マツの水分生理状態と対線虫病の進展

鈴木和夫

   要旨

 対線虫病が進展する過程で現れる樹脂参出量の低下,針葉の蒸散量の低下12〜3年生針葉の変色などの病徴発現について,マツの水分生理状態および樹体内でのマツノザイセンチュウの動態との関連において明らかにした。樹脂滲出量の低下は樹体の水分生理状態を反映した現象と,しない現象とに分けられる。感染初期の樹脂滲出量の異常は樹体内の線虫密度に比例して現れる部分的な現象であり,対線虫病に特異的な現象と考えられる。樹体内での線虫の移動および分散は速やかで,時間の経過にともない樹体内移動部では一様な線虫密度の分布状態を示す。一方,夏季にマツの針葉の蒸散量が著しく低下する時期が現れる。そこでこれを水ストレスと呼ぶと,わが国では梅雨明け後の夏にマツに水ストレスが目立って現れる。この時期とほぼ時を同じくして2〜3年生罹病木針葉の変色が現れ始める。そして,この後,樹体内の線虫数は著しく増大し始める。水ストレスはマツの生育環境に適応して気象条件や土壌の水分環境によっても引き起こされやすいものの,必ずしも外的条件と一致するものではない。このことから,水ストレスはマツの水分生理上の特性であってdrought resistanceの現象と考えられる。マツの水分環境を制御して線虫の接種試験を行った結果から,マツの水分生理状態が対線虫病の進展に重要な役割を果たすことが実験的に明らかにされた。すなわち,マツが氷ストレス下にあれば少数の線虫の接種頭数でもマツは速やかに枯死に至り,逆に,マツが好適な水分環境下にあれば樹体内に多数の線虫が存在してもマツは枯死を免れ得る。そして,野外では夏季に生ずる水ストレスを緩和すればマツは枯死を免れ得ることがある。この水ストレスを受けにくい水分生理特性が抵抗性要因の一つとして推測される。対線虫病によってマツが枯死する過程は水ストレス下のマツとマツノザイセンチュウの場で生ずる反応系で決定されるものと思われる。そして,この反応系がマツの代謝生理に作用を及ぼし,さらに強度の水ストレス下におき,枯死に導くものと推測できる。この反応系は水ストレスの程度と線虫数によって反応値が決定されるものと考えられる。この仮説に基づいて現実に現れるマツ枯損の現象を考察した。

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