都市域における環境悪化の指標としての樹木衰退と微生物相の変動

山家義人

要旨

 都市化に伴う環境悪化の程度を,衰退度合を5段階に区分したスギとケヤキを指標として1972年から1976年にわたって調査した。調査対象は東京を中心とする100km圏内の関東地方と,千葉県の一部,福井県および京都市とした。いずれの地域でも市街地や工業地域を中心に樹木の衰退が認められる。衰退状況は地形や海抜高に強く影響され,低地に沿って広がり,山地で遮られるといった等高線状の変化となって現われた。同時にこの樹木の衰退を目安とした微生物相の変化についても,調査法および調査対象について検討を行い,広域に点在する芝生地土壌とササ葉面上の微生物のうち細菌と糸状菌について調査した。土壌微生物は周囲の植生や人為的な撹乱などによっても変化しやすく,わずかな距離でも結果がことなり,明瞭な結果が得られなかった。細菌と糸状菌では生活形態も異なり,分離法や培地についての検討も必要と思われたが,ササ葉面上の細菌数にはスギの衰退程度と対応すると考えられる変化が認められ,スギの衰退は環境の悪化が樹木だけでなく,スギ以外の生物にも与える影響をかなりの程度反映しているものと考えられる。樹木の衰退現象は,東京都内では一時ほどの激しさは認められなくなったが,大気汚染物質の一部である窒素酸化物や炭化水素などの量は横ばい状態にあり,夏期に起こるケヤキの異常落葉は,周辺地域では現在も広がりつつある。

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