接合研究室は、1988年(昭和63年) 10月に行われた、林業試験場から森林総合研究所へ改組時に発足した研究室で、その母体は、接合部の研究をしていた、当時の性能開発研究室である。 接合研究室の担当する研究範囲は、木材を機械的に結び付ける技術と木質系構造物の継手・仕口・接合部に関係するもののすべてであるが、主としては軸組部材の接合とその構造物について研究している。 以降は、接合研究室に所属する研究者が主体となって研究した、最近の研究の内容について簡単に紹介しているものである。紹介する以外の研究は、本文の最後に代表的なものについて一覧としてあげている。
農林水産省 林野庁 森林総合研究所 木材利用部 構造利用科 接合研究室 〒305 茨城県稲敷郡茎崎町松の里1 (筑波農林研究団地内郵便局 私書箱16号) Phone: +81-298-73-3211 ex. 585 facsimile: +81-298-73-3798
釘やボルト、ドリフトピン等を用いた接合部について、その1本あたりの強度や変形能力等、基本単位の機械的性質を把握する。また、それらを組み合わせて実構造物の接合部を構造計算する場合の、基礎的、基本的な資料として利用する。
一般的な最大面圧応力・初期剛性はもとより、応力-めり込み変形曲線・吸収エネルギーにも注目し、ベイマツについて、荷重角度(0,30,60,90)、割裂長さ(2d, 4d, 6d, 8d)、厚さ(2d)をパラメータとして実験結果をまとめ、@初期剛性、A最大応力、Bその変位、C最大めり込み変形、Dその応力、E積分値(ランベルグ法)について整理した。その結果、各パラメーターが荷重角度には逆比例、割裂長さには正比例した。ACDについては結果とハンキンソン式が適合するが、おおむね30°での適合性が悪く、また0°でのばらつきが大きかった。
ドリフトピン接合部の基礎的引張試験
ドリフトピン接合部のせん断割裂試験
釘接合部のクリープ試験
軸組木構造物の構造計算において接合部は、従来、軸力・せん断力のみを伝達するピンとして扱われ、モーメント伝達は全く評価せずに設計されてきた。この接合部をモーメント伝達出来る接合部として設計する方法を提示することは、構造架構の可能性を広げる点で有益であり、平面計画や空間計画に柔軟性を与え、大規模木構造や2方向ラーメン構造、多層建築物を実現する上で欠くことが出来ない。
十分な安全率を確保できる前提の下で、強塑性的な接合具の塑性領域を構造物全体の靭性に反映させると、より経済的な設計とすることができる。そこで鋼板挿入ドリフトピン接合部について、より経済的な設計法を提案し、実験でその正当性を検証した。*[ドリフトピン長さ] * 8d ~ 10d、*[端距離] * 7d、*[縁距離] * 4d、*[相互間隔] * 7d、(ここで、d:ドリフトピン径)の条件を満たす場合に限って、接合具降伏を接合部の短期耐力として提案し、検証では l = 9d ~ 20d に設定し、非常に粘り強い接合能力を確認した。
実大ト型モーメント抵抗接合部の繰返し加力試験
実大ト型接合部近影
実大門型モーメント抵抗接合部の繰返し加力試験
実構造物の現場加力試験
構造物を1方向的に考えると、大スパン等で梁部材の横座屈から強軸方向に塑性域に達する以前に耐力低下する場合や、接合金物が面外変形や局部座屈し大変形を起こしてしまう場合が見られたが、梁部材を格子状に組み合わせることによって部材及び接合金物の横座屈・局部座屈を拘束し、より有効に架構できるように実証実験により検討している。
1交点レベルでの部分実験では、同一接合金物で接合した1方向梁が横座屈して最大耐力に達したにも関らず、4方から部材が取付く2方向格子梁では、設計上十分な耐力と安定した破壊性状を得た。
格子梁基本単位俯瞰
格子梁基本単位の破壊加力試験
格子梁接合部減衰性能測定
モーメント抵抗接合法について考えを進めるつれ、大規模木構造物の柱梁接合部の現場施工性が悪く、普及の障害となっていることに気が付いた。この改善方法として、長ボルトや鉄筋挿入接着接合等様々なアプローチが為されて来ているが、接合部伝達効率があまり高くない。そこでラグスクリュー(コーチボルト)にヒントを得て、端部にボルトネジ切りを施したラグスクリューボルトを独自に開発した。
集成材による2方向純ラーメン架構の実現を目標に、写真に示す様なエンドプレート式接合法を考案した。梁と鋼板ガセット間の接合には、これまで研究を継続してきた鋼板挿入ドリフトピン接合法を採用した。柱と鋼板ガセット間の接合には2種類の接合法を用い、接合方法の違いによる剛性・耐力の違いを比較検討するために、実大十字型柱梁接合部試験体を作製し、静的正負交番繰返し加力試験を行った。 ラグスクリューボルト接合法と引張ボルト接合か?。またT型エンドプレートの柱支圧部分にラグスクリューをあらかじめ施工することによって、接合部剛性が上昇したことは?。
ラグスクリューボルトの施工
実大柱梁十字型接合部の繰返し加力試験
梁接合部の近影
実大引張試験
変位計設置状況
プレカット鎌継手の引張試験
純粋に木材のみで継ぎ手を構成することは、耐火性能・外観・施工性等の点から好ましいと考えられている。しかし、その継手仕口の力学的性能の評価は十分になされておらず、慣習によって加工・施工が行われ、構造設計を行う上で障害である。機械加工による時間とコストの削減や、大断面での寸法効果等を、構造設計し得る継手仕口として改めて見直している。
追掛大栓継手と金輪継手について、成100から300 mmの実大集成材継手モデルを引張破壊試験した。ここで木栓等の寸法に正角製材等で用いられている15 mmを採用し、断面寸法によらず一定とした結果、特に大断面では目違い部の局部的な破壊が支配的であり、通常断面のとは異なる応力歪み曲線を得た。継手各部分の寸法を再検討することによって、より高い継手性能を期待でき、また観察から集成材伝統継手は木材繊維が積層方向に連続しない点で製材に比べ割れに対して有利であるとしている。
実大2層門型フレームの繰返し加力試験
通直集成材を用いた剛節骨組架構の可能性の確認し、木質剛節骨組架構を可能とするモーメント抵抗接合法の開発を行った。モーメント抵抗接合を構成する個々の接合具の非線形性を考慮した非線形有限要素法の開発実大実験による非線形有限要素法の検証
鋼板添え板釘打ち接合、鋼板添え板ボルト締め接合、鋼板挿入ドリフトピン接合の3種類のモーメント抵抗接合法を開発した。異なる接合法を用いた3種類の実大(スパン8m)の2層門型ラーメンを製作した。実大加力試験と非線形有限要素法による解析を比較すると、釘接合ラーメンの挙動が最も精度良く推定できた。一方、ドリフトピン接合によるラーメンは先孔とピンの初期がたの影響が見られた。
梁成91 cmのダグラスファー集成梁の4点曲げ試験
寸法調整係数を用いることなく、任意のラミナ構成の集成材梁の曲げ破壊形数を予測する計算式の誘導。様々な梁成(30 cmから91 cm)、スパン(5.7mから12m)での実大試験による計算式の検証。
任意の等級、寸法、配置のラミナから構成される集成材梁について、危険断面のみを考慮することから曲げ破壊係数を予測する計算式を、多層積層複合梁の概念を応用して誘導した。曲げ破壊係数に及ぼす梁成の影響を、いわゆる「寸法調整係数」を用いずに誘導した式によって説明できた。ダグラスファー集成材を用いた実大曲げ破壊実験の結果と、モンテカルロ法を用いた計算予測値を比較した結果、誘導した式はおおむね妥当であった。
接合研究室を含めた木構造建築研究の成果を活かして、近年、大規模木構造建築が幾つか竣工している。写真の2つの建物は、接合研究室がその計画・施工に関して深く関りを持った代表的な建物である。
森林総合研究所・森林環境変動解析実験棟(茨城県稲敷郡茎崎町)
帯広営林支局(北海道帯広市)
木造建築物ばかりでなく、木造橋も大規模木構造物の一つであり、諸外国では数多くの実績がある。国内でも幾つかの実例があり、研究成果を活かして木造橋の計画にも積極的に協力している。
集成材箱型断面による木製アーチ橋
接合部近影
集成材箱型断面の3点曲げ試験
以降は、本文で前述した研究以外の接合研究室に所属する研究者が関連した、代表的な研究とその発表文献の一覧である。
1995年1月17日に発生した兵庫県南部地震では、数多くの尊い人命が住宅等の倒壊に巻き込まれて失われた。これに対して、森林総合研究所内外の現地調査に積極的に参加し、今後の研究の方向性を再確認した。
Snap Shoot