五十嵐 豊
標高の異なる2つの地点(約1,000mと600m)に調査区を設け, 1973年5月から1978年3月までの5年間にわたって野鼡特にスミスネズミ個体群の動態を調査した。 両調査区で捕獲した野鼡は,スミスネズミ,ヒメネズミ,アカネズミ,カヤネズミの4種であった が,これら4種の捕獲割合は,両区において違いが認められ,1,000m区では,スミスネズミの割合 が圧倒的に高く,600m区では,カヤネズミを除く3種の割合が伯仲していた。カヤネズミは,両区 でときどき捕獲されたに過ぎず,その数はきわめて少ないものであった。
またスミスネズミの個体数の変動では,両区の間に大きな違いが認められた。すなわち5年間の 調査期間中に観察された,1,000m調査区の個体群の最大増加量は,約170頭/haに達したのに対し, 600m調査区では,約60頭/haで,1,000m調査区の1/3程度で低密度内での年次変動が認められた。 なお,繁殖活動は両区とも夏に休止がみられる1谷型であったが,その休止期間には両区間に相当 の違いが認められた。すなわち,1,000m調査区個体群では,7月,8月の2か月間,600m調査区個体 群では,6月から9月までの4か月間が繁殖休止期であった。また胎仔数では,両区の間に違いがな く,1頭から4頭の範囲で平均2.5頭であったが,母獣の体重が増加すると,胎仔数も増える傾向が 認められた。
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