省研究プロジェクト 公害防止等試験研究費(2008-2011)
  • 「地球規模水循環変動が食料生産に及ぼす影響の評価と対策シナリオの策定」 農林水産省研究プロジェクト(2003-2007)
  • 「アジアモンスーン地域における人工・自然改変に伴う水資源変化予測モデルの開発」 文科省研究プロジェクトRR2002(2002-2006)

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