森林土壌の水分動態に関する研究(第2報)

森林土壌の水分および溶存成分の動態

有光一登

   要旨

 筆者の考案したテンションフリーライシメーターによって,森林 生態系内の物質循環の担い手としての土壌水分動態,溶存成分の動態を調べた。ライシメーターの毛 管連絡試験と,長野県志賀山(亜高山帯針葉樹林),静岡県浜北(丘陵帯アカマツ林),山梨県塩山, 東京都水源林(山地帯カラマツ・ヒノキ人工混交林と落葉広葉樹天然生林),奈良県上北山(山地帯 スギ・ヒノキ人工林)の4か所の現地試験の結果から概略以下のような結果を得た。
1. 筆者の考案したテンションフリーライシメーターは,ライシメーター集水の際に問題になるsoil- air interfaceでの土壌水の表面張力による滞溜を,土壌の毛管を利用することによって消去し,土壌 水の中の重力水(降下水)を捕集するものである。
2. 上記のことは筆者の行った毛管連絡試験によって明らかにされ,テンションフリーライシメーター によって捕集される水の動態は,不飽和土壌水運動理論の先駆的実験とされるWYCKOFF とBOTESTの行った実験結果と現象的に一致する。
3. テンションフリーライシメーターによって捕集される水の量は,一般に当然のことながら下層ほど 少ない。これは裏をかえせば森林土壌の貯水機能を表わしているともいえる。なお森林を伐採すると下 層土から土壌水流出がふえることが観測された。
4. 土壌水溶存無機態窒素の形態は各種森林下で区々で,低海抜地で硝酸態窒素が多いともいいきれな い。
5. 土壌水溶存硝酸態窒素とカルシウムの濃度の間に高い一次の相関が認められる事例が,山地帯の森 林土壌の水分でしばしば認められる。
6. 森林伐採による土壌水溶存成分濃度の変化は,上北山の例ではLIKENSらの認 めた硝酸態窒素濃度の高まり,それに伴う各種成分濃度の高まりは,伐採後約2年で低下してしまうこ とが認められた。なお,1回の伐採による変化は,土壌表層の堆積腐植層ではげしく,鉱質土層内での 急激な変化はないもののようである。

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