林地肥培が渓流の水質に及ぼす影響

川添 強,吉本 衛

   要旨

 林地に施肥した場合の渓流水の水質変化を,福岡県八女郡矢部村 と熊本県下の矢部営林署第2境谷国有林の2地域で,2〜4年間継続して調査した。前者はスギ,ヒノキ林 における航空機施肥の影響を,後者はスギ新植地における側方施肥の影響を検討した。主な分析項目は pH,NH4-N,NO3-N,P,K,CaおよびMgである。
 航空機施肥の場合は渓流に肥料が直接に落下するために,施肥林内渓流水のPをのぞく各成分濃度は施 肥直後に一時的に高くなり,pHは低下した。その時のNH4-NおよびNO 3-N濃度は施肥前の水準の数十倍に達した。しかし数日後にはNO3-N濃度以 外はほぼ施肥前の水準にもどっていた。施肥直後をのぞけば施肥によるNO3-N濃度 の上昇は0.1〜0.2ppmで,施肥2か月後にはほぼ施肥前の値に低下した。また施肥直後でも下流では水質の 変化は見られなかった。側方施肥の場合に渓流水の水質変化が見られたのはNO3-N濃度だけであった。そ の上昇幅は0.1〜0.2ppm,最高で0.5ppm程度であったが,施肥後およそ2か月後にはほぼ施肥前の値に低下 した。この2つの調査を通じて施肥によって渓流水の水質が飲料水の水質基準以上になったのは航空機施 肥の施肥直後のみであった。しかしこの場合でも下流では濃度上昇が認められないので,施肥による濃度 上昇は問題にならないと考えられた。
 なお,この調査の中で各渓流間におけるpHやK,CaおよびMg濃度の順位はほぼ安定していることがわか った。また森林の皆伐によって渓流水のNO3-N濃度が上昇し,その程度は施肥による上昇より大きく数年 間続くことも判明した。

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