(研究資料)

蒸発散量推定式の誘導過程の解説と林分への適用における問題点

服部重昭

   要旨

 林分や流域からの蒸発散量測定に関する理論,技術は,ここ10年ほどの間に急速な発展をとげ,蒸発散についての知識,データは飛躍的に増大した。そこで,現在利用されている推定法を測定対象の空間的スケールにより分類し,林分に適用可能な推定法を整理した。それらは空気力学法,エネルギー収支法,Penman-Monteith法である。わが国ではこれらの方法を用いて林分蒸散量が推定された事例はきわめて少ないし,推定法を体系的に解説した報告も見当たらない。これらの推定法を利用する際,その適用条件,パラメータの物理的意味についての知識はぜひ必要であると考えられるので,その基礎理論を含め,推定式の誘導過程と適用上の問題点をとりまとめた。
 空気力学法,エネルギー収支法では,2高度における風速,温度,水蒸気圧が必要であり,測器の配置が推定精度を支配することが指摘された。また,前者では大気の安定度も考慮しなければならない。一方,Penman-Monteith法は,1高度の水蒸気圧と温度でよいが,空気力学的抵抗と群落抵抗の推定が煩雑である欠点がある。ど の推定法を採用するかは,研究目的,外分の立地条件,利用できる測器の種類と数などによるが,推定精度を上げるには,二つ以上の推定法を併用することが望ましいと考えられた。また,傾斜地林分の多いわが国では,境界層の形成や移流に関する研究を進める必要があることがわかった。

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