単木間の競合関係にもとづくトドマツの成長モデル(第1報)

樹冠の発達と材積成長量

猪瀬光雄

   要旨

 森林収穫量の予測のために必要な情報は,今日林分収穫表や 林分密度管理図など面積を単位とした資料をもとにしているが,局所的な立地条件の差異や諸被 害の影響によって林分内の均質性が保持され難いので,詳細な施業効果の分析が困難であった。 このため,トドマツを対象に,単木間の競合関係をもとにした人工林の成長モデルについて考究 した。樹冠を,隣接木などに妨げられずに自由に成長している部分を陽樹冠,それ以下を陰樹冠 として区分すると,陽樹冠形は陽樹冠長Clと樹冠半径Cwとの相対成長関係Cl= αCwβで表し陽樹冠曲線と名付けた。 また,隣接木との樹冠競合による樹冠の長さは,相互の陽樹冠曲線の交点を用いて,近似的に求 められることがわかった。さらに枝解析の結果から,陰樹冠の長さは5m以上に達する場合もある が,このうち,幹材積成長に関与する有効陰樹冠の長さは2m以内と推定される。また陽樹冠部分 の葉量と幹材積成長量の関係は,樹冠内部の生産能率の低い葉を除いた場合には比例的関係にあ るといえる。着葉量は樹冠の大きさと密接な関係があるが,過去の樹高から求めた陽樹冠長から 推定した陽樹冠容積増加量Cvと幹材積成長量Dvとの関係はDv=aCvbで表わせることがわかった。 これにより,樹高成長と立木配置をもとにした林分成長のモデル構成が可能であることが明らか になった。この結果をさらに発展させて樹幹上の材積成長量の配分関係から単木間の競合条件に 応じた細り形成のモデル化の検討を進めている。

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